そもそもどんなゲーム?

「クラリス、お前は明日も朝から学園だろう。ここはいいからもう休みなさい」


「そうよ。ゆっくり休んで明日からの授業に備えなきゃ」


「お父さん、お母さん、ありがとう。じゃあ今日は甘えさせてもらうね」


「お前はいつも頑張り過ぎなんだから、少しは甘えていいんだよ」


「へへ、ありがとう、お兄ちゃん。おやすみなさい!」



優しい家族におやすみの挨拶をしてから、クラリスは自室に戻った。寝る準備を整えて早々にベッドに潜り込むも、目が冴えてなかなか眠れそうにない。


「ダメだ!今日は盛りだくさん過ぎ!色々と整理しないと頭ぐちゃぐちゃで眠れない!」


そう叫ぶと机の前に座り、ペンとノートを取り出す。


「えーっと、まずは乙女ゲームのことから整理してみましょ」


あの裏庭で思いだした通り、ここは前世で友人がプレイしていた乙女ゲームの世界であるのは間違いない。


「ゲームのタイトルは…うーん、ダメだ、まゆっちの話、半分スルーしてたからなあ…全然覚えてないわ」


覚えているのは、ヒロインがクラリスという美少女(自分で言うのもなんだけど!)であること、そのヒロインが平民でありながら優秀な成績を修める事で進学する王立学園の高等部が舞台となっていること。そこで複数名の攻略対象者の中から一人を選んで、ハッピーエンド目指して進むこと。だけど、分岐を間違えるとなぜか逆ハーエンドに進んでしまう、逆ハーエンド率が以上に高い18禁乙女ゲームだということ。


「はあ、何でよりによって18禁ゲームに転生するかなあ…私、前世でも経験値0なんだけど…逆ハーとか絶対に嫌だわ…」


「攻略対象者は…なんか、王子様とかいた気がするけど、正確には覚えてないな~」


「あ、でも、悪役令嬢は、アリス様で間違いないわ!まゆっちに攻略本読まされた時に、ヒロインよりこっちの方が好きだな~って思ったもんね」


クラリスは『ザ・ヒロイン』という見た目の美少女だ。ふわふわの金髪を肩のあたりまで伸ばして、ちょっと垂れ気味の空色の瞳が庇護欲をそそる。背もあまり高いほうではなく、体つきも華奢だ。


「私は、すらっとしてて出るとこ出てるカッコいい女の人が好きだからな~」


アリスは背も高く、一見細身だが、女性らしい凹凸があり、ストレートの黒髪と切長の黒い瞳がかっこいい美少女だった。


「今であんなに美人なんだから、大人になったらきっともっとかっこいい迫力美人になるわね!」


「あれ、でもなんでそのアリス様がヒロインの私にあんなに親切にしてくださったのかしら」


「確か、アリス様は攻略対象者のうちの一人の婚約者で、クラリスがその攻略対象と接近すると邪魔してくるキャラじゃなかったっけ。あ、違うな、平民なのに成績優秀でSクラスに入ったクラリスが気に食わなくて、何かといじめ倒すキャラだったわ」


ゲームの設定ではアリスは間違いなく悪役令嬢だったはずだ。アリスのいじめに気づいた攻略対象がクラリスを守ろうとして、二人の仲が進展するという乙女ゲームの王道シナリオだったはず。


「まあ、王道の割には簡単に逆ハーエンドに進む大人向けゲームだけどね…

だけど、アリス様がいじめなくても、別の令嬢がいじめてきたってことは、やっぱりゲームのシナリオ通りに進むことになるのかな。うー、私は平民として平凡に平穏な生活を送りたいのに!

逆ハーじゃなくても、キラキラお貴族様との結婚なんてごめんだわ!

…はあ、こんなことになるなら、まゆっちの話、聞き流すんじゃなかったな~」


一向に埋まらないノートを前にクラリスはため息をついた。

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