第279話 世界の闇の部分
正直言うと、この乙女ゲームの中でこの文字を見るとは思ってもみなかった。
『魔王の力を秘めた宝珠』
それが、テールが身に付けていたブローチについていた宝石の鑑定結果だった。
まさかダイエット系乙女ゲームの世界にも魔王なんてものが存在するなんてね。ファンタジーには付き物なのかしら。
というか、そんな危険なものが平然と手の届くところにあるってどういうわけなのかしらね。管理不行き届きにもほどがあるわ。
鑑定結果を見た国王やフィレン王子たちは、一様に厳しい表情をしていた。ミズーナ王女も厳しい表情なので、私とテールだけは事情が分からないといった感じで立っていた。
「えと、あと……。わ、私ってそんなとんでもない事に巻き込まれてたんですか?!」
と思ったら、テールはあわあわと慌てた感じで発言していた。この分じゃテールもよく知っているみたいね。……なんだ、知らないの私だけなんだ。
「そうだね。こんな厄介なもの、君の父親がどこから手に入れたのか問い質す必要があるようだ」
フィレン王子がテールの方を見ながら話をしている。
「とにかくだ。こんなものが発動したとなれば、君は死んだと見られていてもおかしくないんじゃないかな」
「そ、そんな……」
フィレン王子の言葉に、テールは大きなショックを受けていた。口に手を当てながら、一歩、また一歩と後退っていく。その表情は、見ていられないくらい青ざめていた。
テールがこうなるのも仕方がないかなと思う。
なにせ、自分の親に危険な物を持たされて、しかも自分ごとすべてを殺そうとしていたのだから。それはもう、震え上がるしかないというものだった。
……はっきり言って許せないものである。
自分の子どもに対してそんな無慈悲な事をできるなんて、どういう親なのかと。私ははらわたが煮えくり返る思いである。
「陛下」
私は国王に対して一歩踏み出し、すっと跪いた。
「なんだ、アンマリア」
「テール様は私が預からせて頂きます。私の瞬間移動魔法を使えば、姿を見られる可能性は格段に減りますから、安全はそこそこ保障されると思います」
私の発言を聞いて、国王は少し悩んでいた。
「陛下、ここ数日間、テール嬢は我が家で預かっておりました。それでしたら、このまま我が家で預かり続けるのが一番でございましょう」
「……ふむ、それは一理あるな」
そこに父親の発言が入ると、国王は納得しているようだった。
「分かった。テール・ロートントの身柄は、ゼニーク・ファッティ伯爵、そなたに任せよう」
少しだけ間はあったものの、国王は納得したらしい。これによって、テール・ロートント男爵令嬢の身は私の家に正式に預けられる事になった。まあ、転生者が二人も住んでる場所なので、よそに比べればかなり安全だとは思う。
それこそ、今回のブローチのようなものでも使われない限りは。
なにせあのブローチの力は、私とミズーナ王女二人掛かりでもかなり消耗させられた上でようやく抑え込めたのだから。本当に厄介極まりなかった。
「それじゃアンマリア。ミズーナ王女とテール嬢と一緒に私の部屋に移ろうか。ここからは大人たちに任せよう」
「承知致しました、フィレン殿下」
私たちはフィレン王子の提案に乗って、ブローチの分析をしていた魔法使いたちの部屋を出ていった。
フィレン王子の部屋に戻ってきた私たちは、室内の椅子に座ってとりあえず心を落ち着かせる。
しばらくすると、使用人たちが飲み物とお菓子を持ってきたので、それを口にしながらひとまず気持ちを落ち着かせる。
「先程の反応を見ていた限り、アンマリアは魔王の事を知らない感じでしたね」
唐突にフィレン王子の口から出た言葉に、私は思わず紅茶を吹きかけた。危ない危ない。
「とはいえども、私たちも知っているのは伝聞による部分だけですけれどね。こういう事に関しては、父上やアンマリアの父親の方がご存じだと思いますよ」
紅茶をすすりながら、フィレン王子はとても落ち着いた状態で話をしている。さすがは王子といったところだと思う。
「アンマリアも散々倒してきているので知っているとは思うけど、この世界には魔物という存在が居るのはいいね?」
「ええ、それはもちろん」
「そして、その魔物を生み出したのが魔王という存在なんだよ。そして、その魔王は封印されただけで眠っているというのが、この世界に伝わる伝聞なんだ」
フィレン王子の説明に、ミズーナ王女は頷いている。どうやらベジタリウス王国でも伝わっている有名な話らしい。
「聖女という存在が現れるのも、そのせいなんだ。魔王が居るからこそ、対抗手段として生まれてくるというわけなんだよ」
フィレン王子の話にすとんと納得する私。
確かにゲーム中でもどうして聖女が存在するのかまったく語られなかった。ただ流行りだから放り込まれた設定だとしか思っていなかったのだ。
その後もしばらくの間、フィレン王子による魔王に関する情報が延々と語られる。すると気が付いたら日が暮れて、辺りが真っ暗になってしまっていた。
「おっと、今日はこのくらいにしておこうかな。ファッティ伯爵はまだ居るだろうから、一緒に帰るといいと思う」
フィレン王子のこの言葉で今日はお開きとなった。
転生したこの世界。まだまだ謎が多いようである。
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