第34話 私の名はティティ



「やぁ初めまして。私の名はティティ、ニーケリアという世界の代表者であり、戦力期待値0でギャンブルを生業としているものだ」


 赤髪の土下座ウーマンは、その姿勢を崩さぬままティティと名乗った。せめて顔を上げてから喋ってくれ。

 というか、ギャンブルをしているティティ……? それってもしかして、あのパチンコ実況配信をしていた奴じゃないか? 犬畜生――じゃなくて、ダックスが投げ銭をしていたっていう。配信で見た後頭部と瓜二つだし。


「それで、そのティティさんがうちにいったいなんのようですか?」


 顔を上げてくださいというのも面倒だったので、そのまま会話を進める。

 すると、


「ぜひ、君たちの仲間に私を加えてもらいたいのだ! この通りだ!」


『この通りだ!』と言われても、ずっと土下座の姿勢のままだから変な感じだな。

 ま、彼女に対する答えは誠意とか関係なく決まっている。


「お帰り下さい」


「なんでぇ!?」


 そこで、ようやく彼女は顔を上げた。

 女性にしては短めの赤髪――ボーイッシュで、女子高に居れば王子様というポジションにつきそうな端正な顔立ちをしていた。目は大きく、鼻はしゅっとして唇は薄い。


 顔だけ見れば中世的なのだけど、身体の凹凸を見れば女性であることを疑うことはできない。何がとは言わないが、でかい。たぶんEとかそういうレベルだろう。

 そんな彼女は、現在ボロボロと涙を流していた。


「『なんでぇ!?』じゃないでしょうが! ただでさえ回避専門のやつを加えたばっかりだっていうのに、ギャンブル中毒者まで入れたらもう俺たちは終わりですよ!」


 こないだのボス戦だって、結局ヤックルは後半跳び回っていただけだったし、千春は千春で配信カメラに向かって投げ銭を要求したりしていたし。

 これ以上まともじゃない奴が入ったら、俺の身が危ない。


「でも、ティティさんってたぶんひとりですよ?」


 ヤックルが、俺の服をつんつんと引っ張りながら言ってくる。


「そりゃずっとパチンコばっかり打っているやつとパーティを組む奴はいないだろうよ!」


 魔物と戦えないヤックルのほうがめちゃくちゃ可愛く思えるほどだ。

 たしかにこの前のヤックルはピョンピョンしていることがほとんどだったけれど、彼女のおかげで不意打ちには成功したし、あの日は今のレベルでは得られないであろう宝箱もゲットすることができた。


「さすがに無理だろ……」


 いやだが、彼女もずっとギャンブルをしているわけではないかもしれない。

 よくよく考えれば、魔物討伐の合間にパチンコをしている可能性だってあるじゃないか。


「ちなみに、今のレベルは?」


「まだ街の外に出ていないから1のままだな」


 ふむ……神ノ子遊戯が開始されて二週間が経ってなお、外に出ていないと申すか。


「お帰り下さい」


「なんでぇ!?」


 なんでもクソもあるかボケ。ただの浪費野郎じゃないか。

 ため息を吐いて、メイテンちゃんにでも通報してお帰り願おうと思っていたところ、ティティが俺のズボンにしがみついてくる。


「加入金が必要か!? 金なら出す! 私には、どうしても叶えなきゃいけない願いがあるんだ!」


 ボロボロと涙を流しながら、ティティが言う。


「じゃあパチンコを辞めたらいいじゃない」


 俺の背に隠れた千春が、ぼそりと言う。


「やめられないんだなこれが」


 ドヤ顔する場面じゃないからな?



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ひとまず、道路を歩く近隣住民たちに奇異の視線を向けられていたので、俺たちはティティを家に招き入れた。仲間に入れるつもりは今のところあまりないけど、ギルド設営にはあと一人メンバーが必要だし、個人的に彼女の願いとやらも気になっている。


 魔物のいる異世界では、平和とは言い難い世の中だろうし――もしかしたら彼女はとてつもない重圧を背負ってこの遊戯に望んでいる――ことはないな。ギャンブルしているし。


「私は元の世界に――パチンコ屋を作りたいんだ!」


「「お帰り下さい」」


 期せずして、俺と千春の声がハモった。

あまりにも願いの内容がひどすぎるんだもの。しかたないよね。本当に彼女を代表に選んだ神様は泣いていると思う。


「もしあなたがうちに入ったとして、何のメリットがあるんですか?」


 九割九分は帰ってもらいたい気持ちだったが、メンバーが一人足りないという状況であるため、藁にもすがる想いで聞いてみた。


「四人でギルド設立ができるんだろう? 私を含めればメンバーが揃うじゃないか」


「それはそうなんですが、それだと別にあなた以外でもいいですよね?」


「だが、その『以外』の人はすぐに見つかると思うかい?」


「…………」


 痛いところをついてくる。


「ギルドの設立資金である、百万円の四分の一は私が用意しよう」


「……ふむ」


 それは当然といえば当然なのだろうが、設立資金の他にも、彼女の配信によってお金を稼ぐことができるのならば、俺たちの生活や装備も充実し、結果として勝利につながるのかもしれない。

 でもギャンブル中毒者かぁ……俺たちのパーティ、彼女まで入ったら色物過ぎないか?


「少し、メンバーで考えさせてください」


 結局、その場での返事はしないことにして、俺はティティを一旦帰すことに。

 スキルのことを聞いておきたい気持ちもあったけど、以前ダックスが『マナー違反』と言っていたことを覚えていたので、その場では触れないことにした。


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