第14話「チームワークの成果」

「二階に出てくるモンスターって一階と変わらないね」


「このダンジョン、二階までしかないみたいだ」


 二階の探索を終わった四人は顔を合わせて相談する。


「ところでウチ、魔力がしんどくなってきたんだけど」


 綱島が苦悶の表情を浮かべて申告した。


「じゃあ俺が変わるよ。まだ余裕があるから」

 

 と言って三郎丸は右手で光を灯す。


「サンキュ」


 綱島はホッとして役目を終える。


「オリビア様の感想を聞きたいんですけど」


 三郎丸は自分たちの近くで見守っていたオリビアたち三人に意見を求めた。


「気づいていただければと思っていたことにたくさん気づく、とてもすばらしいチームでした」


 オリビアは会心の笑みを浮かべる。


「そ、そうですか」


 いままで見た笑顔の中で一番美しく、三郎丸は照れてしまう。

 

「やはり自分で経験して気づくほうが、学ぶのにも身が入りますから」


 とオリビアは語る。


 やけに実感がこもっているので、彼女の経験則なのかもしれないと三郎丸は感じた。


「あの、三郎丸のほうが魔力が多い気がするんですけど、何か理由があるんですか?」


 綱島が手をあげてオリビアに質問する。


「平均で言えば女性のほうが魔力は多いのですけど」


 オリビアは首をかしげながら答えてすこし考えた。


「魔力は毎日トレーニングすれば増やすことが可能です。コツコツ地道にやっていけば、ヒカリさんの魔力も増えていきますよ」


 と言うと綱島はホッとする。


「よかった。三郎丸のほうが負担大きいんじゃ悪いもん」


「ヒカリちゃん、一番負担が軽かったのってどう考えてもわたし」

 

 と本郷が彼女にアピールした。


「いやー、桜はモンスターの解体してくれたし、作戦参謀みたいなムーブでかっこよかったじゃん」


 綱島が笑顔で否定する。


「貢献度の低さならあーしでしょ。結局けん制でしか魔法使わなかったし」


 ほとんど出番のなかった竜王寺がふたりの会話に割って入った。


「いや、マヤが守ってくれるからウチや三郎丸が攻撃に専念できたんでしょ? ねえ?」


 綱島が三郎丸に同意を求める。


「うん、守ってもらえるという安心感はすごく大きかったと思うよ。ありがとう、竜王寺さん」


「あ、あーしは自分の仕事しただけだから」


 彼が礼を言うと竜王寺が視線をそらす。


「あと、りゅうおうじって言いにくくない? ふたりみたいにマヤでいいよ」


 すこし早口になって三郎丸に言った。


「え、うん。マヤさん」


 逆らえる空気じゃないと判断して、三郎丸は勇気を絞り出す。


「……さんづけって何かむず痒い。同クラじゃん」


 竜王寺は微妙な表情になった。


「いきなり呼び捨てはちょっとハードルが高いよ」


 勘弁してほしいと三郎丸は訴える。


「しゃーないじゃん? あ、ウチもヒカリでいいよ」


「わたしのことも桜で」


 綱島と本郷が乗っかるように要求した。


「え、ええ?」


 三郎丸は突然のことで混乱し、返答に困る。


「マヤだけ名前呼びだと意味深に聞こえるよん」


 綱島はお茶目な表情でウインクを彼に飛ばす。


「三郎丸くんが望むなら、別にかまわないけど」


 本郷のほうは淡々としゃべる。


「え、あっ、いや……」


 三郎丸はようやく綱島の指摘の意味を飲み込む。


「じゃあ、ヒカリさんと桜さん」


 ふたりも竜王寺マヤと同じように、微妙な表情になる。


「うーん、男子にさんづけされるって、何かしっくりこないね」

 

 綱島もむず痒そうな表情だ。


「いきなり馴れ馴れしく呼び捨てにしてこないのは、紳士的だけど」


 と本郷は三郎丸を擁護しながらも釈然しないという顔。


「でしょ?」


 マヤも含めた三人はうなずき合う。

 

「あの、わたしたちも洋平くんって呼んでもいい?」


 本郷が思い切った提案をする。


「え、それはいいけど」


 三郎丸としては断る理由を思いつけなかった。


「洋平くん。男子の名前を下で呼ぶって弟以来じゃ初めてだから新鮮」


 と本郷がすこし照れ笑いを浮かべる。

 三郎丸のほうも照れくさい。


 女子に下の名前で呼ばれるのは、幼稚園のとき以来だろうか。

 いつの間にか呼ばれなくなってしまっていた。

 

「ウチは洋平でいいよねー? ウチのこと、呼び捨てでいいからさー」


 と綱島は確認してきた。


「え、あ、うん」


 三郎丸は思わずきょどってしまう。


「じゃあ、あーしもよーへいで。きょどってて可愛いー」 


 とマヤがクスクス笑うが、バカにされている感じはしない。

 

「女子に名前呼びされるの、慣れてないので」


 どうせバレバレだからと三郎丸は正直に申告する。


「ま、あーしも慣れてないけど、そのうち慣れるんじゃない?」


 マヤの返事は彼にはかなり意外だった。


 竜王寺マヤはクラスどころか学年一可愛いと人気で、クラスの女子カーストのトップに君臨する。

 

 仲のいい男子も多いのだから、名前呼びの習慣はあるのだと思っていたのだ。


「うん? 何、その顔?」


 マヤに咎められたので、三郎丸はあわてて首を横に振る。


「いや、何でもないよ」


 男慣れしているという印象だった、と彼女たちに言うことが好ましくないのは彼でも理解していた。


 三郎丸は彼女たちから視線をオリビアに向ける。


「オリビア様、このあとはどうすればいいですか?」


 この問いで女子たちの視線も王女へと移った。


「本来なら反省していただくのですが、皆さんは優秀すぎましたから。気づいた部分を今後は意識して成長していただければ、大丈夫だと思いますよ」


 オリビアは好意的な笑みで応じる。

 四人の日本人はうれしそうにお互いの顔を見合せた。


「へへ、優秀すぎだってさ」


 と綱島が自分の鼻の頭をかく。


「やっぱりよーへいのおかげかな? リーダーとして頼りになったよね」


 とマヤが言い出す。


「賛成」


 桜はこくこくとうなずく。


「洋平、頼りになってカッコよかったよね。ウチも賛成かな」


 女子たちの評価がかなり高いと驚いた、というのが三郎丸の正直な感想だった。


「いや、つな……ヒカリとは前で二人三脚って感じだったし、マヤはしっかり守ってくれたし、桜は冷静な意見をいつも出してくれたし、チームワークの成果じゃないかな?」


 これも彼の率直な意見である。


 もっと頼りにならなかったり、ワガママな人間が混じっていれば、スムーズでストレスのない結果にはならなかったはずだ。


「では入手した素材を売りにいっていただきましょう」


 彼らの間で話がまとまったとみたオリビアは、「次」を告げる。

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