男前の結城さんと乙女な成瀬君
佳岡花音
男前の結城さんと乙女な成瀬君
成瀬君と結城さん
第1話 クラス委員決め
2年1組の
成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、性格も良しの文句のつけようもない男子高校生だった。
当然、上級生、下級生関係なく女子にモテる。
男子からも信頼が厚く、頼まれごとはいつも快く受けていた。
それ故に2年生になって、最初のクラス委員決めも真っ先に成瀬が推薦された。
「俺でいいのかな?」
成瀬は恥ずかしそうに自分の頭を撫でた。
こうして皆から頼りにされるのは、案外嫌じゃない。
「成瀬がいいんだよ! 皆、成瀬なら安心して任せられるよな」
近くにいたクラスメイトが、周りに同意を求めるように声を上げた。
クラスメイト達は笑顔で賛同し、成瀬に拍手を送る。
「では、女子の委員も決めたいと思います。誰か、立候補はいますか?」
担任のその言葉に、一瞬でクラスの女子が凍り付いた。
男子の委員決めではあんなにすんなりと決まったのに、何故だか女子の方では不穏な空気が流れる。
「あれ? いないの? 推薦でもいいのだけれど……」
この一変した空気に担任も困惑していた。
女子は誰もが黙って、担任と目を合わせないように顔を伏せた。
この様子に周りの男子たちも騒ぎ始める。
当然、成瀬も驚いて見ていた。
「
沈黙に耐えかねた担任がクラスでも人気のある優等生、雨宮の名前を出した。
しかし、雨宮は瞬時に椅子から立ち上がり、首を横に振った。
「嫌です。絶対にやりたくありません!」
はっきりと断る雨宮の言葉に、再び担任は黙り込んでしまった。
なぜここまで女子がクラス委員をすることを拒むのかわからなかった。
すると、
「
草津が同じクラスメイトの結城の名前を上げると、それに続くように他の女子たちも賛同する。
「私も推薦します」
「私も!」
女子の一致団結した姿に担任は声も出ない。
なぜなら、クラスメイトの結城
普通クラス委員に推薦される生徒は、人気順で決まることが多い。
しかし、これはまるで罰ゲームのように結城が選ばれていた。
結城以外の女子が全員手を上げたので、担任も彼女をクラス委員に指名するしかなかった。
担任からすれば、人気者の成瀬と一緒に活動出来るのだから、女子がこぞって立候補すると思っていたのだが、現実は違ったようだ。
当の本人である結城はただ黙って担任を睨みつけていた。
成瀬は近くの席にいるクラスメイトの
「なんであんなに女子はクラス委員を嫌がるの?」
そりゃぁと浜内は言葉を濁すように言った。
「生徒会の副会長があの
「波佐間先輩?」
「すごく校則に厳しくて怖い先輩だって有名だぞ。まあ、男子には甘いから、成瀬がとばっちりを食らうことはないと思うけどよ」
安心しろと言わんばかりに浜内は成瀬の背中を叩く。
女子の世界というものもなかなか大変なのだなと成瀬は思った。
男女ともにクラス委員が決まったので、担任と交代して、成瀬と結城が教壇の前に立った。
結城は成瀬に相談せずに黙って黒板に向かって立ち、チョークを持って文字を書き始めた。
この様子だと必然的に進行役が成瀬で、書記が結城という形になる。
そのことで結城に対し文句を言うつもりはないが、クラス委員同士なのだから、もう少しコミュニケーションを取ってほしいと思った。
しかも、結城の文字は大きくなかなか斬新だった。
クラスメイト達は唖然として見ているしかない。
成瀬は気を取り直して、クラス委員以外の委員を決めることを提案した。
残りの委員は、
風紀委員
図書委員
美化委員
保健委員
体育委員
文化委員
選挙管理委員
の7つで男女それぞれ1名ずつ選出が必要だった。
割と人気のある体育委員と文化委員はすぐに立候補で決まったが、他の委員はなかなか決まらなかった。
部活で忙しい生徒や予備校などで放課後残れない生徒もいる。
クラスはまとまらずに、皆が好き勝手に声を出し始めた。
ここまで来たら、お互いに擦り付け合いにしかなっていない。
成瀬は必死で騒ぐクラスメイト達を宥めようとするが、一切聞く様子はなかった。
中には話し合いにも飽きて、関係ないおしゃべりを始める女子や自主勉を始める男子なども現れる。
成瀬はどうすべきか困っていると、後ろで何かが折れる音がした。
振り向いてみると、結城がチョークを片手でへし折り、その粉が床に散乱している。
結城を怒らしてしまったのだと一人焦る成瀬だが、そんなこと構いもしないで周りは騒いだままだ。
騒がしい教室の中で結城は座席の方へ振り返り、教壇の前から成瀬を押しやると思いっきり机に掌を叩きつけた。
その音は教室内に響き渡り、一瞬沈黙が降りる。
「文句があるなら手を上げて一人ずつ発言しろ!!」
結城はクラスメイトに向かってそう怒鳴りつけた。
それを見せつけられたクラスメイト達は、不愉快そうな顔でそれぞれ目線を落とす。
そこからはまた、だんまりが続いた。
このままでは決まりそうにない。
「
誰も何も発言しなくなると、結城は勝手に委員のメンバーを決め始めた。
名前を呼ばれた二人は反抗して、椅子から立ち上がる。
「なんでだよ!」
「勝手に決めないで!」
結城は嫌がる2人をただ一瞥した。
隣にいた成瀬も彼らが抜擢される理由がわからなかった。
クラスメイトの中で高坂と真壁は風紀委員のイメージに反して、見た目からしての校則破りの2人なのだ。
そんな2人が風紀委員なんて出来るはずがないと思っていた。
「お前たちが一番、服装が乱れているからだ」
結城は臆することなく、はっきりと2人に答えた。
2人は黙って結城を睨みつける。
「風紀の乱れはクラス全体の問題だ。何かあれば、連帯責任を取らされる。だから、一番校則違反に引っ掛かりそうなこいつらに責任を持たせて、委員を務めさせることで2人にその自覚を持たせる必要がある」
この意見に対して、指名された2人以外は文句がなかったようで黙っていた。
2人だけが納得がいかない様子だが、結城の時も多数決で決まったようなものだ。
不満ではあったが、黙って乱暴に椅子に座りなおした。
「図書委員は
今度はクラスでも大人しい2人が選ばれる。
気まずそうな顔はしているものの、高坂たちのように反抗する気はないようだ。
「2人は図書室の利用率が高い。よって2人に委員の仕事を任すのが妥当だ」
成瀬は驚きながらも、人選に関しては納得できた。
他の委員も結城はどんどん選抜していく。
それに対して既に文句を言う者もいなくなっていた。
委員決めは時間通りに終わり、チャイムが鳴り響いた。
その音と共に、クラスメイト達が一斉に席を立ち、教室を出ていく。
成瀬は板書を終えて、チョークの粉を手で払うと、結城に駆け寄って声をかけた。
「結城さん、ありがとう。助かったよ」
成瀬は笑顔で結城にお礼を言うが、結城は振り向きもせず、教壇から離れて自分の席に戻り、鞄に荷物を詰めると黙って教室を出ていった。
成瀬はただ何も言わず見送る事しか出来なかった。
ここで結城が帰ってしまうと、このクラス委員決めの報告は成瀬1人でやることになる。
まさかと思いながら、しぶしぶ自分の席に着いて、板書の内容を紙にまとめ始めた。
それを見た雨宮と草津が成瀬に近づく。
「まさか、結城の奴、成瀬に全部任せて帰ったの!?」
雨宮は驚いた様子で声を上げた。
隣にいた草津も「サイテェ!」とぼやいている。
結城のこういう性格が要因の一つとなって、クラスの女子からひどく嫌われていた。
本人も嫌われていると自覚しながらも、それを挽回しようとはしていないようだ。
「でも委員決めはほとんど結城さんが進行してくれたし、俺は黒板で名前を書いていただけだから」
成瀬は結城を庇うように話す。
雨宮も草津も不満そうな顔で成瀬を見ていた。
「成瀬が優しいから、結城みたいな奴が好き勝手な事するのよ。これからは同じクラス委員なんだし、嫌なことははっきり言った方がいいわよ!」
雨宮は成瀬にアドバイスした。
この2人は決して悪い生徒ではない。
雨宮は成瀬ほどではないが、クラスでも人気が高く、男子にもモテる。
成績も良く、運動部では活躍している優等生である。
草津は少し癖が強いが、話せばわかる奴だ。
雨宮たちは結城に対しそう言うが、クラス委員を断って結城に擦り付けたのは結局この2人なのだ。
押し付けられた結城の気持ちを考えると、成瀬も強く言い出せないでいた。
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