#11 ダンジョンの奥に進んでみた その2

 最初の分かれ道を右へ進んで暫くするとアイが突然、こちらへ振り返って走り出して俺の後ろへ回り込んで隠れるように背中にしがみついた。


「な、何だ?」


〈どした?〉

〈何かいた?〉

〈どこ行った?〉


 リスナーも困惑。

 誰も居ない空間を写していても仕方がないのでカメラを反対に持ち、アイが写るようにカメラのレンズを背中の方へ向けた。


〈いた!〉

〈怯えてね?〉

〈カイザーそこ代われ〉


「どうしたんだよ」

「……オバケ……いた」

「オバケ!? んな、バカな」


〈見えなかった〉

〈いた?〉

〈何もいなかったような〉


 リスナーも俺と同じ意見。

 オバケなんてキャストを俺はダンジョンに呼んだ覚えはない。


「……見てきて……居るから」

「どこに?」

「……そこの左……壁がボコッて出てるとこ」

「わかった。見てきてやるから手を離せ」

「……やだ」


 手を離しそうにもないから、しがみついているアイに構わずそろりそろりとオバケが居るという場所へカメラを向けて足を進める。


〈ホラー配信?〉

〈カイザー取り憑かれるんじゃね?〉

〈ホントにいたら怖い〉


 オバケなんて居てたまるか。

 もし本当にオバケが居たなら、配信が終わった後に不動産会社へすぐに電話して問いただして、事故物件だったら家賃の値下げ交渉してやる。

 ゆっくりと近付いて行って手前辺りでなんとなくオバケの正体がわかった。

「なるほど。これか」


〈どゆこと?〉

〈いないじゃん〉

〈カイザーとアイちゃんだけ見えてる説〉


「アイ。お前が見たのはオバケじゃなくて、ここの出っ張りの部分で作り出された影だ」

「……影? オバケじゃない?」

「そう。ほら、そこから出っ張りを見たままこっちへ歩いてきてみろ」


 アイを1度後退させてから歩いて来させる。ビクビクしながら歩いてきたアイは出っ張りのとこまで来ると体の震えがピタリと止まった。


「な? 影だっただろ?」

「……知ってたし……カイザーがオバケが居るって言うから……驚いたフリしてあげてただけだし……アイはオバケ怖くないし」


 勘違いであれだけ怖がっていたのがよっぽど恥ずかしかったのだろう。

 演技だと言って嘘をつく。


「俺は言ってないが!?」

「……言ったし……アイ、嘘つかないもん。……それにオバケなんていないし……科学的に有り得ないし……」

「もうそういう事でいいよ……」


 それによく喋る。

 恥ずかしさを誤魔化す時だけじゃなく、普段もこれくらい饒舌だと有難いのだが。

 こんな所でいつまでも立ち止まっていては面白味がない。それとエンディングで告知もしたいからサクサク進んで行きたいところだ。


「オバケはいなかったんだから、先に進もうぜ」

「……うん……オバケだって……ぷぷぷ」


 何か腹立つなー。

 オバケうんぬんを言い出したのはアイなのに、あたかも俺がオバケを信じているみたいに仕向けた挙句、それをほくそ笑むとか。

 まぁアイの気が紛れたならいいんだけども。

 暫く歩くとまた分かれ道。今度は左右だけでなく真っ直ぐも加わった3つの道だ。


「今度は3つだな。どれにする?」


〈これは迷う〉

〈これも右だろ〉

〈真ん中が怪しい〉


「……うーん……右」


 またもや右を選択。


「おっけー。ちなみに聞くけど、何で右なんだ?」

「……同じのにしないと覚えられないから……」


 俺がマッピングをしている事をアイはすでに忘れているようだ。

 自分の力でなんとかしようとしている事に感心する。今回の配信でアイは着実に成長しているみたいだ。


「んじゃ、右へ行こうか」

「……うん」


 右を選んだのはある意味正解だった。

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