第36話 火力の問題



 森の奥地にいたバーサーカーウルフは、前回と同様に配信を付けて倒した。

 前回のスカルアーチャー戦では、千春とヤックルを庇って一度被弾してしまったけど、今回の俺は無傷で勝利。しかし、ヤックルは一度ボスの火の玉を喰らってしまったし、何よりも俺の体力がかなりギリギリだった。


 ステータスのおかげでいつもより長時間戦えているのだけど、その弊害か、限界を迎えた時に一気に疲労が押し寄せてくるのだ。終盤は、攻撃をかわすのにも一苦労していた。


 レベルアップ時に得られるポイントを、攻撃力だけでなく体力に振る必要がありそうだけど……攻撃力を上げないとその分長期戦になるわけだから、単純にレベル不足、そして人数不足ということが考えられる。


「でもいい人材はいないんだよなぁ」


 リビングに設置した購入したばかりのローテーブルに顎を乗せて、スマホの画面を眺める。


『脳汁気持ちぃいいいいいっ』


 俺が見ている配信では、女性がすべきでないヤバい顔で、ティティが大当たりを喜んでいた。アドレナリンがドバドバ出ているらしい。そして犬畜生が祝いの投げ銭をしていた。


「ため息を吐くと不幸になりますよ」


 テーブルの上でうなだれていると、アホ毛以外の髪の毛をタオルで拭きながらヤックルが言ってきた。


「不幸になるんじゃなくて、幸せが逃げるんだよ」


「一緒じゃないんですか?」


「微妙に違う――と思ったけど、幸せに逃げられたなら不幸だな。たしかに」


「ですよね! じゃあ私の勝ちです! 一時間ぐらい肩揉んでください! 最近スマホの見すぎのせいか肩がカチコチで」


 ふんふんと自慢げに鼻を鳴らしながら、俺の隣に背を向けて座るヤックル。誰が揉むかボケ。

 甘ったれた考えを正すために背中を蹴り飛ばしてやろうかと考えていると、俺の後ろから現れた千春が代わりにヤックルを蹴っていた。


「あひぇ!?」と情けない叫び声をあげてごろごろと床を転がった彼女は、壁に激突して静止。涙目で立ち上がる。


「な、何をするんですか千春さん! 暴力反対です!」


「肩が凝っていたのよね? ほぐしてあげたのだけど、お気に召さなかったかしら?」


 いやたしかに肩を蹴っていたけどさ……その言い訳には無理があるんじゃないかなぁ。ヤックル、三回転ぐらいしてたぞ。


 だが、


「良かったなヤックル。千春に肩をほぐしてもらえて」


 俺は千春の味方なのだよ。俺も願わくは蹴ってもらいたい。


「千春、ついでに俺も蹴ってくれないか? できれば、靴下を脱いでからお願いしたい」


 耐え切れず、俺は願望を口にした。

 そういう性癖ってわけじゃないけど、好きな人には触れられたいだろ? プリントの受け渡しの時、肌と肌が少しでも触れたらドキッとするだろ? つまりはそういうことだ。


「死ね」


 生ごみに湧いた蛆虫を見るかのような視線と、罵倒を頂いた。俺はどこで間違ったのだろう。俺の不幸がよほど嬉しかったのか、ヤックルは俺を指さしてゲラゲラと笑った。なので、腹いせにアホ毛を握ってやった。いやらしい声をだすんじゃない。

 その結果、なぜか千春が俺のことを蹴ってくれた。ありがとうございます。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 その日の夜、俺は自室の布団に横になってから、スマホの画面を眺めていた。

 夜の十時を過ぎたし、隣の部屋の二人もそろそろ夢の世界に旅立ったころだろう。


「どうするかなぁ……」


 そう呟きながら、俺が眺めているのはスマホに映るステータスの画面。

 バーサーカーウルフを倒してもレベルは上がらなかったので、以前としてレベルは6のままだ。しおりに買いてあった通り、レベルが上がるスピードは遅くなっているように感じる。


―――《森野蛍》―――

レベル:6

HP:350 MP:350

攻撃:85 防御:35 速さ:35

体力:35 魔力:35 

固有スキル:限界突破

―――――――――――


 体力はHPと連動しているだけでなく、どうやらその名の通り体力――つまり持久力にも影響しているようだ。できれば攻撃力を高めて短期決戦と行きたいのだけれど、そうも言っていられないんだよなぁ。


 ランニングなどで得られる基礎体力の向上など、ステータスの前ではあまり塵のようなものだし。


「俺や千春以外にもう一人、火力の高いアタッカーがいてくれたらいいんだけどな」


 ギルド加入検討中のティティと言えば、レベル1のギャンブル中毒。

 彼女が賭け事から足を洗って戦闘に専念してくれたら、もしかしたら俺の望むような展開になるかもしれないけれど、どうやってもあの人はギャンブルを続ける気がするんだよな。


「寝るか」


 面倒なことは明日の俺に任せるとして、今日のところはおやすみなさい。



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