第23話 「なんで僕だけこんなんばっかりいい!!」

「一巡して次俺かぁ……」


 ハツモが嫌そうな顔をして前に出る。何せ二以上を出すと確定でアスレチックに参加するからだ。しかも内容がヌルヌルローションアスレチックとかいう嫌がらせの極致みたいな場所だから尚更だろう。


「こうなったら一を出して有用なバフカードを出すしか……!」


 そうして出した出目は……まさかの六。


「ウッソだろお前!?」

『うわぁ……』


 確定アスレチックかつ、例えクリアしても確定地雷マスだ。もうなんというか、序盤なのになんだろうねこの底なし沼みたいな状況。


「俺は運命の女神に嫌われてるのか……?」


 :寧ろ好かれてるのでは?

 :運命の女神は愉悦部だからな……

 :女神「ぷぎゃーwww」


 僕がいるマスを通り過ぎ、ハツモは死んだ顔でアスレチックマスに入る。その瞬間、ハツモに向けてアナウンスが鳴った。


『アスレチックマスに入りました。制限時間なし。奥にあるランダムカードに触れた瞬間クリア判定となります』

「でもヌルヌルローションなんだよなぁ……」


 最初は細い道を渡るヌルヌル平均台。

 次は坂道を登るヌルヌル坂道。

 そして最後の関門は振り子のように揺れる障害物を掻い潜って進むヌルヌル障害物ロード。


 この三つの関門を掻い潜って奥に配置されているランダムカードに触れればクリアだ。


 そしてハツモが挑戦している間、他の参加者にもターンが回ってくるのだ。ハツモの次は当然マクリールだ。


《一だぬ、一だぬ、一だぬ、一だぬ……一ィィイイイインヌッッッ!!!》

「いや君は強制で六だってば」

《六だぬううううう!!!》


 マクリールの出目は僕が与えたバフカードによって強制的に六になってる。どんなに願っても確定された運命からは逃れられない。現実は非情だね。


「来たか……」

《あの女は悪魔だぬ……》


 :何回訂正しても女固定で草

 :そんなんだから悪魔に目を付けられるんだよ

 :お前らも悪魔呼ばわりしてんじゃんwww


「だが大丈夫なのか? そんな二頭身でこのヌルヌルアスレチックをクリアできるのかよ」

《ふんっぬ。心配するなら己の身を心配するんぬ。何故ならこっちには武器があるんぬ!》

「武器だと!?」

《これがこの施設全体を任された自動接客人形サービス・ドールの特権にして奥の手! フラガラッハアーマー! カモォオオンヌッ!》


 その瞬間、マクリールの金色の体を覆うように金色のパーツが集まってくる。二頭身だったマクリールの頭身が上がり、現れたのは金色の戦士。


「頭身が上がった!?」

《フラガラッハ・マクリール、ここに見参ぬ!》


 外見はスマートになった宇宙服のよう。頭部の金魚鉢みたいな球体は操縦席のようで、そこでマクリールが操縦レバーを握っていた。


《これで欠点だった運動性能は克服されたんぬっ! 最早このアスレチックは貰ったんぬぅぅうう!》

「ま、待て!?」

《ふんごぬっ!?》


 マクリールがヌルヌル平均台に立った瞬間、足を滑らせて機体の股間が平均台に強打。そのままマクリールはピンク色の奈落へと落ちていった。


《運動性能上がってもヌルヌルは駄目だったぬぅうううぅぅ――……》

「えぇ……?」


 フラガラッハ・マクリール。ヌルヌルアスレチックで奈落に落ちて脱落。このまま再びスタート地点に戻った。


《もうわっちゃあはここから出れないんぬ……》

「滅茶苦茶絶望してる……」

「センリきゅーん! こっちも順調に進んでますよー!」


 見れば先に先行してるこサギとマナナン、そして相手チームのゴーレムたちはカードを駆使しながら進んでいた。

 どうやらバフカードは自分や仲間にやって、デバフカードは相手側に付与するなど王道的な攻防を繰り広げているようだ。


「次は僕か……」


 僕はサイコロで何を出しても目の前にあるローションアスレチックに入ることになる。もう鬱になりそう。


「出目は二かぁ」


 アスレチックマスに入ると、いきなり立っている場所がローション塗れになった。立っているだけで滑りそう。

 そして僕の前にはハツモがおっかなびっくり平均台を渡り続けている光景があった。


「……せっ……押せっ……!」

「やめろぉセンリッ!!」


 :味方にも嫌がらせすんなwww

 :そのセリフを言われると本能的に焦るよな

 :センリちゃん活き活きしてるなぁwww


「まぁとにかく、このアスレチックをどう攻略しようか……」


 今僕が考えている攻略法は二つ。真面目にやる王道的攻略とやると周囲からのバッシングが免れない邪道的攻略がある。


「おっしゃあ!! 渡り切ったぞぉ!」


 どちらかの方法で悩んでいるとヌルヌル平均台を渡り切ったハツモが喜んでいるのが見えた。


「ほらセンリも来いよぉ!」

「……もう、しょうがないなぁ」


 ハツモに催促されたらどっちかの攻略法で悩んでも仕方がない。リョウの時とは違って身体能力はゲーム準拠なので、取り敢えず真面目にこのアスレチックコースの攻略をすることにして――。


「ふみゅ!?」

『あっ』


 一歩踏み出した瞬間、床のローションに足を取られてその場ですっ転んだ。


「いっ……たぁ~」


 立ち上がろうとした瞬間、手もローションによって滑って上手く起き上がれない。そうして何回もすると体中がローションによってヌレヌレになってしまう。


「うぅ……ぬるぬるするぅ……」

「キタコレッッッ!!!!」

《うわ急な大声にびっくりしたデス》


 :50000¥/ やったぜ。

 :50000¥/ これで明日も生きれる

 :【G・マザー】50000¥/ うほほほほほ

 :50000¥/ キタ! ヌレヌレ水着キタ!

 :50000¥/ これで勝つる!

 :50000¥/ 待ってたぜぇこの時をよぉ!


 もう、嫌だ……なんでこんな目に遭わないと行けないのか。涙目になっていると自分の番になったフラガラッハ・マクリールがアスレチックコースに入ってきた。そしてヌレヌレになった僕に向かって楽し気な雰囲気を出す。


《ヌレヌレで困っている人発見だぬ~。いや~因果応報とはこのことだぬ~ぬっぬっぬっ!》


 そう言ってマクリールは平均台に足を着いた瞬間、また滑って奈落の底に落ちた。


《これが煽った報いかぬぅうううぅぅぅ――……》


 もう何かを言う前にフラグを回収するのやめてくれるかな。フラグ回収が早すぎて嫌がらせをする暇もないんだけど。


「とにかく……分かったよ」


 ローションアスレチックを生み出したこサギも、やけに盛り上がって好き放題に言ってるコメント欄にも怒りました。もう何も怖くありません。邪道的攻略でもなんでもしてこのアスレチックから抜け出してやる!


「……『コール』!!」

「センリ? いったい何を――」


 そう発した瞬間、僕の体が浮かび上がってどこからともなくやってきたバードボルテージバイクの上に跨るように乗った。しかもバードボルテージバイク自体、自動制御機能があるのでローション塗れな地面にいようとも滑らない。


「そして『サウンドビジュアライズ』!!」


 歌詞の柱を生成してゴールへと一直線に繋ぐ! それは最早勝利へと向かう『栄光の架け橋』のよう!


「いや、ちょ、待てセンリ!?」

《それは流石に卑怯だぬーっ!?》

「アスレチックの概念壊れますよ!?」


 仲間やマクリールからの文句が聞こえるけど僕には聞こえない。僕はもう過去は振り返らない。勝つまでは!


「アクセル全開!!」


 :センリちゃんのローションショーは!?

 :そこにないならないですね(血涙)

 :そんなー


 そうしてバードボルテージバイクで栄光の架け橋へと昇り続けた僕は、ようやくローションアスレチックを一抜けしたのだった。


「ここだ!」


 目押しして得られたカードは幻覚を見せるタイプのアスレチック。当然僕はこのカードを即使用。場所はこサギたちがいるマスの目の前である。


「なんでですか!?」

「やられたらやり返す……倍返しだ!」


 :センリちゃんもう無差別やんけwwww

 :これは友情を破壊するタイプの遊び方

 :パーティーゲームだとこんな性格になるんだ

 :【A・シスター】だからパーティーゲームに関してはお兄ちゃんとやりたくないんだよね……

 :【リョウ】ある日それで友人と喧嘩したせいでパーティーゲームを封印したんだよな

 :妹ちゃんとリョウのお墨付きかよwwww

 :センリちゃんに悲しき過去……

 :悲しいっていうか当然というか

 :【リョウ】あ、ちゃんとその友人とは仲直りしたから安心しろ


「そして三マス目!」


 まだ移動可能数が残っていたためアスレチックマスの次のマスに止まる。止まったマスは条件マスだ。条件をクリアすれば任意のカードを貰えるマスでもある。


 そして出てきた条件は――。




『グラビア撮影で点数を一定数稼げ』




「イヤッフゥゥウウウウウウウ!!」

「なんで僕だけこんなんばっかりいい!!」

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