#6 マルロスさんに相談

「マルロスさんはいらっしゃいますか?」


 レイラを買った奴隷商館の主のマルロスさんに月隠れのポーションと治癒の仕事に関して相談に来た。


「わかりました。

 ではこちらの部屋で少々お待ちください」

 

 前通された部屋と同じ応接室にレイラと供に案内された。


 しばらくすると小太りのおじさんが現れる。


 マルロスさんは部屋に入ると目を見開いて、驚いていた。


 その視線の先はレイラだった。


 そりゃ、昨日まで病で身体が不自由だったレイラが普通に動いてるからびっくりするよな。


「ヨシユキ様、ご来店ありがとうございます。

 今日はどういったご要件でしょうか?」


 直ぐに気を取り直し、挨拶してくれる。


 さすが商人といったところか。


「今日は聞きたいことが一つと相談したいことが一つあります」


「左様ですか。

 私も聞きたいことがございます」


 レイラのことだろう。


「そのことについては相談とも関係があるので、後でよろしいですか?」


「わかりました。

 聞きたい事とは何でしょうか?」


「月隠れのポーションはありますか?」


「なるほど。

 お渡しした一本はもう使われてしまいましたか」


 もうしたことがバレたが仕方ない。


「わかりました。

 ご用意しましょう。

 何本必要でしょうか?」


「正直、あればあるほど嬉しいですね」


「ハッハッハ。

 余程レイラを気に入ったようですな」


 マルロスさんがレイラを見る。


 その視線につられて俺も見る。


 レイラは恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむく。


「しかし、月隠れのポーションは高価ですよ?

 一本、大銀貨1枚です」


 高っ。


「なんでそんなに高いんですか?」


「月隠れのポーションは月光花を材料に作るんですが、この月光花というのが難しい花でして、採取すると直ぐに劣化してしまうのです。

 劣化した月光花からは作れません。

 それに栽培も難しいので貴重なんです」


 それは確かに貴重になるな。


「それなら、とりあえず5本お願いします」


「準備しておきましょう」








「次に相談についてです。

 私はそこそこの治癒魔法が使えるのですが、この店で雇ってくれませんか?

 教会より安く治療致します。

 そして治療のことについては部外者には黙って居てほしいんです」

 

 マルロスさんが考え込む。


「……つまり、教会から守って欲しいということですね?」


 俺は頷く。


「奴隷には怪我や病を患っている者が少なくありません。

 奴隷が元気になれば収入が上がる。

 こちらに多大な利がある。

 しかも、患者は奴隷だからバレにくい。

 そして貴方はレイラを治した」


 マルロスさんは考えている。


「見つかった場合、ヨシユキ様が一番面倒なことになりますよ?」


 やはり見つかると面倒になるのか。


「正直、遅かれ早かれ見つかると思っています。

 なら、多少リスクを受け入れて味方を増やしておこうかと思ってます」


「なるほど、恩を売っておこうというわけですね。

 つまり、レイラのような患者も内緒で治療すると……。

 私に貴方の味方になりそうな患者を紹介してほしいということですね?」


「紹介料は支払います」


「ハッハッハ。

 頭の回る人ですな。

 良いでしょう、その話乗りましょう」


 マルロスさんも十分頭が回ってるでしょう。


「それで早速なんですが、月隠れのポーションが欲しくてお金が必要なんですが……」


「わかりました、患者のところに案内しましょう」








 奴隷の患者を数人見たが、やはり元気になるのは素晴らしいなと思った。


 皆喜んでくれて、感謝してくれた。


 神様、素晴らしい力を授けてくれてありがとうございます。


 俺は集中力を使って疲れたのでマルロスさんが用意してくれた部屋にあるソファーで休憩していた。


 レイラとは2人きりだ。


「レイラ、膝枕してくれないか?」


「はい、ご主人様」


 レイラの柔らかくて温かい膝は安心する。


 俺は顔をレイラのお腹にうずめて、腰に抱きついた。






 ◇◇◇


 ヨシユキ様は不思議な方だ。


 おそらく高度な治癒魔法を使うことが出来る。


 金が必要みたいだが教会の者たちみたいに治療を高額にせず、苦しんでいる者たちを救うことが出来る。


 それでいて金勘定も出来る。


 知り合いに重い病で苦しんでいる者がいる。


 彼に頼めば治してくれるだろう。


 その知り合いに連絡しなければ。


 その前にヨシユキ様に確認せねば。


 コンコンと扉をノックする。


「はい」


 これはレイラの声だ。


「失礼します」


 ヨシユキ様が見当たらない。


「ヨシユキ様はどちらに?」


「こちらに」


 レイラは照れくさそうに指し示す。


 ヨシユキ様はレイラの膝で眠っていた。


 治療で疲れたのだろう。


「起こしたほうが良いでしょうか?」


「いや、良い。

 レイラ、ヨシユキ様に買われて良かったか?」


「はい。

 私の奇病を治してくださいました。

 それに深く愛していただけました。

 心から感謝しています」


 レイラは愛おしそうにヨシユキ様の頭を撫でている。


 奇病を患い、虚ろな目で暮らしていたレイラがこんなにも幸せそうに様変わりして驚いたが、幸せならそれでいい。

 

「大事にするんだぞ」


「もちろんです。

 マルロス様も今までありがとうございました」

 

 少し涙が出てきた。


「起きたら、私が呼んでいると伝えといてくれ」


 そして私は涙に気づかれないように部屋を早々に後にした。


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