第17話 話しかけないでもらえるかしら

 夏休みが終わり、二学期初の登校日。

 蒸し暑い教室の中で、俺はスマホ画面をただひたすらに眺めていた。

 そのディスプレイには花野井はなのいさんとのメッセージ画面が表示されており、しかしそれはあの花火大会の日以降更新されていない。

 いや、全く更新されていないわけではないのだ。

 こちらから一方的に連絡はしている。

 ただ、花野井さんからの連絡が皆無かいむなだけで……。


 「何かあったのか……? もしかして事故、とか……」


 そんなことは想像もしたくない。

 しかし夏休みの間、彼女と全く連絡が取れないというのはいくら何でも不自然だ。


 そんなことに考えを巡らせていると、突然教室の扉がガラリ、と開いた。

 同時、俺は目を見開く。


 漆黒のロングヘアをなびかせ、颯爽と教室に入ってくる彼女は___花野井はなのい美澄みすみ

 久々に目にする想い人の姿に、顔が赤くなっていくのを感じた。


 「……よう」

 「……」


 俺は片手を上げて挨拶をしたのだが、花野井さんはそれに答えることはせず、無言で自身の席に着席する。


 あれ、聞こえなかったか……?

 花野井さんと相見あいまみえなかった間、会話する相手といえば母親くらいのものだったため、声の出し方を忘れてしまったのだろうか。

 そんなわけねえだろ、と自分のボケに自分でツッコミをれる。


 まあとりあえず、事故とかじゃなくて本当に良かった。

 良かったのだが……それなら何故連絡が取れなかったのだろう。

 思案しつつも答えが出せなかった俺は、何気なにげなく花野井さんに話題を振る。


 「花野井さん、夏休みの間どうしてたんだ? 花火大会の後から連絡取れなくなったんだが……。あ、もしかして携帯壊れた、とか?」

 「……」

 「あの、花野井、さん……?」

 「……」


 ……無視されている、完全に。

 「聞こえてないのか?」

 とも考えたが、こんなに至近距離なのだ。聞こえていないわけがない。


 花野井さんに嫌われてしまったのでは、という考えに思い至り、俺は戦慄せんりつする。


 何だ、 俺がなにかしたのか……?

 俺が彼女と最後に会ったのは花火大会の日だ。

 その時に何か余計なことでも口にしてしまったのだろうか。


 「……ッ」

 

 不意に、悲しそうに顔を歪めていた花野井さんの横顔が頭をぎった。


 あの時はさして気にも留めていなかったが、あの表情は一体……。


 「谷上くん」

 「は、はい!」

 

 脳内で熟考していると、今度は彼女の方から話しかけてきた。

 「話しかけられた!」と歓喜したせいか、裏返った声を上げてしまう。

 緊張しつつも俺はジッ、と彼女の言葉を待った。

 そして。


 「今後、私に話しかけないでもらえるかしら?」


 彼女はそんなことを何の躊躇ためらいもなくハッキリと言い放ったのだ。

 膝から崩れ落ちた俺のことを誰が責められようか……いや、責められない。

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