37 東部遠征

 手配しておいた5台の輸送車が校舎の前に到着し、3名の講師と12名の塾生たちは荷物を抱えて魔動車に乗り込んだ。


 輸送車は中央都市オイコットの中心部にある魔術転送所まで走り、運賃を支払って魔動車を降りると講師と塾生たちは3つの群に分かれてそれぞれ別の台座に登った。


 台座からまばゆい光が溢れ、ユキナガとイクシィを含めて5名の生徒たちは瞬時にして地方都市イシェリアの魔術転送所に転移していた。



「先生、これが魔転まてん装置なんですね。初めて利用したので驚きました」

「本当に便利な施設だね。君たちはあと2回お世話になるけど、今年度のあと2回だけで済むように頑張ろう」


 現在のエデュケイオンにおいて魔術転送所は基本的に要人の移動や物資の輸送にしか使われていないので、瞬時にして大陸の中央部から東部に移動するという経験にイクシィは目を輝かせていた。


 魔転装置の便利さに驚いている生徒たちを引き連れ、ユキナガは地方都市イシェリアの宿場街を目指した。



 目的地には徒歩で十数分ほど歩くとたどり着き、事前に予約しておいた宿屋でユキナガは宿泊手続きを済ませた。


 宿屋の客室は3人部屋を2つ予約しており、1部屋には3人の男子生徒が、もう1部屋にはユキナガとイクシィと1人の女子生徒が泊まることになっている。



「……さて諸君、ここで私の荷物を開封しよう。この大きな荷物を持ってきたのは他でもない」

「ユキナガ先生、それって何か面白いものですか? この辺りの観光案内とか……」

「気持ちは分かるが、残念ながら君たちに観光をしている余裕はない。ほら、見てみなさい」


 興味深そうに質問した女子生徒に首を振って答えつつ、ユキナガは3つの置き時計を取り出した。


「これは単なる時計に見えるが、実は指定した時間を計って効果音を鳴らす機能がある魔術時計なんだ。これまでは塾の時計で試験時間などを計っていたけど、これがあれば時計がない場所でも時間を決めて問題を解くことができる。特注品なので手に入るのが遅れてしまったが、今日からは入試当日までこの魔術時計を使って問題演習を繰り返そう。では昼食前に数術の過去問を解いてみようか」

「は、はい……」


 ユキナガはそう言うと5人の生徒全員が受験するイシェリア魔術学院の数術の過去問を取り出して配り、生徒たちは今日から始まる直前期の追い込みに緊張しつつも問題冊子をしっかりと受け取った。



 エデュケイオン東部には3つの魔術学院があり、公立のナーガル大陸魔術学院と私立のイシェリア魔術学院、チアジス魔術学院がそれに該当する。


 東部は私立の2校を受験して終了となるが、どちらも入試難度は中程度でありここで合格を勝ち取れるかどうかはより難しい魔術学院の合否にも影響してくる。


 イシェリア魔術学院の入試は3日後、チアジス魔術学院の入試は5日後であり、2日後に北部のロークン魔術学院を受験してから東部に来る大陸全域群の生徒に比べれば時間的余裕はあるもののそれだけにどちらかには合格を勝ち取りたい。



 5人の生徒を一室に集めてイシェリア魔術学院の過去問演習を開始しながら、ユキナガはいよいよ始まった入試期間に向けて覚悟を固めた。

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