第8話 ひ、ひ、ひかったぁあああああ!?



 あのキッチン用品が並べてあった店は正真正銘の武器屋だったらしい。ふざけすぎだろ。


 あの獣人の話を聞いたあとだと、攻撃力や防御力に補正が掛かるとはいえ、オタマや鍋のフタを買うことが無駄遣いにしか思えなくなり、俺はそのまま立ち去った。


 そして街の北にある出入り口から、外に出た。


「ひっろ!」


 辺り一面が緑の平原だった。

 遠くには山が見えるけれど、ああいうところにも魔物がいたりするんだろうか?


「なんか身体が軽いな。変な感じがする」


 ピョンピョンとその場で跳んでみたり、仮想の敵相手に殴る蹴るの動きをしてみる。


「ふむ……街の中じゃこんなことはなかったし、もしかしたらこのステータスの数値が外に出ると反映されるのか?」


 そのあたり、帰ったら千春に聞いてみようかな。


「え? 自分で調べないのかって? 俺は肉体労働担当ですから」


 そんな独り言をつぶやいてから、歩を進める。

 三分ほど歩くと、ちらほらと戦っている人を見かけるようになってきた。


 そして戦っている人はみな、大きなドーム状のガラスのようなモノに覆われている。戦闘は他の人が参加できない形式なのだろうか。


 さきほど犬耳獣人が言っていた『パーティ』とやらを組めば、多対一の構図にできそうだけども。


「定番のスライム、角の生えたウサギ、でっかいアリか」


 適当にぶらぶら歩きつつ、遠目で他の参加者が戦っている魔物を観察してみる。


「さすが各世界の代表者たちだ。みんな動きが洗練されてる」


 とはいえ、魔物も俺が想像していたよりずっと強そうだし、簡単には倒せてはいないようだ。


 スライムは最弱のイメージだったけど、マシンガンレベルで何かを吐き出しているし、ウサギも地球で見るチーター以上のスピードで半円の中を駆けまわっている。


 あの程度の速さならなんとかなりそうだな。

 親父の動きよりは遅いし。


 どこかに魔物はいないかなとぶらぶら歩きながら探してみると、数メートル前の地面から、ポヨンと水色のスライムが飛び出してきた。目と鼻はないようだが、口はあるみたいだ。


「お、おぉ! 思ったよりでかいな! これどうやったら戦闘になるんだ?」


 バランスボールぐらいのサイズはありそうだ。

 昔漫画で見たスライムはサッカーボールぐらいのサイズだったんだがなぁ……本場はこのサイズ感らしい。


「まぁいいや、とりあえず倒してみよう」


 そう口にすると、敵の頭の上に【レベル:1】という表記、それから緑色のゲージが出現し、瞬時に俺とスライムは半透明のドームに覆われた。


「めちゃくちゃゲームだな。それにしてはリアリティが限界突破しているが」


 うねうねと身体を波打たせているスライムを観察しながら、そんなことをぼんやりと呟く。


 おっといかんいかん。戦闘に集中しよう。

 負けて幼児化でもしたら絶対千春に笑われるし、そんな格好悪いことをしたくはない。


「――焼き付けろ」


 いつのまにか、癖になっていた言葉を呟く。

 親父に毎度毎度『そんなものか! お前はもっと輝けるぞ蛍!』と言われて育ったもんだから、『ホタルの輝きなめんな!』『その目玉に焼き付けてやるよ!』といった感じで変化していき、結局短くなった。


 すると、


「いやいやいや! なんで本当に輝いてんの!?」


 戦闘前の言葉を口にした直後、全身に力がみなぎる感覚と同時に、身体が光輝きだした――と思ったら、消えた。


「いったいなんだったんだアレ――っとうぇええ!?」


 無視すんじゃねぇ! とでも言いたげに、スライムが口から水の塊のような物を吐き出してきた。連続で放たれるその水の弾丸を、バク転で距離を取りながら躱す。


「うへぇ、本当にお前最弱の魔物なのかよ」


 バク転の最中、スライムが放った水の塊がドームの壁に激突し、地面に落ちるのが見えた。草から煙が上がっているところを見るに、おそらく溶解液みたいな感じなのだろう。


 ダメージも怖いが、一着しかないこの制服が溶けたらやばい。親父の『ドキッ☆鉄球だらけの回避大会』を経験していなかったら危なかったかも。


「ちゃんと戦闘に集中しないとな――ってぇえええ!? また光ったぁあああああ!?」


 と思ったら消えた。

 どうやら戦闘に意識を向けると光るっぽい。

 っていうかこれって――、


「メイテンちゃんがくれたスキルか? でもたしか、極限の集中状態で発動するって書いてあった気がするんだけど」


 そもそも極限の集中状態ってのがなんなのかハッキリしないから、わからないんだよな。


 親父と戦う時は一瞬でも気を抜けば死が頭によぎるから、そりゃめちゃくちゃ集中しているけど、あいにくこれ以上の状態は知らないんだよ。


「ふむぅ」


 スライムの攻撃をかわしながら、考える、悩む、推察する、熟考する。


 五分ほどかけて、俺はある一つの可能性に辿りついた。

 そんなことあるぅ? と思いながらも、その可能性を完全に否定もできない。


「俺って稽古中、常に極限だったのかも」


 だとしたらこのスキル、常時発動しちゃうってことですか?



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