怒りに触れる時
「お、おぉ……っ」
「あれが……あれがグラドルおっぱいだとぉ!?」
「素晴らしい……あれこそ英知の賜物!」
「あれはいいものだ」
熱狂するクラスメイトに俺はため息を吐く。
今日は俺にとって大事な委員会の日であり、璃音と打ち合わせをしたことで準備はバッチリだ。
たとえ特にやることはなく決められた質疑応答をするだけとはいえ、俺も璃音の隣に並ぶ副委員長としてみっともない姿は見せられないからだ。
(……とはいえ、だ)
俺はチラッと、男子たちの視線の先へ目を向けた。
そこではうちの一組と隣の二組の女子がバレーをやっており、そこでとある女子の躍動に男子たちは興奮している。
(……デカい)
もうね……でっかいのよあれが――二つの揺れるアレがさ。
昼休み後の体育は二組との合同になり、とてつもなく広い体育館の中で俺たちは体を動かしていた。
体育館の半分を区切るように二クラスの男女で別れたが……それでも広いと感じるこの体育館は凄すぎる……流石常翔高校ってことか。
「……デカい」
さて、話を戻そう。
男子たちの視線を掴んで離さない女子の名前は西条梓――今をときめく人気グラビアアイドルその人だった。
「ナイス西条さん!」
「凄いよ梓!」
「いえ~い!!」
渾身のアタックが決まり、チームメイトに歓迎されている彼女の笑顔はとても綺麗だった。
その笑顔に心を撃ち抜かれている男子はもちろん、アタックのためにジャンプをした際に揺れた巨乳(Hカップと和田君情報)にも心を撃ち抜かれた男子は多い。
「中々綺麗じゃねえか」
「……流石アイドルってことか」
傍に居る晃弘と武もボソッと呟くほど……なるほど、確かに入学早々に何十人と告白されてもおかしくない子だ。
とはいえ彼女に匹敵するほどの可愛くて美人な子を幼い頃からずっと見てきた俺としてはまあ……そこまで惹かれることはなかったけど、俺みたいな奴が別に普通だろと傲慢なことを言うわけじゃなくて、彼女は普通に物凄いレベルの美人だ。
たぶん……璃音に出会ってなかったら俺もあの盛り上がる男子の一人になっていたかもしれないからな。
「お~い、六道変わってくれ~!」
「分かった~!」
さて、そんなバレーで盛り上がる女子たちだが俺たち男子はバスケだ。
さっきまで体を動かしていたチームメイトと入れ替わり、バスケの経験はそこまでないが出来ることをとにかく頑張るだけだ。
そうしてしばらく体を動かした後、さっきの男子みたいに俺は武を呼んで変わってもらった。
「後は任せた」
「うい~」
コートの外に出た俺はちょうど体育館の真ん中……男女の間を分けるネットの部分に腰を下ろした。
さて、もう一度言うがそこは男女が体育をしている境界だ。
つまり……。
「バスケ、お疲れ様です」
「あぁ」
彼女……璃音がそこに座っていた。
璃音は体の関係もあって体育の授業はもちろん受けれないため、体操服に着替えて見学をしている。
一応、彼女が病気で死にかけたというのは藍沢先生を含め教師陣には伝わっているので許されているわけだが……おそらく、その内不公平だとか色々言ってくる奴は現れるだろう。
その時は説明する必要は出てくると思っている。
「ところでナギ君」
「う~ん?」
「随分と彼女……西条さんのことを見ていましたね?」
「なんのことだ?」
……嘘、見られてた?
一つのネットを間に置き、背中合わせに座るからこそ彼女の顔を見なくて済んでいる……見れねえ絶対に見れない!
「そんなに大きな胸が良いんですか?」
「……正直に言うわ」
「はい」
「……男として、あれは見てしまうと思います」
「……まあ、いいでしょう」
おや……俺はどうも許されたらしい。
西条さんを見ていたと言われた時の声音は本気だったけれど、今の声は全然普通のもの……むしろ少し優しかったようにも感じる。
「私はあまり彼女のことを知りませんでしたが、今をときめく人気のグラビアアイドル……男子だけでなく、その容姿と明るい性格から女子からも頼りにされる存在のようです」
「へぇ?」
「高校生離れした抜群のスタイルとなれば、男子の……それこそナギ君の視線が奪われても仕方ないのでしょう」
「……自然と見ちまったからな」
「実を言うと私も見ました。私だけでなく、真名や他の友人たちも凄いと言っていましたからね」
あ、やっぱり女子から見てもそういう反応になるんだね……。
「ナギ君、あれほどではありませんが私も大きい方ですよ?」
「……お、おう?」
その声に後ろを振り向いたのだが、璃音もこちらを見ていた。
特に深い意味はないんだけど……璃音が大きい云々の話をしたせいで思いっきり視線がゆっくりと彼女の顔から下にズレて行ってしまい、流石に西条さんほどではないにせよそこそこ大きな膨らみに視線が向いた。
「ナギ君はエッチですねぇ。通報されないように気を付けてくださいよ」
「されねえよ!」
「幼馴染が変態行為で逮捕だなんて、そういうのは絶対に嫌なので」
「だからやらねえってこいつめ!」
「あ、だから髪の毛わしゃわしゃはダメですってば馬鹿ナギ君!」
間にネットがあるからって油断したなぁ!
ネットと一緒に頭を触ってわしゃわしゃしてやるわい参ったか璃音!
「ナギ君……一応授業の時間ですからね?」
「おっとそうだった」
いけないいけない、つい大事なことを忘れていたぜ。
少しばかり視線が集まってしまったが気にしても仕方ない……というか阿澄さんとかはずっとこっちを見ていたらしく、今もクスクス楽しそうに笑ってるんだが……見世物になっちまったな。
「髪の毛が少し乱れたじゃないですか」
「ふっ」
「何やってやったぜって顔してるんですかムカつきます」
「ほう? 璃音ちゃんはムカついたからどうすんのかなぁ?」
「……………」
璃音が無言で青筋を立てたのを見た俺は、速攻で自らの所業を悔い改めるようにごめんと口にした。
彼女はしばらく俺を睨みつけていたが、すぐに疲れたように息を吐く。
どうやら俺の命は助かったらしい……ふぅ。
「……このやり取りに楽しさを見出している時点で、私にとってナギ君は大事なんですよどこまでも」
「聞こえてるぞ……?」
「聞こえるように言ったんですよ馬鹿。あなたに一番効果的なのは照れる言葉だと分かっていますからね」
「……………」
よくお分かりで……って、それで納得するのもどうなんだ?
さて、そんな風にじゃれていた俺たちだが……ふと璃音が真剣な様子でこんなことを口にした。
「ナギ君、あなたは彼女がどう見えていますか?」
「彼女って……西条さん?」
「はい」
どう見えているか……人気のグラビアイドルってくらい?
しかし璃音のこの言い方……何かがあるなと俺は考えてみるが、どれだけ考えても分からない。
「少し注意深く彼女を見ていたら面白い物が発見出来るかもですよ」
「面白い物?」
それは一体……。
それから体育は終わり、程なくして放課後を迎え俺と璃音は委員会へと赴いた。
友人になった広大と話をする俺を璃音が不思議そうに見たり、璃音にちょっかいを掛けようとして生徒会長にキレられる先輩なんかも居たが、取り敢えず何事もなかったのは確かだ。
「……うん?」
委員会も終わって教室に戻った時、まだクラスメイトの姿はあった。
だがそこで俺はまた感じたんだ――気持ちの悪い視線を……いつか感じたあの視線を。
「ナギ君、大丈夫ですよ」
たとえ何があったとしても、璃音のその声が俺を安心させてくれる。
大丈夫だと安心させてくれるんだ……ずっとそうだった、ずっと璃音の言葉は俺をこんな風に安心させてくれたんだと再認識する。
さて、今週は家族間の食事会が主に大きなイベントとなるだろう。
そう思っていた俺だが……その翌日だった。
「……え?」
翌日、終礼の時間にそれは起こった。
勉強道具を鞄に入れる際、俺の鞄の中に本来あるはずの無い物が入っていたのだ。
「……どうして、それ私の財布……なんだけど」
俺の鞄の中に、何故か神代さんの高そうな財布が入っていた。
それを見た時に感じた悪寒……果たしてそれは誰から感じたのだろう。
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