伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

第一章 転生、アンマリア

第1話 異世界での目覚め

 重く、重く意識が沈んでいく。私はどうなってしまったのだろうか。意識が混濁していて何もはっきりと分からない。

(私、一体どうしちゃったんだろう……)

 もやもやしてぼーっとする意識。やがて何やら明かりが見え始め、声らしき音が聞こえてきた。

(あー、あそこに行けば何か分かるのかな……?)

 ダメだ、意識が朦朧とする。

 仕方がない、このまま流れに任せていくしかないかしら。

 そう思った私は、混沌とする意識を手放し、再び闇の中へと落ちていった。


 やがて、私は意識を取り戻す。しかし、意識が戻ったのはいいものの、やたらと体が重くて動かせなかった。

(ううん、体が動かない? どういう事だろう、痛くないから怪我をしてるわけじゃなさそうだけど……)

 私はゆっくりと目を開けていく。しかし、そのまぶたを開けるのですらひと苦労だ。

(なにこれ……、なんで目が開かないのよ)

 だが、私は負けない気持ちでまぶたを開ける。すると、目に眩しい光が一気に入ってきた事で、思わず開けたばかりの目を閉じてしまった。

「目がぁ……、目があっ!」

 思わず叫んでしまうと、どこからともなくバタバタと足音が聞こえてきた。

「アンマリアお嬢様?!」

 扉が勢いよく開いたかと思うと、メイド服の女性が飛び込んできた。薄っすら開けた目からその姿が確認できる。

「スーラ?」

「そうですよ、スーラです、お嬢様!」

 どうしてだろうか、私は初めて見たはずのメイドの名前をちゃんと呼ぶ事ができたのだ。

(これは、どういう事なんだろう……)

 記憶と意識が混濁する私は、何が何だか分からなかった。混乱する私をよそに、スーラは私に伸ばしていた手を引っ込めて、急に背筋を伸ばす。

「こうしてはいられません。すぐさま、旦那様と奥様にアンマリアお嬢様がお目覚めになった事を知らせに行かねば!」

 そう叫ぶと、

「それでは一度失礼致します、お嬢様」

 と頭を下げてから慌てて出ていった。一人残された私は、ぽかんとしてベッドで横たわっていた。

 よくみると、顔の正面は知らない天井、というか天蓋である。天蓋があるベッドなんて、貴族とかそういう身分の話だ。という事は、私は最近小説や漫画で見る異世界転生でもしたというのだろうか。自分の名前がアンマリアという事は分かったけれど、いまいち判断できる情報が少ないわね。というわけで、私はスーラが呼びに行った旦那様と奥様がやって来るのをゆっくり待つ事にしたのだ。

 しばらくすると、バタバタと走る音が聞こえてくる。

「アンマリアが目を覚ましたというのは本当か!?」

「はい、目を開けて私の名前を呼んで下さいました」

 スーラと男性の声が聞こえてくる。

(それにしても、足音が少々重くない? ドスンドスンって普通の体型じゃ鳴らない音だと思うんだけど?)

 私はその音に違和感を感じながらも、おとなしくベッドで横になっている。自分を確認しようにも体が思うように動かないので、とにかく旦那様と奥様の姿を確認するのが先ね。

 しばらくして、私の視界に飛び込んできたのは少しぽっちゃりとした男女の顔だった。この男女がスーラの言っていた旦那様と奥様なのだろう。

「ああ、私の可愛いアンマリア。ようやく目を覚ましたのね」

「2週間も目を覚まさなかったから、とても心配したぞ」

 視界に入った男女がそれぞれに言葉を口にするが、男性の方の言葉に私はとても驚いた。どうやら私は、何らかの原因で2週間もの間、意識不明の状態に陥っていたらしい。

(どうりで体が動かないわけだわ)

 2週間も体を動かさなければ、それは当然ながら身体機能が低下してしまうというものだ。

 私はそう納得しながら、覗き込む男女の顔をまじまじと見た。すると、ふと思わぬ言葉が浮かんできた。

「お父様、お母様、ご心配お掛けしました」

 おっとびっくり。この男女は自分の……、いやこの体の持ち主の両親だった。そして、段々と思い出してきたこの体の記憶に、私はどんどんと青ざめていった。

(えっ、ちょっと待って。この体の子ってまさか、あの不人気ゲームのヒロイン、通称『ダイエット令嬢』のアンマリア・ファッティ?!)

 慌てた私は、スーラに頼んで鏡を持ってきてもらう。手を動かせない私は、スーラに鏡を持たせて自分の姿を確認すると、そのあまりの衝撃に気を失ったのであった。なにせ、年相応とは思えないくらいにまん丸に太っていたのだから。

 確かにアンマリアはゲーム開始時点の13歳でとてつもなく太ってはいたが、まさかこの年でもすでにこんなに太っていただなんて、ショックが大きすぎたのである。

 ……異世界転生したと思ったら、まさかの子豚令嬢でしたわ。私は一体どうなっちゃうのよ。

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