第45話 配信と金づるたち
シェリアにもらった猶予は三日。
その三日というのは、休日一日と、活動日が二日。休日は武器を買うぐらいしかやることが無いので、活動日一日目にレベル上げ、そして二日目にボス討伐――という流れを予定している。
ちなみに、スマホで掲示板を探ってみたところ、いまのところこの第一エリアの最後のボスに挑もうという人々はいないらしい。やはり死ぬことがないとわかっていても、負ける確率が高いと睨めば挑まないのだろう。
俺たちが確実に勝てるのかと言われたらそれはわからないけど、これはティティの働き次第だろうなぁ。
「みなさんコンクル~~! こちらヤックルチャンネルです!」
「いつからヤックルのチャンネルになったんだよ……」
というかなんだその配信者みたいな挨拶は。いつのまに準備してきたんだ。
「そうだぞヤックル。これは私のギャンブルチャンネルだ」
「違うからね? 魔物を倒してレベル上げをする配信だからね?」
とは言ったものの、配信を映すカメラは現在ティティの手物を映している。気が向いたときに魔物と戦かう俺たちを映しているといった感じだ。このあたり、どういう仕組みで動いているのかわからないけど、口で希望を言えばその通りに叶えてくれる。
「なんで単発なのぉおおおおおおおお!? 連チャンする流れだったじゃないかぁああああ!」
ヤックルが敵の目の前で反復横跳びをかまし、俺が背後から鉄パイプで殴りつけ、倒れたところに千春がとどめをさし、ティティが不幸を叫ぶ。
この配信にいったいどんな需要があるんだろうかと思っているのだが、犬畜生を始めとして、『ヤックル推し』というやたらとヤックルを褒める人、それに加えて『ヤックルの下僕』という名の人が頻繁に投げ銭を行ってくれていた。
その他に、コメント欄では後半の二人に対し『神祖の吸血鬼』という名の人が、『無駄遣いしないでしよ!?』と怒っていた。そんな感じで、めちゃくちゃコメント欄が騒がしい。
おかげで、かなりの金額が配信に流れてくれている。ただ、どこかの馬鹿のせいで現在進行形でお金は消費しているのだが。
ティティに攻撃が被弾し、彼女が幼女化してしまうことに関しては何とも思わないのだけど、それだと彼女に経験値が入らなくなってしまうから困る。だから、俺たちはこのギャンブル中毒を守りながら戦う必要があるというわけだ。
一撃ぐらい喰らわせてやりてぇと思ったのはここだけの話。
「締めの時間ぐらいに一撃喰らわせてやりたいわね。どうせ半日しか幼児化しないのだから、明日に影響はないでしょう?」
「同感だけど余計なリスクは背負わないでおこう……やるならボス戦のあとがいいだろ」
「それもそうね」
「蛍と千春の会話聞こえてるからなぁ!?」
どうせギャンブルに集中しているだろうと予想して普通に会話をしていたらティティにツッコまれた。
ヤックル推し:もっとヤックルにかまってあげなさいよ!【1500円】
犬畜生:あぁティティ様、今日もあなたは美しい【20000円】
ヤックルの下僕:本日分の口止め料です。お納めください【10000円】
神祖の吸血鬼:ちょっとあんたたち! 最近お金遣い荒いわよ!?【500円】
ヤックル推し:リーダーだろうと文句は言わせないわ
ヤックルの下僕:これは必要経費なのです。ところでシェリアも投げ銭をしているから人のことは言えませんよ?【500円】
神祖の吸血鬼:だってお金投げて目立たせないとあんたたち無視しそうだし【500円】
犬畜生:シェリアって――お前たちまさか?
ヤックルの下僕:私はセイルとかいう人ではありません
ヤックルの下僕:ところで、コメントの削除のやり方をどなたか教えてくださいませんか?
隙あらばメイテン:こんどコーラ奢ってください【200円】
ヤックル推し:そのお金で買えばよかったんじゃないの?
配信欄のコメントを見てみると、もはや掲示板みたいな感じだった。配信の内容に触れているやつは誰一人いない。完全な無法地帯と化していた。
「ふふ、金づるがいっぱいね」
「千春はもう少し言葉を選ぼうな」
否定はしないけども。
ヤックルはところどころコメントを拾い上げて読んだりしながら、ティティの後ろについてギャンブルを一緒に楽しんでいる模様。雑魚敵に関しては俺と千春だけで問題なく倒せるからいいけどさ……ヤックルまでギャンブルにハマりそうで怖いんだが。
「ヤックルはギャンブルをしないでくれよ」
ティティ以上に問題児になってしまいかねないぞ。
俺の言葉を聞いてこちらを振り返ったヤックルは、ニコリと笑ってから口を開く。
「私はしないです! だって他人の不幸は蜜の味と言うじゃないですか!」
笑顔で随分黒いことを言う幼女だなぁ。
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