忘れたい過去と苦痛

 思い出したくないことがエルの脳裏に浮かんでくる。それを忘れようと考えないようにした。

 だが、忘れようとすればするほど鮮明になってくる。


(……グリモエステルス、わざとか?)

 ”なんのことだ? 儂は何もしておらんぞ”

(じゃあ、なんで忘れたいのに余計に思い出すんだよ!)


 そう言いエルは苦しくなって来ていた。


 ”儂はただお前の父親のことを言っただけだ。もしそれがキッカケだとしたら、忘れてはいけないことなんだろうな”

(そんなことはない……あの時のことは、忘れないといけないんだ。じゃないと……)

 ”そんなに自分を正当化したいのか?”


 そう言われエルは、段々イライラしてくる。


(そんな訳ないだろ! いい加減にしろよ……確かにあの時、俺が無茶しなければ父さんは死ななかった。だけど……だから、どうしろって云うんだ)

 ”どうもしなくていい。だが、忘れるのは違うな。いや、つらいのは分かる。しかし全て忘れては、いけないことだ。そうでないと闇が深くなっていくぞ”

(……そうなのか。だけど……今はまだ無理だ)


 エルはつらそうである。


 ”まぁそのことは徐々に受け入れていけばいい。お前の闇は、それだけじゃないがな。父親により受けた虐待まがいのしつけ……他にもあるな。みればみるほど、どんどん出てくる”

(クッ……覗くなって言ってるだろ!!)


 エルは苦痛の表情を表に出してしまった。


「エル、どうしたの?」


 心配になったシルフィアはそう言いエルの顔を覗き込んだ。

 その声に気づきエルは、ハッと目を見開いた。


「あーえっと……うん、大丈夫」

「本当にですか?」

「カルシャさん……はい、すみません。ちょっと色々考えてたら分からなくなって、ハハハハハ……」


 そう言いエルは苦笑する。

 そんなエルをみてシルフィアとログスとララファは、何かを誤魔化しているようにみえ心配に思った。


「それならいいのですが、それで依頼の方は決まりましたでしょうか?」

「んーそうだな……もう少し待ってください、四人で話し合いたいので」


 エルはそう言うとシルフィアとログスとララファの方をみた。


「カルシャさん、この依頼書を向こうのテーブルでみてきたいんだけど……いいかな?」

「ええ、そうですね……。その方が話しやすいと思われますので、構いませんよ」


 それを聞きシルフィアとログスとララファは「ありがとうございます」と言い、空いてるテーブルへと向かう。

 エルはシルフィア達のとった行動がよく分からず不思議に思うも、あとを追いテーブル席へ向かった。


 テーブル席までくるとエル達は座る。

 エルは持って来た依頼書をテーブルに置いた。


「それで、どうするんだ?」

「エル、話したいことがあるから待って」


 そうシルフィアに言われエルは頷く。


(グリモエステルス、さっきエルと話してたわよね?)

 ”ああ、シルフィア……そうだが。その内容が知りたいのかい”

(ええ、ただ私だけじゃなく……ログスとララファも交えてね)


 そう言われグリモエステルスは悩んだ。


 ”儂からよりも本人に聞けばいい。そうだな……四人の意識を今から繋ぐ。それでいいかい?”

(それでいいわ。さっきのエルの表情……普通じゃなかったし)


 それを聞きグリモエステルスは四人の意識を繋ぐ。


 ”意識は繋いだけど……エルが話すとは限らないよ”

(それでもいいわ。とにかく話したいのよ)

(……なんのつもりだ? グリモエステルス。なんで意識を繋げた!)


 いきなりシルフィアと意識を繋げられたうえにエルは、さっき話していたことだと思い不愉快になっている。


(エル、グリモエステルスに頼んだのは私よ。それにこの会話は、ログスとララファも聞いているわ)

(どういう事だ? なんでこんなことを……)

 ”シルフィアは、エルがつらい表情をしていたから気になったらしい。それを聞かれたから、儂は本人に聞いた方がいいと提案しただけ”


 それを聞きエルは、苦痛の表情になった。

 そしてその後エルは、重い口を開き話し始める。

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