第42話 テトリバー男爵邸
なんというか、テトリバー男爵邸はものすごく荒れ放題だった。どうにか門から屋敷までの道は確保されてはいるものの、それ以外は草は伸び放題、塀にも蔦が巻き付いている状態だった。これではまるで幽霊屋敷である。一体何があったというのだろうか。
王都の屋敷については、国の決まりで必ず雇い入れる使用人の最低数が決まっている。費用が足りないのならそこは補填してもらえるようになっている。つまり、王都にある屋敷は国の方針で最低限の体裁が保てるように取り計らわれているのである。だというのに、目の前のテトリバー男爵邸の状態といったら、その最低限の体裁すら保てていない状態だった。一体何があったのだろうかと、私は心配になってきた。
その状態の酷さといったら、門でも起きた。
通常なら居るはずの門番も居ないのだ。つまり、馬車で入ろうにも門が開かない。私たちはテトリバー男爵邸の門の前で立ち往生となってしまったのだ。あれ、昨日の先触れってどうやって届けたのかしら。
私たちが門の前で右往左往していると、屋敷から使用人が一人出てきた。そして、バタバタと走って門までやって来て、門を開いたのである。一体どういう状況なのか、私たちには理解できなかった。
「アンマリア・ファッティ伯爵令嬢様ですね。お待ちしておりました。どうぞお通り下さい」
使用人が門を開いて、私たちを中へと通した。そして、私たちを入れると再び門を閉じて、私たちの後をついて屋敷へと戻っていった。
さっきの使用人が戻ってきて、私たちを出迎える。一体どうしたというのだろうか。その使用人以外に出迎えがないのだ。どんなに悪くても10人は使用人が居るはずである。それが、まさかのたったの一人。私もスーラも、馬車の御者も混乱していた。
「本当に申し訳ございません。本当ならば大勢で出迎えるところなのですが……」
使用人はここまで言って口をつぐんだ。何か言いためらったようだ。
「とにかく、旦那様とお嬢様にお会い下さいませ。ご案内致します」
というわけで、男爵家の使用人がドアを開け、スーラが最後尾についてドアを閉める。
屋敷の中に入った途端、さらに驚きを私たちが襲う。
「だいぶ埃をかぶっていますね。使用人たちは一体何をしているのですか」
スーラが怒っている。
「申し訳ございません。なにぶん数人の使用人では手が回らないのでございます。詳しくは旦那様からお聞き下さい」
それに慌てた使用人が何かとんでもない事を言っていた気がする。数人の使用人? 王国の方針で10人以上の使用人が義務付けられているというのに、それは一体どういう事なのか。私たちは疑問に思いながらも、使用人の案内でテトリバー男爵の部屋へと案内された。
「旦那様、お嬢様、アンマリア・ファッティ様をお連れ致しました」
「おお、待ちくたびれたぞ、通せ」
「はい、失礼致します」
使用人が呼び掛けると、中から返事があった。なので、使用人は扉を開けて私たちを中へと通した。
部屋に入ると、そこにはサキ・テトリバーとその父親のテトリバー男爵が座っていた。
私の姿を確認したテトリバー男爵は椅子から立ち上がり、私に向けて頭を下げてきた。
「ようこそ、我が屋敷においで下さいました。散らかっていて申し訳ございませんが、あちらの椅子にお掛け下さいませ」
男爵の執務室には応接用のテーブルも置かれていた。そこに座れという事だった。とりあえず私はそれに従い、椅子に座った。
(うえっ、めっちゃ沈むぅっ!)
困った事に私が座ると体重のせいで座席が思いっきり沈み込んだ。なにせ成人並みの体重の私なのだ。これはある程度仕方なかった。
とりあえず気を取り直して、私は当初の目的を果たすべく、スーラに視線を送った。すると、スーラもちゃんと分かってくれたので、懐から包みを2つ出してテーブルに置いた。
「とりあえず、本日伺いました用件と致しまして、こちらの魔石ペンを送らせて頂きます。ご確認下さい」
私がそう言うと、二人はごくりと息を飲んで包みに手を伸ばした。そして、包みを開ける。そこから出てきたのはケルピーの骨を使った魔石ペンだった。魔物のせいでほんのりと青いのが特徴である。
男爵はすぐさま使い心地を確認すると、
「これは素晴らしいですね。大切にさせて頂きます」
と深々と頭を下げてきた。そして、サキもそれにつられて頭を下げた。
しかし、この状態を見た今となっては、これだけで帰れるわけがない。私はスーラに再び視線を送ると、互いに頷き合った。
「恐れ入りますが、このテトリバー男爵邸の有り様は一体どういう事なのでしょうか。王都にある貴族邸は最低限の体裁を保つために、最低10名の使用人が働いているはずなのですが、お迎えに来られた使用人以外にほぼ気配がございません。事情の説明を求めます」
私は成人並みの体重のある体で、男爵を睨み付ける。さすがに子どもとはいっても、この体重では迫力がある。
しばらくは黙り込んでいた男爵だったが、私のあまりの迫力に根負けしたのか、自分の置かれている境遇をぽつぽつと語り出した。それを聞いた私の中で、もの凄い怒りが込み上げてくるのだった。
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