第296話 決意は動かす

 放課後、私たちは城へと出向いた。ミズーナ王女の乗る馬車に相乗りである。

 そこで私たちは、フィレン王子とリブロ王子も交えて話をする事になる。アーサリーとレッタス王子はややこしくなるのでとりあえず蚊帳の外だった。

 ミズーナ王女の呼び掛けで、私たちは会議室を一室借りて集まった。

 もちろん議題は、ベジタリウス王国についてである。

「というわけでして、ベジタリウス王国について、私の方から説明させて頂きます」

 両肘をついて真剣な表情をするミズーナ王女。なんかアニメとかで見た事があるポーズだわ。

 それはともかくとして、ベジタリウス王国に詳しい人物からの話なので、全員が真剣な表情でミズーナ王女に視線を向けていた。

「私自身が疑心暗鬼ですので、双子の兄であるレッタスすらもこの場には呼びませんでした。ここには私が信用する人のみを集めております」

 ミズーナ王女はそう切り出した。

 それにしても、使用人はおろか自分の兄すら排除とは、徹底的過ぎる。そのくらいに、ミズーナ王女は神経質になっているようだった。

「ロートント男爵の証言にあったイスンセという名前の人物ですが、ベジタリウス王国の諜報部に居る可能性が高いのです。どこで聞かれているか分かりませんので、私の国の関係者を同席させられないのですよ」

「なるほど、事情はよく分かりました」

 ミズーナ王女が深刻な表情で話すので、フィレン王子がこくりと頷いて了承していた。

「ベジタリウス王国は、多分ご存じと思いますけれど、このサーロインの土地を昔から狙っています。なにせ内陸のために少々不毛ですからね。先程から申しています諜報部というのは、他国侵略のために設けられた国の隠密機関なのです」

 ミズーナ王女の言葉に、私たちは特に驚かなかった。

 ベジタリウス王国との関係の悪さはサーロイン王国としては今さらなわけだし、それに伴って内情を探る機関を有している事など容易に想像できたからだった。

 反応の薄さには驚かされているようだったものの、ミズーナ王女は知りうる限りをすべて私たちに話してくれた。

 本来、国の重要機密なのだから他国に打ち明けるような事はしないものだ。しかし、呪具という危険な物が使われていた以上、隠し立ては国益に反すると判断したのである。

 話が終わると、私はすぐさま口を挟む。

「今回の事にベジタリウス王国の諜報員が関わっている可能性がありますが、ベジタリウス王国の指示なのか、その諜報員の独断なのか、それをはっきりさせる必要があると思うのです」

「確かにそうだね。国としての判断なら、最悪戦争になりかねない。だが、個人的な判断ならまだ穏便に済ませられる」

 私の意見に、フィレン王子が賛同してくれた。

「そこで、私がベジタリウス王国に乗り込んで、真相を確認してこようと思うのです」

「それは危険だ!」

 私が言うと、フィレン王子が即止めに入った。さすがは王子、婚約者に無茶をさせたくないようである。

「ですが、諜報員がうろうろしている中、気付かれずにベジタリウス王国に出向くのは厳しいと思います」

 しかし、私は引かなかった。婚約者に選ばれた身である以上、国のために貢献したいもの。そのためならば、たとえ火の中水の中、身を投じてやるわよ。

 私の決意の強さの現れた表情に、フィレン王子は黙り込んでしまう。

「私には瞬間移動魔法があります。連続での使用は厳しいですが、危なくなれば一気にこちらまで戻ってくる事が可能です。それ以外にも私にはたくさん魔法がありますし、これ以上の適任がありますでしょうか」

 私は必死に訴えた。だが、この場に集まった人間だけでは決定はできなかったのだ。

「そこまで言うのなら、父上たちに掛け合ってみよう。国家に関わる事だからね」

 フィレン王子は折れたようだった。

「承知致しました。国王陛下に却下された場合は、すっぱりと諦めましょう」

 私がその提案を受け入れると、今度は揃って国王の執務室へと向かった。

「失礼します。父上、少々よろしいでしょうか」

「どうした、フィレン。話があるなら入るといい」

 呼び掛けに対して、国王はフィレン王子を迎え入れた。それに従って、フィレン王子に続いて私たちもぞろぞろと国王の執務室に足を踏み入れた。

「また、ずいぶんと顔を揃えたものだな……」

 私たちを見て驚く国王である。

「さあ、アンマリア。父上に話すんだ」

 フィレン王子は私に発言を促す。

「うん? 話があるのはアンマリアなのか?」

 不思議そうに首を傾げる国王である。

「はい、国王陛下。実はですね、私を隣国ベジタリウス王国へ行かせて頂きたいのです」

「なんとな?!」

 私の発言に驚く国王である。

 国王に対して、私とミズーナ王女は一生懸命に事情を説明する。エスカたちは黙ってその説明を聞いていた。

 説明を聞き終えた国王は、顎を触りながら唸っている。無理もない話だ。王子の正式な婚約者を単身隣国に送り込むという話なのだから。しかも、留学や使節団のような正式な訪問ではない。それがゆえに国王は唸っているわけである。

 だが、先日のロートント男爵絡みの事件は看過できない。

 それがゆえに国王は、

「分かった。気を付けて行ってくるのだぞ?」

「承知致しました」

 私がベジタリウス王国へと乗り込む事を認めたのだった。

 ここしばらくで起きた数々の事件。それを必ずや解明してみせる。

 私は改めて気合いを入れ直したのだった。

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