第28話 「伏字がズレてます」
「いやぁなんとか無事に脱出できたッスね!」
「そ、そうだね……」
何故か僕の料理を食べたグエッコーたちが眠り落ち、その隙にキャンピングカーに乗って逃げ出した僕たちはそこで今まで車内に隠れていたヤスに労われた。
「ねぇヤス……」
「はいなんッスかセンリちゃん!」
「もしかして……何かした?」
だってあまりにも僕たちの都合のいい展開なのだ。僕や脱出の提案をしたハツモもまだ混乱しているというのに、キャンピングカーに乗り込んできた僕たちを見てもヤスは驚く様子を見せていないんだ。
「あのシェフ……もしかしてヤスの協力者なんじゃ……」
そんな僕の言葉を黙って聞いていたヤスはふっと笑みを浮かべると、まるでからかうようにしーっと指を口に持ってきた。
「奥の手は用意しておく物ッスよ」
「マジかお前……」
「……ヤスが仲間になってくれてよかったよ」
「いやぁはっはっはっは!」
:やりますねぇ!
:ただの同行者じゃなかった
:MVPはヤス
「……協力者にセンリちゃんの手料理研究会所属のシェフがいてよかったッス」
ん? 今なんか不穏な響きが聞こえたんだけど。
「一応爆弾ひよこの回収も終わったぜ。鍋の中に入った途端眠るように消えていったのはビビったが」
「ダナンたちもいるね。こサギは……まぁ暫くベッドで眠らせておこう」
「すやぁ……」
料理を渡した瞬間、いの一番に平らげて誰よりも早く夢の世界に旅だったからね……お陰でダナンたちNPCを含めた僕とハツモはあまりの事態に食べ損なったし。まぁ結果を見ればオールオッケーだったけど。
:やっぱジャン流の料理って兵器だよ
:センリちゃんでも影響が出るしな
:まぁセンリちゃんの料理は分かりやすい方よ
:なんでそれが分かるんだよ……
:手料理研究会を舐めない方がいい
:こっわwww
「それよりも、今の内に車を全速力で走らせて引き離した方が良いッスね。キャンピングカーの振動で誰かが目が覚めるかも知れないッス」
「わ、分かった! 全速前進!」
『頑張ッテ 走リタイト 思イマス』
ヤスの言葉を受けて、僕はキャンピングカーのAIに速度を上げるように命令する。少し無駄に時間が掛かったけど、依然として僕たちが目指すのは大豊森林。そこで僕たちは、ようやくティル・ナ・ノーグへと続く道が分かるのだ。
◇SIDE グエッコー
「クソォ!! どうしてどいつもこいつも寝やがった!? お陰で折角捕まえたというのにまた追跡をする羽目になったじゃねーか!!」
「いやぁ美味しかったですねぇ」
「余韻に浸っている場合かァーッ!」
まぁ確かに美味しかったが! 何ならもう一回ぐらいお代わりしたかったが! だが気が付けば集団睡眠でお代わりすらできなかった。
挙句の果てに逃走を許すとか!
「おい、追跡系ジョブの奴らに追跡させろ!」
「ハゲー! ではここは探索者ジョブの我々にお任せください!」
「探索者ジョブか……大丈夫なのか?」
確かにスキルの判定に成功すれば追跡や探索において右に出る者はいないと言われるジョブだが……その判定が曲者なんだ。
「ふっ、お任せください……何を隠そう私は――!」
「ご、ごくり……」
「つい先日パチンコで二十万勝ちました!」
「パチンコで運勢誇る人初めて見た」
時の運だろそれ。
「因みにいくらつぎ込んだ?」
「二十万です!」
「それ勝ったとは言わねーんだよ!!」
ただのプラマイゼロじゃねーか!
「取り返したのだから勝ったんです!!」
「お、おう力説するんじゃねぇよ」
「なに、大丈夫ですよ。なにせ私にはこれがあります!」
そう言って部下が取り出したのは未来的なデザインの片メガネだった。こう、耳にすっぽり入る機械があって、その機械からレンズみたいなのが伸びてて――。
「いやスカウ○ーじゃないか」
「判定を底上げしてくれる測定器です」
「因みに名前は?」
「スカウトーです」
「○カウターでいいじゃんもう!」
「グエッコーさん」
「なんだ!?」
「伏字がズレてます」
「伏字とか言うな!」
はぁーもういい。ドラ○ンレーダーでもなんでもいいから早くそれを使って奴らを追跡しろ。俺の部下なのになんでこんなに上司にツッコミをさせるんだ。
「ではこの最新式スカウトーの力をお見せしましょう」
探索者ジョブの部下がスカウトーを耳に装備すると、そのスカウトーからピピピッ! と機械音声が鳴る。
「スカウトーなどのアイテム含めて諸々のバフスキルを使って……ふっ判定成功値95%か、ゴミめ」
「おぉ95%なら安心だな!」
「では……『
ピピピッと何かの音が部下が身に付けているスカウトーから聞こえた。
「ふっ、どのような数字でも成功値95%ならほぼ確実に成功する! この勝負、私の勝ちだ!」
「なぁそんなにフラグを立ててもいいのか?」
「ふっ、ご安心ください……何? 90%を超えた? 94、95……馬鹿なまだ上がり続けているだと!?」
ボンッ!
「グワーッ!
部下が身に着けていたスカウトーが爆発し、部下は倒れた。残るのはその惨状を引きながら見ている他の部下と俺。
うん。
「……やっぱパチンコに金をつぎ込んでる奴は駄目だな。次!」
金というのは確実にリターンがあるものに投資するのが賢いやり方なんだ。リターンを得られるかどうか分からないものにつぎ込んでも金は儲からない。商売とはこういうものではなくてはな。
「『永遠の髪を齎すリワード』……髪が生える上に莫大な富を生み出す技術……必ずや手にしてみせる……!」
◇SIDE センリ
「ふわ~ぁ……ふかふかなベッドです……センリきゅんが添い寝をしてくれるともっと幸せな気持ちになれると思いますが……どうです……?」
「お断りします」
寝惚けながら何を言っているんだろうこの人。
「それよりもほら、着いたよ」
「着いたって……何がですぅ……?」
「ほらもう顔洗って! 睡眠デバフが抜けきってないじゃん!」
「分かりましたぁ……ママァ……」
「『ポイズン――」
「はい今顔を洗いに行きますね!」
もう完全に覚醒している動きなんだよそれ。
取り敢えず僕たちはようやく大豊森林に辿り着いた。だが問題はここからだ。僕たちの目的地は大豊森林の奥深く。当然、奥に行けば行くほど出てくるモンスターも凶悪なものになるのが、この大豊森林の特徴だ。
その上。
『ソレデハ 消エタイト 思イマス』
「うん、ありがとね」
大豊森林を進むのに大型系の乗り物アイテムはNGだ。当然これまで僕たちを安全に目的地まで連れて行ってくれたキャンピングカーも大豊森林の入り口でおさらばである。
「いつになったらロボットを出せるんだろう」
「またの機会って奴だな」
折角博士から貰ったのに、手に入れてから全然呼び出せていない。まぁ行く先々の目的地が軒並み乗り物アイテムに制限がかかるような場所ばかりだからなぁ。
「では前衛は私ですね」
「じゃあサブアタッカーは俺ッスね」
「後衛はセンリだな」
:センリちゃんって吟遊詩人だから味方のサポートもできるしいざとなればロケランとかの手段で遠隔DPS職みたいな動きもできるしな
:ロケランで敵の悲鳴を奏でる吟遊詩人
:節子、それ吟遊詩人ちゃう。ラ○ボーや
なんだァ?
てめェ……。
「センリきゅん、キレた!」
「コメント欄を見るのやめよう、な?」
「いいもん……どうせみんな楽器を持ってる僕よりもロケランやロボットを使ってる僕に期待してるんだもん……」
「いじけてて可愛いですねあいたっ!?」
「フォローする気あんのかお前」
取り敢えずなんとか落ち着いた僕は、こうしてみんなと一緒に大豊森林の奥地へと向かった。因みにちゃんと『信じる者たちの鈴』も使って信者もといファンたちを呼び出し済みだ。
これで前方の安全を確認できるだろう。
しかし。
「……あれ、敵の数が少ないですね……?」
「おかしいな……俺一人で来た時はメタルク○ラの軍勢もかくやってぐらいの絶望ひしめく光景だったんだが」
二人の言う通り、大豊森林は奥に行けば行くほど危険性も難易度も跳ね上がる場所だ。人食い植物とかの危険性はあるものの、僕たちを襲うモンスターはやけに少ない。
「教祖様! あっちの方で戦闘音が!」
「……確かにあっちで戦闘の音が聞こえるね」
「どうする?」
「……例え危険があったとしても、異常を確認してみないことには安心してこの森を進むことができません」
こサギがいれば大抵のモンスターを相手取れることができるだろう。だけどそんなこサギでも対処できない何かがこの状況を生み出しているとしたら、この謎の戦闘音をスルーするのは危険なことだ。
「……行こう」
「……分かりました」
そうして音が聞こえる方へ行き、見つけたのは。
「センリさんの行く手を阻む脅威はこの私が事前に排除する! これが愛に生き、愛のために戦う男!」
それなりに大きいパワードスーツを着た人物が大量のモンスターを倒していく光景があった。いやそれよりもこの寒気がする声は――!?
「まさか……!?」
「そう我こそはロマンティック・ミカエル、ここに参上!」
「なんでここにいるの……!?」
そう物陰で、しかも小声で呟いた瞬間グルンとミカエルが僕のいる方向へ顔を向けた。
いや怖いよ!?
「やぁ待ってましたよセンリさん!」
「いや、ちょ」
近付いてくる変態に顔を引き攣っていると、僕を守るようにこサギが前に出てきた。
「――ちょっと」
「……むっ」
相対する二人の変態。片や見下ろし、肩や見上げてお互いを睨んでいた。
「ウチのセンリきゅんに馴れ馴れしいんじゃないですか変態ストーカー仮面さん」
「そういう君こそセンリさん相手に欲望をぶつけ過ぎじゃないのかな変態子ウサギさん」
:やべーぞ修羅場だ!
:変態と変態の邂逅かぁ……
:あーあ出会っちまったか……
:しかも同族嫌悪に同担拒否とか草生える
……え、なにこの状況。
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