悪役令嬢?登場⁈

そこにいたのはサラサラの黒髪が美しい、吊り目が少しきつい感じのする美少女だった。学園に通うにふさわしいシンプルだが上質な装いの彼女は、きらきら派手なだけなご令嬢集団とは格が違うのは明らかだった。

 

「まさかとは思いますが、寄ってたかって一人のご令嬢を皆様で暴行しようとしていたのかしら」


美しい切長の瞳がご令嬢集団を鋭く睨む。


「ま、まさか、そんなこと!」


「そ、そ、そうですわ、私達はこの平民に学園の決まりを教えて差し上げていただけですわ!」


「オストロー様も、このような平民が進学試験で上位に入るなんておかしいと思いますでしょ?!」


この期に及んで見苦しく喚き立てるご令嬢集団に、オストロー様と呼ばれた美少女は、はあ、とため息をついた。


「あなた方はご自分の進学した学園の規則もご存知ないのかしら。この学園のモットーは実力主義、身分による差別は厳禁ですのよ。進学試験は先生方による厳しい管理のもとで行われ、絶対に不正ができない試験として有名ですわ。そんな試験で上位の成績を収めたのは、この方の努力の結果でしかありません。どれまだけ優秀な家庭教師をつけたとしても、本人が努力しなければ結果は伴いませんから」


言いながらオストロー令嬢はクラリスに手を貸して立ち上がらせた。令嬢集団に向ける視線とは異なり、クラリスに向ける視線は暖かい。オストロー令嬢の美しさに目を奪われたクラリスは、何も考えることなく差し出された手を取った。


「オストロー様!そんな下賤の者に触れてはいけません!」


「…聞こえなかったのかしら。この学園では身分による差別は禁止だと申し上げたばかりですけど」



「…っ、で、ですが…」



「ヤイミー様、今日のこのことは生徒会の皆様にも報告いたしますわね。今後は侯爵家令嬢にふさわしい行動をお願いしたいものですわ」



生徒会に報告すると言われ、令嬢集団は一様に青ざめると逃げるようにその場を去った。



「全く…。淑女の風上にもおけない方々ね。大丈夫ですか?強くぶつけたのではないかしら」


ドタバタと立ち去る令嬢集団の後ろ姿を見てため息をついた後、オストロー令嬢は心配そうにクラリスを見やった。


それまでボーっと事の成り行きを見守っていたクラリスは、美しい黒い瞳に見つめられて、ようやく我に返った。


「あ、ありがとうございました!すみません、お見苦しいところをお見せしてしまいました…」


オストロー令嬢に手を取られたまま、すぐそばに立っていたことに気づいたクラリスは慌てて手を離し後ずさると、深々と頭を下げた。その下げた頭の中はまたしても絶賛大混乱中だった。



オ、オストロー様って、確かこの乙女ゲームの悪役令嬢じゃなかったー⁈

今のシーンは、ヒロインが悪役令嬢とその取り巻きにいじめられるのを攻略対象が助けに来るところだったんじゃ???

助けに来たのが悪役令嬢のオストロー様ってどういうこと⁈

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