元メンヘラの僕はクラスで一番のリア充のフリをするメンヘラ美少女に振り回されない。
ロリポップじらい
第1話 自己紹介に潜むメンヘラ
「……です。お友達になれたら、ずっと一緒にいて、毎日遊びたいです。お友達のことは……なんでも知りたいです。どんなご飯を毎日何時に食べるのか……お風呂やトイレの時間。今何してるかがわからないと……不安になるので……そうならないように……していきたいです。それから——」
可憐な少女の自己紹介に騒がしかったはず教室はいつの間にか静寂に包まれていた。皆、幼い頭なりに、少女の価値観の異常性を感じ、関わるべきではないという判断を下したのだろう。
「あぅ……」
優しい微笑みで話していた少女はその様子に気づき、言葉を止め、その空気の圧力にいつの間にか涙目になっていた。
そこでようやく、周囲の子ども達も顔を見合わせ、感情を共有する様にひそひそと話し始める。
そんな中、一人の少年が勢いよく立ち上がった。
そして少年は周りの注目が集まったのを確認すると、自分の机を蹴り倒した。
派手な音が鳴った。
「……!」
少年は何をいうでもなく、どこを見るでもなく、今度は椅子を蹴り倒す。その後、机と椅子を起こしたかと思えば、再び蹴り倒した。
どこまでも黙したまま、ひたすら派手な音で注目を集め、数刻前の空気をぶち壊し続ける無言の癇癪を起こした奇人の姿が、そこにはあった。
それは先生や他の生徒が必死で止めに入るまで続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん……」
不自然な体勢でうたた寝していた身体がピクリと反射的に跳ねて、目を覚ました。夢を見ていた気がするが内容は意識が戻った瞬間に消し飛んでいた。
「以上でこの高校についてのオリエンテーションはおしまいよー。それじゃあ残りの時間は自己紹介タイムにしますね。えっと、まずは……」
なんか、デジャヴ。こんな感じの夢を見ていたのかもしれない。
「はいはーい。センセ。私から自己紹介しまーす」
「おぉ、有栖川さん。じゃあよろしくね」
夢の内容は思い出せないが、それは僕の心に一つの単語を浮かび上がらせた。
メンヘラ。
インターネットの普及した現代においてこの言葉を知らない若者はいないと思う。
この春高校一年生となった若者オブ若者の僕にも馴染み深い言葉だ。
『お前、メンヘラかよ』
彼氏に昨日の夜送ったメッセが既読にならないとか、他の女の子に優しくしてたとか、そんなことで悩み、友人に相談しようものなら、第一声でこのセリフが返ってくる可能性はそれなりに高い。
ちょっとそれっぽい話をすれば、冗談混じりにこのワードが会話に出てくることはままあるわけだ。
「
「ちょっとひおりん適当すぎでしょ。最初に手上げたんだから、もうちょっとうまくできないの?」
だが、当然そんなものは僕に言わせれば、メンヘラでもなんでもない。
僕はお前らとは違う。
遊び半分でメンヘラという言葉を用い、その言葉の重みを薄れさせていく愚か者とは違う。
「えぇ、じゃあ、あまちがお手本やってよ。その後もう一回私やるから。私よりうまくできなかったら、ジュース奢りで」
僕は、本当のメンヘラを知っている。
「えぇ……まぁ、いいけど。というかちゃっかり二回も自己紹介しようとしないの。もうあなたの適当さは十分伝わったでしょ」
本当のメンヘラというのは
「
「なんか固くてつまんないー。モデルやってること隠してるし。あまちハーゲンダット奢りけってー」
「なっ、ガヤ早くない!?ってか高級アイスなんて聞いてないんだけど!」
———あの二人めっちゃ可愛くね?
———ばかしらねぇの?入試の主席と次席だ。
———あの潮海雨音と同じクラス!俺達のクラス大当たりじゃん!
———おい、まだか。有栖川さんのピンスタのアカウントさっさと探せ。
———今やってる!
———馬鹿野郎!潮海さんのが先だろうが!モデルだぞ!モデル!
いうのは……
「おいおい、まだ序盤だぜ。二人で盛り上がんなよ。男にも手番さっさと回せ」
「あんたがのろのろしてるからひおりんが最初に始めてあげたんでしょ」
「るせぇよ雨音。俺は
えっと……
「うわ、うぜー自己紹介。実力が伴ってんのがさらにむかつくし」
「はっ、燐。お前もいたのか。じゃあ次お前やれよ」
だから……
「
「はいはーい。誰の個性が強いのか詳しく!」
ほら……その、
「なんでお前が聞いてくるかな、有栖川」
———え、待ってやば。あの二人かっこよくない?
———二人ともスポーツ推薦蹴って入学してきたんだって
———きゃー。やばーい。勝った。うちのクラス勝った。
———くっそ、イケメンが二人も。
———あの四人ってもうできてたりするのか?
———馬鹿。そんなわけあるか考えるな。
まぁ、なんかやべぇ奴っていうか、地雷系っていうか、ヤンデレっていうかほら……うん。
ヤンデレとの違い?
知らねぇよ。ぐぐれ。
リスカとかなんかやばそうな雰囲気あったら大体メンヘラってことでいいだろ、めんどくせぇ。
でも、僕は本当に知ってんの!!ホントのメンヘラを!
学校のあいつらとは違うの!
うるさい、あああああ。もうわかんない。わかんなくなっちゃった!
「えっと、まだ自己紹介が終わってないのは.......三咲くんだけだね、トリ、お願いね」
「あ、み、
ガタン。空疎な着席音が響き、自己紹介で盛り上がっていた教室が静寂に包まれる。
そして、一拍置いて、少しざわつく。
——え?なんか急に空気やば。なにあの子
——あんま言うなよ。クラスに一人はいるだろああいうつまんねぇ陰キャ。珍しくもない
——あの男の子さすがに前髪長くない?眼鏡だしほんと暗そう。
——眼鏡関係ねぇだろ。トップ陽キャの俺に謝れ
——お前がトップ陽とか、ないわ。最初の四人見てなかったのかよ。
ほんと誰なんだか。新学期早々、場の空気凍らせんなよな。ああいうやつが三年間ぼっちで暗黒の高校時代を過ごすことになるんだよね。
どうせ、頭の中で一人会話でもしてて、自己紹介の内容なんてなんも考えてなかったんだろうね。
キモいキモい。
「え、えーっと三咲くんは趣味とかはないのかな」
アニメ、ラノベ、マンガ、ゲームやね。他は大体嫌いかな。
「あ、き、嫌いなものはたくさんありますが、趣味とかは特に……」
「ぶ、部活とかはもう決めてるの?」
入るわけねーだろめんどくせー。
「あ、き、帰宅部に……」
「そ、それは部活というか……じゃ、じゃあ好きな食べ物とかスポーツとか……」
なんでお前にそんなこと教えなきゃいけねーんだよ。
「あ、そうですね、と、特には……」
「そ、そう。ありがとう。じゃあ、自己紹介タイムは終わりということで。みんな、まずは一年間頑張っていきましょう!」
微妙な空気のまま、ホームルームは終わり、その後は何事もなかったかのように、クラスの中心人物たちによって普通のクラスが出来上がっていった。
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