12 魔獣襲来

「どうしたんだ、何かあったのか!?」

「ま、魔獣が、そこに……」


 ユキナガが生徒のもとに急行すると、路地に開いた通路には狼を一回り大きくしたような魔獣の姿があった。


 厠に向かう通路は塾の建物の裏側にあり、魔獣はリナイたちの警戒を回避して裏口から侵入しようとしていたのだろう。


「今すぐ屋内に逃げなさい! 私は元騎士の先生を呼びにいく!」

「は、はいっ! あっ……」


 ガルガルと唸り声を上げる魔獣に対し、生徒は厠に向かう方向とは反対に逃げ出したが途中で通路の石畳につまづいて転倒した。


 背中を向けて無防備な姿をさらした人間に、魔獣は大きく口を開いて飛びかかろうとした。


 そして守るべき受験生が命の危機に瀕している場面に、ユキナガの身体は無意識のうちに動いた。



「危ないっ!!」


 魔獣が後ろ足を踏み出す寸前、ユキナガは魔獣に向けて右手をかざした。



 その瞬間、ユキナガの右腕から鮮紅色の光がほとばしり、その光は炎となって一直線に魔獣へと突き進んだ。


 魔獣の全身は激しい炎に包まれ、苦痛に悲鳴を上げる間もなく魔獣の姿は通路から消滅した。




 魔術師ではないユキナガが攻撃魔術を放って魔獣を消滅させたことは、魔獣が炎に包まれる光景を見ていなかった生徒にも理解できた。


 生命の危機を救われて安堵すると同時に魔術の発動への驚きで、生徒は通路に倒れたまま呆然とユキナガを見上げていた。



「……君、先ほど見たことは誰にも他言しないで欲しい。すぐに次の試験が始まるから、手洗いを済ませてきなさい」

「わ、分かりました! 助けてくださりありがとうございます!!」


 生徒は模試のことを思い出して我に返り、そのまま厠に向けて駆けていった。



(……なぜ、私に魔術が使えたんだ? この世界では魔術師以外は魔術を行使できないはずだが……)


 この世界に転生してから、ユキナガは自分が理論魔術も含めた高等学校までのあらゆる学問の知識を転生の際に与えられていることを悟った。


 しかし上級学校で教わる学問についての知識は一切与えられていなかったし、この世界では理論魔術を履修しているだけでは魔術を行使できない。


 にも関わらず、自分は応用魔術の中でも高度な魔術に相当する攻撃魔術を行使することができた。



 生徒には口止めをしておくことができたし証拠がないため魔術師でないユキナガが魔術を行使したことで罪に問われることもないが、ユキナガは自分自身の秘めた能力に恐ろしさを感じた。

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