第20話「最低限の責任」
オリビアは唖然として三郎丸を見る。
彼女にその発想はなかったらしい。
「わたくしは平和な世界で暮らしていた皆さんをこの地に呼び出し、戦いを要求する主犯ですよ? 友だちになれるはずがないです」
オリビアは目を伏せて内心を吐き出す。
「皆さんにこの世界で生きるための力と知識、情報が身に着けられるように尽くすのは、招いた者としての最低限の責任ですから」
と彼女は微笑んだが、三郎丸には泣いてるようにしか見えない。
「……お気持ちはうれしいですが、これが現実です」
と言ったとき、オリビアは普段の表情に戻っている。
切り替えが早すぎて、三郎丸たちが声をかけるヒマもなかった。
「ここ【ルーランの街】を案内いたしましょう。と言っても基本的な流れは変わりませんけど」
と言って簡単な説明をはじめるが、三郎丸が聞くかぎりたしかに似ている。
まず、街にある討伐者組合に顔を出して名乗った。
「新人の【ラッキークローバーズ】の皆さんですね。たしかに情報は共有されています」
初めて会う若い男性職員は驚きもせず彼らを受け入れる。
「皆さんは七級なので、七級のクエストを選んでください。あるいは向かうダンジョンを教えてください」
と男性職員は話す。
「組合でどこに行くのか、話すのですか?」
桜が首をかしげると、男性職員は苦笑いする。
「だってどこに行くか知らないと、もしものとき捜索ができないでしょう?」
「なるほど。組合に情報共有しておけば、いざというときに救援を送ってもらえるということですね」
三郎丸の言葉に職員はうなずいた。
「ええ。皆さんの生存率を上げるためにも、情報の共有をお願いします」
シビアな理由に【ラッキークローバーズ】の表情が緊張で引き締まる。
「今日はどうする?」
と桜に問いかけられて、三郎丸は七級の位置に貼られている依頼書をチェックした。
「……読めるんだよな」
知らない文字のはずなのに、という疑問はここでは飲み込む。
「俺はとりあえず戦闘経験を積んだほうがいいと思ってるんだが」
と彼は三人のメンバーの気持ちをたしかめる。
「それがメインの目的だもんね」
と真っ先にヒカリが同意した。
「断言するにはすこし早いけど、お金があればたいていは何とかなりそうだし、モンスターを倒して稼ぐのが現実的みたいだしね」
と桜も支持する。
「戦いに勝てなかったら意味ないんだろうしねー」
マヤはふたりと比べるとやや消極的だったが賛成に回る。
「決まりだな。モンスターと戦う内容の依頼は……あったけど、どうしようかな」
三郎丸は二枚の書類をながめながら迷う。
「どうしたの?」
桜が彼の隣に立って顔を見上げる。
「いや、日帰りでも終わるのはどっちかなと思ってね」
三郎丸は二枚の紙をとって彼女に見せた。
「【ジャイアントモンキーの掃討】と【ゴブリン退治】なのね」
やや距離をあけながら桜はのぞき込む。
「どっちもダンジョンでやればいいみたいだから」
と彼が書かれてあることを言うと、
「じゃあ受付で聞いてみましょう」
桜はカウンターに持っていって確認する。
「行動力があるなぁ」
陰キャの三郎丸にはすぐには行動に移せず、彼女がすこしまぶしく見えた。
「大人しそうに見えて実はぐいっと行くからねー、桜」
とヒカリがとマヤがけらけら笑う。
「そうなんだね」
このふたりと仲いいわけだ、と三郎丸は納得する。
桜は戻ってきて三人に話しかけた。
「どちらも期限はないみたいだから、時間がかかるなら別の日にやってもいいみたい」
三郎丸は入り口でひかえるオリビアに聞く。
「明日また来てもいいのですか?」
「ええ。皆さんの都合に合わせて動きましょう」
オリビアが認めたので、三郎丸たちはひとまず両方引き受けると決める。
「どっちからやる?」
とマヤが問いかけた。
「戦ったことがあるゴブリンからでいいんじゃない?」
とヒカリがまず提案する。
「経験という意味では初めて戦うモンスターが先でいいんじゃない? どちらも五体ずつ倒して部位を持ち帰るのが条件だし」
次に桜が意見を出す。
見事にわかれたことに三郎丸はすこし意外だった。
だが、すぐに何でも意見があうはずがないと考え直す。
「よーへいはどう思う?」
とマヤに問われて三郎丸はすぐに答える。
「ジャイアントモンキーとまず戦ってみて、余裕があればゴブリンも片づけてしまうって方法がいいかなと思う」
「理由は?」
ヒカリは真剣な顔をして問いかけた。
「逆だと仕事が終わる前に日没になるかもしれないだろう? ゴブリンならどれくらい手ごわいか知ってるから、あと回しにしても計算しやすいんじゃないかな」
「納得したからウチも賛成」
三郎丸の言葉に何度もうなずき、ヒカリは意見を変える。
「あーしも異論ないよ」
とマヤも言ったので方針は決まった。
三郎丸が受付に報告して、ダンジョンの場所を教えてもらう。
外に出たところで彼は口を開く。
「街を出て南東らしいんだけど、俺って方向音痴なんだよね」
「じゃああーしが先導しようか?」
とマヤが右手を小さくあげる。
「わたしたちの中で一番方向感覚が強いのはマヤちゃんだものね」
という桜の言葉に三郎丸はすこし意外だった。
一番しっかりしてそうな桜に任せるところだと勝手に思っていたからだ。
「お願いする」
「りょーかい」
マヤはおどけて敬礼をしてみせる。
彼女が先頭に立ち、そのすぐ後ろをヒカリと桜が並ぶ。
三郎丸はすこし離れて最後尾を歩いていたが、それに気づいたヒカリと桜がふり向いて彼に手招きをする。
彼は小さくうなずいてふたりに間に入った。
「洋平、遠慮しなくていいのに」
とヒカリが軽く彼の背中を叩く。
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