第16話 レポート
翌日、3人はネットカフェに関するレポートを提出した。
担任はそれを見て、3人ににっこりと微笑みかける。
「社会勉強の企業をネットカフェに決めたのは誰なのかな?」
担任は優しく質問する。
「はい。浜内君です」
結城は真顔で答えた。
「それで、勉強になったのかしら?」
「そうっすね。別の意味で社会勉強的な?」
浜内が照れながら答える。
担任は笑顔であったが、完全にオーラが怒っている。
「3人とも反省文10枚提出!!」
教室中に響き渡るほどの大声で怒鳴られてしまった。
「浜内の所為だからな。反省文10枚って何書けばいいんだよ」
帰り道、なぜだか3人並んで歩いていた。
結城は横にいる浜内に文句を言っていた。
「なんだよ。俺だけの責任かよ」
浜内も反抗して見せる。
「だってお前が社会勉強になるって言うから私たちは――」
「まあまあ、俺たちも納得したんだし、仕方がないよ」
成瀬もいつものように結城を宥めた。
結城は納得いかない様子で歩いている。
「で、お前の家族問題は解決したのか?」
改まって浜内が聞いて来た。
成瀬は頷く。
「うん。結構あっさり解決したよ。葵はずっと怒っていたけどね」
成瀬は照れくさそうに笑った。
余ほど嬉しいのだろう。
久々に家族が一つになったのだ。
結果的に担任には怒られたが、これで良かったのだと浜内も思った。
そして、3人は『酒場とおる』の暖簾をくぐる。
「親父、帰ったぞ」
店内に入るなり、とんでもない光景が映る。
「お疲れさん、馨!」
勝はいつものように厨房から声をかける。
「お帰り、姉貴!」
「おかえりなさい、馨ちゃん、蓮君……と誰?」
葵が結城に抱き着いて、杏子が不思議そうに浜内を見ていた。
「俺ですよ、蓮君の友達の浜内です」
「浜内君。そう、よろしくね、浜中君」
杏子は笑顔で返す。
「すでに名前間違えてますから……」
来た早々いじられる浜内。
「杏子さん、僕には、僕には何かないの?」
今度は興奮した一臣が杏子に縋るようについて来た。
「あなた、ほんっと、気持ち悪い。今すぐ×んで」
杏子は避け済んだ目で一臣を見下ろしていた。
一臣は相変わらず興奮している。
そして、同時に結城も不機嫌になっていた。
「どうして成瀬の父親もいるんだよ!!」
納得いかないと言う顔だ。
成瀬家は自宅ではなく、なぜか『酒場とおる』に集まっていた。
成瀬は頬を掻きながら弁解した。
「なんか、お母さんも葵も勝さんの料理気に入っちゃったみたいで、夜はここってきめちゃったみたい」
「ふざけるな! ただでさえ、浜内という騒がしいやつが増えたんだぞ。少しは遠慮しろよ!」
結城は憤慨しながら、成瀬に叫んだ。
浜内もおいと結城にツッコミを入れる。
ここまで来ると成瀬もどうしようも出来なかった。
そこに杏子が成瀬を後ろから抱きしめて答えた。
「勝さんのご飯だけじゃないのよ。蓮君がこのお店で頑張っているから、お母さんはそれを見に来ているの」
ふふふっと杏子は笑う。
結城は全く納得いかなかった。
「そもそもあんたがこんなところで飲んだっくれてなければ、あんたの息子も働かなくてもいいんだろうが!!」
「そんなことないわよ。きっと蓮君なら私がいなくても、馨ちゃんのお店で働いていたと思うわよ」
杏子はそう嬉しそうに言った。
その理由を結城は理解できない。
すると、更に後ろからまた別の声がして、成瀬は振り向いた。
そこにはあのホストクラブのレオンとその隣にいたガタイのいい男がいた。
「よう、少年! 飲みに来たぜ」
完全にプライベートという感じだった。
「レオンさん。お店はいいんですか?」
成瀬はレオンに駆け寄って話しかける。
「まだ時間あるし。ま、別に俺がいなくてもたいしてばれないんだけどな」
「お前存在感ないもんな」
隣の男が笑いながら答える。
それに対し、レオンもお前もなと返していた。
それを見ていた勝が成瀬に声をかける。
「成瀬君の紹介だって? ありがとね」
「別に俺は何も」
と成瀬は手を振ると、レオンが席を立って成瀬の肩を組んで来た。
「ま、お前をホストクラブに勧誘しに来たのもあるけどよ」
レオンは抜け駆けするように耳元で囁いた。
しかし、地獄耳の杏子が聞きつけて近づいて来る。
「蓮君はダメよ。ここでずっとお母さんを食べさせてくれるんだから」
「杏子さん、ホストになった方がもっと儲かりますよ!」
「そっか!!」
杏子も妙に納得したようで、急に賛同してきた。
成瀬は呆れながらも、店にいる皆の様子を眺める。
更に『酒場とおる』は賑やかになりそうだった。
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