第13話 地球人、無双する
「誰かわからんが! その条件でいい! 頼む!」
犬耳の男――ダックスさんが魔物と戦いながらも返事をしてくれた。よほど幼児化が嫌らしい。
俺は千春の手を引いて、ざわつく観客たちの視線を集めながらドームに近づいていく。
千春と一緒にドームに手を触れてみると、【参戦しますか?】と書かれたウィンドウが目の前に現れた。
「する」「するわ」
選択肢がなかったので、口頭で意思を伝える。
すると、俺たちはドームの壁に飲み込まれるように、内側へと招き入れられた。
「えぇええええ!? 地球じn――うぼふぁっ」
ダックスさんの仲間であるフライパンを持った男性が、こちらを二度見してビッグゴブリンが振るう丸太の餌食になっていた。
俺たち、悪くないよね?
「なんで地球人たちが来てんだ!? 危ねぇから下がってろっ!」
ダックスさんは俺たちを見てギョッした表情を浮かべるが、すぐさま魔物に向き直ってオタマで敵のひざを攻撃する。敵のHPゲージは多少減っているけど……誤差レベルだな。
「ダックスさん! 俺はたしかに地球人だが、森野蛍って名前があるんだよ! ちなみにこの超絶美人でキュートな黒髪美少女は臼井千春だ!」
「聞いてねぇっ!」
その断末魔とともに、ダックスさんは丸太で大きく弾き飛ばされた。
ドームの壁に当たって、落下。
防御しつつ衝撃を和らげたようだが、HP残量はもうほとんどないに等しいレベルだ。生きているだけ凄いと思う。
「じゃあ千春、援護よろしく」
「任せなさい」
二人でダックスさんと魔物の間にやってくる。
すると、けほ――と苦し気な咳をしたダックスさんが声を掛けてきた。
「……おまえら、本気で勝つつもりか?」
もう俺たちの目は魔物に向けられているので、振り向きはしない。
だが、返答だけはしておいた。
「「この程度、勝てないはずがないだろ(でしょう)?」」
こっちには蛍がいるのだから――そう付け加えられた千春の言葉で、俺のテンションは爆上がりだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――焼き付けろ」
ルーティーンとなる言葉を呟き、戦いの準備を整える。身体は淡く黄色に輝き始めた。
「左わき腹が弱点よ、ちょうど身体の模様がちょっと赤くなっている部分ね」
「りょ」
千春の言葉を受け取った俺は、ボスのビッグゴブリンに向かって疾駆する。
スキルやステータスの恩恵を受けた身体の動かしかたについては、もう昨日の時点で学習済みだ。
「そんな大振りだといつまでたっても当たらねぇぞぉっ!」
丸太を勢いよく振りかぶるビッグゴブリン。俺の速さを見誤ったらしく、全く間に合っていないが。
『ガァアアアアアッ』
「ないすぅ!」
懐に潜り込んだタイミングで、ビッグゴブリンが悲鳴を上げる。跳びあがり、敵のわき腹に全力の拳を叩き込みながら上を見上げると、ゴブリンの両目に一本ずつ矢が突き刺さっていた。
おそらく二発同時に放っているのだろうけど、二本とも眼球のど真ん中に刺さっている。
動いている相手によくあそこまで正確に命中させられるもんだ。さすが千春。
膝を突いたゴブリンは、矢を引き抜いて顔を覆う。
おうおう! 矢が突き刺さった眼球が機能しているかは知らないが、戦闘中に自ら目隠しとは舐めてんなぁ!
「親父なら十回は殺してるぞっ!」
ゴブリンの膝を踏み台にして跳びあがり――こめかみに膝蹴り、肩を踏み台にしてさらに上昇し、前宙してからの――
「おらぁっ!」
踵落とし。
その攻撃とほぼ同時に、千春から三本の矢が飛来。ボスの両肩と喉に突き刺さる。
この時点でHPゲージは全体の5%ほどが削れたが、いったん距離を取って――なんて慎重になるほどこいつは強くない。ならばどうするか。
「このまま落とすわよ」
「さすが千春わかってるぅ!」
戦況を見ているのか、はたまた俺の性格を理解しているからなのか。
どちらにせよ、やはり俺と千春の相性は抜群だと思えた。
「でかいだけじゃどうにもならんぞ」
あてずっぽうに横薙ぎに振るわれた腕を、姿勢を低くして回避。次いで振り下ろされた腕を避けてから膝関節に蹴りを叩き込む。その間にも、千春の矢は次々にゴブリンへ突き刺さっていった。
男六人に十五分かけて三分の一のHPを削られたゴブリンは、戦力期待値0の俺たちに、僅か十分で残りのHP全てを消し飛ばされたのだった。
~~あとがき~~
次は掲示板回なので二連続更新だぁ!
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