8 目標得点率
「なるほど、君たちはそれぞれ明確な目標を持って受験に臨んでいるんだね。素晴らしい心がけだが、今のところ勉強の進捗はどうかな? 学科試験の目標得点率はちゃんと決めているかい?」
「目標得点率、ですか? 学科試験の合格点はそれぞれの士官学校が大まかに発表していますが……」
不思議そうに言ったジェシカを見て、カンラも目標得点率という言葉の意味を尋ねてきた。
「君たちの志望校の合格点はまだ調べていないけど、受験勉強には目標得点率を設定することが本当に大切なんだ。ジェシカ君、ミサリー士官学校の科目ごとの配点と合格最低点は覚えているかな?」
「ええ、現代国語、亜人語、数術の配点が200点ずつで、選択科目が100点です。合計700点で、合格点は420点から450点ほどだそうです」
記憶をたどりつつ、ジェシカはここ数年の合格点を大まかに述べた。
「だとすると、ジェシカ君は少なくとも700点中490点は目指したいね。これが目標得点率という概念の第一歩なんだけど、これを実現するにはどうしたらいいと思う? では、カンラ君に聞いてみよう」
「えーと、理論上は全科目で7割以上得点できればいい訳ですから、苦手科目をなくせばよいのでは?」
「もちろん、それができれば言うことはないね。だけどジェシカ君には苦手科目はないのかな?」
「いえ、私は昔から数術が苦手で、学校の定期試験でもあまりいい点が取れないんです」
苦手科目の有無をはっきりと尋ねたユキナガに、ジェシカは情けなさそうな表情で答えた。
「それじゃあ、逆に得意な科目はないかな?」
「現代国語と亜人語はそこそこ得意で、定期試験では7割以上の得点はいつも取れています。選択科目の歴史学は6割ぐらいですけど……」
「なるほど、それなら何も問題はない。これを見てくれ」
ジェシカの返答を聞き、ユキナガは自学自習室の前方にある黒板まで歩み寄ると黒板の下部に置かれていた石灰石の塊を手に取った。
科学界の言葉ではチョークと呼ばれるそれを手に取ると、ユキナガは黒板に以下のような表を書いた。
現代国語 160/200
亜人語 160/200
数術 110/200
歴史学 60/100
合計 490/700
「これが目標得点率というものだ。合計で7割の得点率を目指したいからといって、何も全科目を7割以上にする必要はない。ジェシカ君は現代国語と亜人語で点数を稼ぎ、歴史学は6割を押さえて数術は半分と少しの点数を目指す。無理に数術を得意になろうとするより得意な現代国語と亜人語を活かして受験を乗り切るべきだよ」
「ユキナガ先生、これが目標得点率という考え方なんですね。数術の成績がなかなか伸びなくて悩んでいたけど、このやり方なら合格できそうです」
感心しながら言ったジェシカに、話を聞いていたカンラも納得した表情で頷いていた。
「カンラ君とも後でカッソー士官学校の目標得点率について相談しよう。ところで、君たちは模擬試験はもう受けたかな?」
「模擬試験? 学校の定期試験は受けていますけど、模擬試験とは何ですか?」
首をかしげて尋ねたカンラを見て、ユキナガはこの世界には模擬試験というシステムが存在していないということを知った。
「そうか、よく分かった。それについては君たちは気にしなくていいから、引き続き士官学校への合格を目指して頑張ろう。授業内容についての質問は他の先生に任せるけど勉強方法に関する相談にはいつでも乗るよ。今後ともよろしく!」
「はい、お願いします!」
元気よく答えたジェシカと恐縮して頭を下げたカンラに頼もしさを感じつつ、ユキナガは次なる教育改革に向けて動き出す決意を固めた。
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