宴の終わり
「着いたか」
町外れの古い屋敷の前でクラリスと男達を乗せた馬車が止まった。
「ここか?」
「ああ。元メッシー伯爵家の別邸だ。今は誰も住んでいない」
「娘は?」
「まだ起きないな」
「ちょうどいい。騒がれる前に地下室に連れて行くぞ」
「よっと。軽いな~、子供みたいだぜ」
男の一人ががクラリスを抱き上げて馬車を降りる。
「本当にあの薬は効いているんだろうな」
「ああ。別の女で試したが、すごい効き目だったぜ」
「こんなに清純そうな子が、自分から股を開いて迫ってくるかと思うと、堪らないな」
別の男がクラリスの顔を覗きこんで、舌舐めずりした。
「少し味見するぐらいいいだろ」
男の唇がクラリスの唇を塞ぎそうになった、その時だった。
「クラリス嬢に触わるな!」
陰に潜んでいたエラリーが飛び出し、男の脇腹に拳を叩きつけた。
「なっ!お前、どこか……ぐわっ」
クラリスを抱いていた男の顎にも強烈なアッパーを叩きこむ。
エラリーは、はずみでクラリスが男の手から転がり落ちるのを左腕で受け止めると、倒れ込んだ男達に強烈な蹴りを浴びせた。
「確か三人いたはずだったが……」
エラリーがごちたその時、暗闇から光るものが目の端に映ったかと思うと、目の前に短刀を振り翳した男が現れる。
「くっ」
咄嗟にクラリスを庇いながら横に避けるが、エラリーの右頬には血が滲む。
「うわああ!」
男が叫びながら再び短刀を振りかぶる。
「ぐえっ」
男の腹にエラリーの右蹴りが決まり、堪らず身体が前のめりになった所に、エラリーがさらに顎を蹴り上げ、男はそのまま気を失った。
「三人……これで全部か。クラリス嬢、無事で良かった……」
宝物を扱うように、そっとクラリスを横抱きにすると、エラリーは馬車のステップに足をかけた。
その時。
ゴンッ
「え……」
エラリーの後頭部から鈍い嫌な音がして、エラリーはクラリスを抱きかかえたまま、馬車の中に倒れ込んだ。
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「手がかりは?」
「カイリー侯爵令嬢の示した方角で、乗り捨てられた馬車が見つかりました。確かにイディオ家の家紋が入っています」
「そこからの足取りは?」
「四方を捜索させています。見つかるのは時間の問題かと」
国王の問いに、騎士団長がキビキビと答えていく。
「そうか。アラン、セベールを呼べ」
国王が宰相の方を向く。
「それが……姿が見えないのです」
「何だと?トマスは?」
「同じく姿が見えません」
宰相の答えに国王は眉を顰めた。
「セベールが暴走しないようにと、トマスには監視を命じていたが、二人ともいないとはどういうことだ」
「監視していることがセベールに知られてしまったのかもしれません」
「……ひとまず、特務部隊の隊長を呼べ。キンバリー伯爵、子息からの連絡はないか」
「申し訳ございません。息子からはまだ何も」
「よい。騎士団は引き続き捜索を頼む」
「御意」
国王の言葉に騎士団長は一礼すると、足早にその場を後にした。
「父上、招待客が全員帰りました」
アンソニーの的確で迅速な指示のおかげで、招待客達は騒ぎのことは何も知らないまま、笑顔で王宮を後にしていた。
その招待客を見送るふりをして、広間の出入口で参加者の確認をしていたウィルとアンソニー、ディミトリが戻ってきた。
「怪しい奴はいたか」
「はい。数名。全員別室で拘束しています」
「ポールはどうした?」
「私の執務室に。アリスとイメルダ嬢、ジャンが一緒にいます」
国王がウィルの答えに頷いた時、透き通った美しい声がした。
「陛下。特務部隊隊長、カロリーヌが参りました」
見ると、特務部隊の制服に身を包んだ、細身で小柄な可愛らしい女性が跪いている。
「来たか。セベールの行方は?」
「申し訳ございません。今回はあやつの単独行動だったらしく、部下の誰も把握しておりません」
「監督不行届だな。まあ、今はいい。拘束している奴らを尋問せよ。クラリス嬢の居場所を吐いた奴だけ助けてやる、とな」
「仰せの通りに」
カロリーヌは美しく一礼して去っていく。
「あ、あんな、か弱そうな女性が特務部隊の隊長だなんて……」
初めてカロリーヌを見たディミトリが驚きの声をあげた。
「あれの尋問に比べれば、セベールの尋問でさえ児戯に等しいと言われているがな」
ディミトリは言葉を失った。
「アンソニー様」
「ミミか。何かわかったか」
いつの間にかアンソニーの背後に回っていたミミが全員を見渡して言った。
「はい。トマス様の居場所がわかりました」
「何?!どこだ?!」
「それが……」
続くミミの言葉に、全員が唖然とした。
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