43 謝恩会

「それでは、ただ今より中央ヤイラム魔進館1期生の謝恩会を執り行います。卒業生代表は私、エレーナが務めさせて頂きます」


 寒冷期の終わりに近づいたエデュケイオンで、「魔進館」にはユキナガと塾長ノールズを含めた全ての講師と12名の卒業生が集まっていた。


「卒業証書の授与に先立ちまして、魔進館の先生方に贈る感謝の言葉を読み上げます。私たち1期生は昨年度の今と同じ頃、新たに設立されたこの塾、中央ヤイラム魔進館の門を叩きました。その時の私は2回目の狼人生活が決まったばかりで……」


 立食形式の宴会に備えてあらかじめ机が撤去された大会議室の壇上に立ったエレーナは、卒業生代表として講師たちへ贈る言葉を読み上げていった。


 彼女は入試期間には中央・西部群に所属し、元々の志望校であったジュテンダ魔術学院に加えて大陸西部のカッソー魔術学院、そして私立魔術学院御三家の一角であるジーケ会魔術学院にも合格を果たした。


 卒業生で「御三家」のうちケイーオ私塾魔術学院に合格した者はおらず、エデュケイオン魔術学院に合格したのはエレーナともう1名のみ、そしてジーケ会魔術学院に合格したのはエレーナのみであった。


 最終的には合格した学校の中で最も入試難度が高いジーケ会魔術学院への進学を決めた彼女は1期生の総意を受けて代表に選ばれ、謝恩会で贈る言葉を述べる栄誉を手にしていた。



「エレーナさん、感謝の言葉をありがとうございます。これより塾長のノールズ先生から12名の卒業生に卒業証書が授与されます。イクシィ君、オイコット魔術学院進学!」

「はいっ!」


 謝恩会の司会を任されていたユキナガは、エレーナが壇上から去ると卒業証書の授与を開始した。


 指名されたイクシィは元気よく返事をして壇上に上がり、12枚の卒業証書を持参したノールズからその1枚を受け取った。



 合格発表の結果、イクシィは最も進学したかった学校であるエデュケイオン魔術学院には不合格となった。


 結果的には既に入学手続きを済ませていたオイコット魔術学院にそのまま進学することとなり、「御三家」への合格は果たせなかったが地元で人気の高い私立魔術学院に合格できただけで彼とその両親は満足だった。


 元々ある程度の学力があったとはいえたった1年間の受験生活で受験した12校中8校への合格を果たしたイクシィの戦果には目を見張るものがあり、少し前にユキナガは彼への取材を「魔進館」の宣伝記事としてまとめていた。


 オイコット魔術学院は中央ヤイラムにあるイクシィの実家から徒歩で通える距離にあり、進学後も当然実家から学校に通うイクシィは来月から魔術学生生活のかたわら「魔進館」のチューターとして勤務することになっていた。


 来年度で開校2年目となる「魔進館」にとって卒業生のチューターはイクシィが初めてであり、彼は卒業後も「魔進館」に恩返しをしたいと話してくれていた。

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