第1章 運命に従う者、抗う者の始まり

小学校を卒業してから早1ヶ月。俺の尊敬する先生から、

「中学校でも自分らしく生きろ!」

と言われ、その通りにしたところ……


「おい、あの1年どこいった!?」


「調子に乗りやがって、今度ばかりはまじ許さねー!」


と、絶賛ピンチ中。

いや、だってさ、とりあえず1ヶ月はランニングって、昭和かよ!

しかも俺の方がそもそもバスケうまいし。


ってことで少しだけ、ほんの少しだけ自分の意見を言ったら…これだよ。



「だから学校の部活は……」


「まあでも、そんな学校に入学したんだから。郷に従えってやつね。」


「うぉ、里穂先輩!?」


いつもいつの間にか隣にいて、俺を驚かせるこの人は、2年生の木崎里穂きざきりほ先輩。

次期生徒会長と噂され、勉強は常に学年5位以内。英語もペラペラ。しかも人望もあり、先生たちからも一目置かれている。あとついでにとっても美人。


小学校の頃から児童会でお世話になっていて、部活の先輩様達とは違い、本当に頼れる先輩だ。


「んで太陽、今回は何を言って怒らせたの??」


「いやー、今時1年生はとりあえずランニングは古いかなーって、ちょっと意見具申を……」


苦笑いの俺に、ため息をつく里穂先輩。


「太陽、確かに1ヶ月前まではあんた児童会長でバスケ部部長だったけど、今はぺーぺーの中学1年生なのよ。納得いかないことにいちいち噛み付いてたら、これから先大変よ。」


「でもさ、富士先生には自分らしく生きろって言われたし。」


「そういえば私も2年前に言われたなー。富士先生元気にしてるかなー?」


里穂先輩、顔が乙女モードになってる。先輩、先生のこと好きだったもんなー。てか今も好きなのか?


「あっ、太陽のやろーこんなところにいやがったのか!」


「やべ、見つかった!」


先輩と話してたら、先輩様に見つかってしまった。早く逃げないと……


「里穂先輩、俺逃げるっす。」


「じゃあ私も逃げるー!

実は生徒会の仕事ほっぽって来ちゃったんだよねー。」


「先輩、相変わらずっすね……よしっ、逃げましょう!」


先輩、本当に自由だなー。まあ俺も人のこと言えないけど。

富士先生、あなたの教え子達は、みんな中学校でも自分らしくやってますよ。





同時刻


「海斗先輩、付き合ってください!」


放課後の空き教室。今まさに、1人の少女が勇気を出して想いを告白したところ。

まさに中学生、青春まっさかり……なのに。


「ごめん。俺、今はサッカーに集中したいんだ。それじゃあ!」


と速攻振ったこの人、名前は本田海斗ほんだかいと先輩。2年生でサッカー部のエースストライカー。超イケメンなのに、残念なことにサッカー一筋で恋愛への興味0。



告白した子、かわいそうに……



と、凄惨な場面に出くわしてしまったわけだが、先輩と幼なじみなだけに、なんか気まずい。


ちなみに先輩はそんなことはお構いなしみたいで。


「おー、若葉!今から部活かー?一緒に行こうぜー。」


振られた子は放置のまま、無理やり肩を組まれて教室を退場。

ごめんね、見知らぬ女の子。


「先輩。まじでいつか誰かに刺されますよ。」


「おいおい若葉、怖いこと言うなよー。俺がサッカー以外に興味がないこと知ってるだろ?」


まだ1年生の半数は先輩のことイケメンでサッカー部のエースだってことくらいしか知りませんよ。


「ほんともう、海斗先輩はー。」


まあそういう何か一つに一途な人って素敵だなーって思いますが。私の幼なじみにはそういう人が多いから。


「そういや、若葉のことかわいいって言ってるやつ、2年生にもいっぱいいるぜ。今度紹介しようか。」


「げっ、先輩私がどういう性格か知ってますよね。先輩の株が下がりますよ。」


「まあ確かに男勝りで自由奔放だからなー、付き合う方は苦労しそうだ。てか、富士先生の教え子ってみんなそんな感じだよなー。」


確かに、元富士学級の人達はみんな自由奔放だ。そして、その代表格が私達だからなー。



楽しかったなぁ、あの頃は。



と私達が話していると、何やら外が騒がしい。誰かが追いかれられているみたいだけど……


「んー、太陽がまたバスケ部の連中に追いかけられてるぞ。あいつこりないなー。」


そしてなぜか里穂姉……先輩も一緒に逃げてる。どういう状況??


ちなみにこの2人も私達の幼なじみ。

特に太陽こと浅間太陽あさまたいようとは家も隣、小学校のクラスもずっと一緒。当然今年のクラスも一緒。

周りからはよくお似合いカップルだ、美男美女カップルだ言われているが、お付き合いはしておりません!

そもそも私は美女じゃないし!!


「旧校舎に逃げるみたいだな。でもあそこ外からは鍵がかかってて入れないし……

よし、ここは幼なじみとして1つ手を貸そう。

若葉、行くぞ!」


「えー、私部活なんだけどー!」


サッカー一筋って言ってるくせに、こういうときはお構いなしなんだから。


まぁでも幼なじみのピンチだし。仕方ないか!


私たちは旧校舎へ向かって駆け出した。




またまた同時刻


「このままじゃ捕まる……先輩、まずいっす。」


里穂先輩のスピードに合わせてたら、いつの間にかだいぶ距離を縮められている。このままじゃ追いつかれるのも時間の問題なのだが……なぜか先輩はニヤリと笑う。


何か考えがあるようだが……


「太陽。私を誰だと思ってるの?こんなこともあろうかと。ジャーン。」


と取り出したのは、鍵?どこの?


「旧校舎のかぎだよー。さぼっ、集中して仕事をするために拝借しておいたのだよ。」


「生徒会ってなんでもありなんすね。」


ただ、確かに旧校舎に入ってしまえば中から鍵をかけられるし、校舎側からの入り口も閉めてしまえば篭城できる。絶好の隠れ家だ。


「じゃあとりあえず俺が先に行って鍵を開けておきます!」


先輩から鍵を受け取りスピードを上げた。本気で走れれば、少なくともバスケ部の中で俺に追いつける人はいない。


そして旧校舎にたどり着き、鍵穴に鍵を差し込んだその時。





『おまえに世界を変える信念はあるか。』 





しゃがれた声が頭に響く。なんだこれ。

なぜか手が震える。とてつもなく嫌な予感がする。

何かとんでもないことが起きる気がする。



この時、引き返して先輩の説教を食らっていれば……

文句を言わずにみんなと一緒にランニングをしていれば……


これから先、何度もそう思うことになるんだ。



「何やってんの!早く鍵開けて!」


里穂先輩の声に押されて、鍵を回す。


ガチャリ!


とドアの開く音が聞こえたと同時に、俺と里穂先輩は、学校から跡形もなく消え去ることとなった。









平和な日常と共に




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