#6 目標を立ててみた

「これは?」

「……ママにお友達のおウチに遊びに行くって言ったら……手ぶらじゃダメだから菓子折り持って行きなさいって……だから、ここに来る前に買ってきた」


 遅れた理由はこれか。

 包み紙に書いてある物は『ういろう』。それがもしが入っているなら、隣の県まで買いに行ったようだ。

 ただ話をするだけの為にここまでするとは何とも律儀な。

 折角買ってきてくれたのだから遠慮なく貰うとしよう。


「おい……何で離さないんだ?」


 菓子折りを受け取ろうとしたが、アイは箱から手を離さない。それどころか結構強く引っ張っているのにビクともしない。


「……アイも……食べたいもん」

「一緒に食えばいいだろ」

「……全部……食べたいんだもん」


 強欲! 飲み物の指定と催促に加えて持ってきた菓子折りを全部食うと言うアイを強欲と言わずして何という。


「じゃあ、何で持ってきたんだよ」

「お腹空くと思ったから……それと……ママがちゃんと買ったら……お釣りくれるって言ったから」


 母親のお金で買った菓子折りを全部食べると言い張るだけに留まらず釣り銭まで懐に入れるとかどんだけちゃっかりしてるんだ。

 まだ本題にすら入っていないのに押し問答していても仕方がないから菓子折りは諦めよう。ちょっと食べたかったけど。


「わかったよ、好きなだけ食えよ。兎に角、食いながらでいいから話をしよう。じゃないと、話が一向に進まねぇから」

「……やったぁ……へへ」


 菓子折りから手を離すとすぐさまアイは包み紙を破り捨てて箱の蓋を開ける。中には手のひらサイズのういろうが6色各1個入っていた。

 どの色が何味なのか気になりつつ、アイがういろうを頬張るのを眺めつつ本題をきりだす。


「まず始めに最低ラインの目標を立てようか。目標を達成したら次の目標を立てての繰り返しをして最終的な目標を目指すんだ」

「……目標……うーん……収益化」


 収益化をするには幾つかの条件があるとネットで調べはついている。

 今までネカフェに通ってアイの配信ばかり観ていたわけではない。ダンジョン配信や配信というものを少しでも知らないとダンジョンの人気を上げるのは難しいと思ったからだ。


「収益化か」


 条件として登録者数と総再生時間を増やす必要がある。アイのチャンネルだと総再生時間は足しになるが、登録者数に至っては始めたばかりと大差ない。

 新しくチャンネルを立ち上げるかこのままでいくか考えどころだ。


「収益化を第1目標として、配信スタイルは基本的にはライブ配信でいいよな?勿論、動画も出来れば上げていく方向で」

「……うん」

「チャンネルはどうする? 俺とアイが2人で配信するのか、それとも配信はアイがやって俺はカンペや企画立案をやる感じか」

「……うーん」

「前者なら今とは別のチャンネルを立ち上げた方がいい。周知されていない今だけならあまり問題ないけど、周知されるにあたって最初はアイ1人だったのにいきなり俺が湧いて出てきたみたいになるから。それなら最初からコンビとしてチャンネル開設をした方がいいと思うんだ。総再生時間とか勿体ないけどそれはそれとして、今のアイのチャンネルはアイの好きなように運用すればいい」

「……このままでいい……カイザーは湧けばいい」

「俺をモンスターみたいに言うなよ。まぁアイがいいって言うならこのチャンネルのままいこう」

「……うん」

「次に配信頻度と時間、配信内容をどうするか。アイの希望から聞こうか」

「……毎日……1時間以上……ダンジョンを冒険」


 どの口が言ってんだ?最近、毎日配信になったけど、配信時間は長くて30分。内容に至っては冒険もクソもダンジョンに入ってすらいない。

 幾ら希望といってもアレもコレもは出来ないのではないだろうか。


「毎日1時間以上の配信は出来るとしても……ダンジョンを冒険って、お前ダンジョンに入れないだろ」

「……カイザーが入る」

「アイは?」

「……入口で待ってる」

「何で!?」

「……怖いから」

「いやいやいや。アイがダンジョンに入って配信しないと意味がないだろ。アイのチャンネルなんだし。ここ俺のダンジョンだからな?企画の1つとしてコンビである俺がメインで何かする時があってもいいとは思うけど」

「……カイザー……ワガママ」

「何でそうなんの!?」

「……仕方ないから、アイが頑張ってやってあげる……ふふん」


 何だか威張りくさっているアイ。


「頑張って入れるのか? 3年間1度も入れなかったのに?」

「……今、入ってるもん……ダンジョン攻略したもん」


 俺が招いたのにあたかも自ら勇んで入ったような口ぶり。おまけに攻略したとか言い出した。


「いや、ダンジョンだけども。ここは生活空間なだけでダンジョンそのものとは少し違うんだよ」


 あくまで2LDKの部分は居住スペース。俗にいうダンジョンはまた違う。普通に考えてダンジョン内に住むとか不便過ぎるし。


「……無理かも……」


 居住スペースだとわかったのか途端に弱気になるアイ。

 こんなのでこの先、大丈夫なのだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る