第6話 弱点は股間
メイテンちゃんはスキルの他に、俺たちにそれぞれスマートフォンを渡して帰った。
中にはメッセージアプリや掲示板アプリ、配信アプリなどのアイコンがあるけれど、単純な検索機能とかは備わっていないようだし、地球との連絡も取れそうにない。
多数あるアイコンのうち、『ステータス』という人型のマークをタップしてみる。
―――《森野蛍》―――
レベル:1
HP:100 MP:100
攻撃:10 防御:10 速さ:10
体力:10 魔力:10
固有スキル:限界突破
―――――――――――
ほうほう、本当にゲーム始めたてみたいなステータスだな。
あまりゲーム自体触ったことはないけれど、俺も人並みの知識ならばある。
スキルの限界突破の部分を指で触れてみると、説明書きが表示された。
《極限の集中状態に限り、ステータスを超えた力を発揮する。ALLステータス+100%》
「ふむ……限界突破ねぇ。めちゃくちゃ集中した状態じゃないと発動すらできないって感じなのか」
稽古中はいつも集中してるけど、それ以上となると感覚を掴むのが難しそうだ。
それはそうと、千春はどんなスキルを貰ったのだろう。得意な弓に役立つようなスキルはもらえたのだろうか?
そんなことを思いながら、俺と同じく畳んだ布団の上であぐらをかいている千春に目を向ける。すると、彼女はなぜか俺の股間をジッと見つめていた。
「私は弱点看破のスキルみたいよ」
「股間は男共通の弱点だけどさぁ! 普通は心臓とかだろ!」
俺のツッコみに対し、千春はわざとらしくキョトンとした表情を浮かべる。
「私はなにも言っていないのに急に股間だなんて――乙女相手になんてことを言い出すのよ蛍は。不潔ね」
「千春が見てるからだろ!?」
「なにか問題ある? なぜ蛍に私の視線まで制御されなきゃいけないのかしら? 束縛する男は嫌われるわよ」
え、えぇ……? たしかに束縛男にはなりたくないけどさ、これはちょっと違うよな? 俺、おかしなこと言ってないよね?
「だからちょっとズボンを降ろしなさい」
「そうはならんだろ」
「私の視線は、私が決める!」
「変態だぁ! HENTAI様がいらっしゃるぞぉ!」
そんならんらんとした瞳で見ないでくださいお願いします。
実際のところ、スキルは街中で使用できないらしいのだが、なんだか俺には彼女の瞳が怪しく光っているように見えちゃう。怖いね。
「私の胸を揉んだ件、掘り返して欲しいのかしら?」
「その節は大変申し訳ございませんでした」
形勢逆転は一瞬だった。こちとら土下座にはなれているので、要する時間はコンマ五秒もない。枕がフカフカで気持ちいい。
俺の後頭部をぺチと叩いた千春は、「じゃあこの件はこれでおしまい」と呆れ口調で口にする。
寝ぼけていたとはいえ女子の胸を揉んだのは事実――きちんと謝罪していなかったから、もう一度「ごめん」と謝っておいた。
「じゃあとりあえず、蛍は外の様子を見に行ってきてくれるかしら? 魔物も倒せそうなら倒していらっしゃい」
ちょっとコンビニでアイス買ってきて――みたいな軽いノリだな。これは信頼と受け取っていいのだろうか。
死ぬことはないらしいし、相手がヒグマぐらいのレベルならそもそも負けないからいいけどさ。
「俺も魔物とは戦ってみたかったけど、そのあいだ千春は何してるんだ? 暇じゃない?」
「私はこのしおりを読んでおくわ。上位を狙うからには、いろいろ情報は必要だろうし」
「なるほど」
頭脳労働を担当してくれるということだろうか。ありがたい。
俺は頭より身体を動かすことのほうが好きで得意だし、彼女もそれをわかって提案してくれたのだろう。
強制的に参加させられたゲームだけど、千春はわりとやる気があるようだ。
そういえば、
「千春は願いごとが叶えられるなら、どんなことを願うんだ?」
布団から立ち上がり、肩のストレッチをしながら問いかける。
「さぁ、なんだと思う?」
ふむ……千春の願いか。
千春の家はうちと違って、道場の門下生が多くお金に困ったりはしてないし、人間関係の不満を聞いたこともない。
彼女の口から愚痴が漏れるとすれば、父親が過保護すぎるというぐらいなもんだけど、さすがにそれを願いには使わないだろう。
「ふっ、もちろん知っているさ。千春の願いは『森野蛍と結婚したい』とかだろ?」
予想できなかったので、おふざけでそう聞いてみる。すると彼女はニヤリと笑って――、
「そうよ」
肯定した。
「マジでぇええええええええええっ!?」
「冗談よ」
「あぁああああああああああっ」
泣き崩れた。せっかく立ち上がったけど、もう一度畳んだ布団に顔からダイブした。
お布団きもちいい。
「それも冗談」
「なんだとっ!?」
「そしてそれが冗談で、さらにその冗談も冗談」
もう冗談が多すぎて何がなんだかわかんねぇ……冗談ってなんだっけ?
とりあえず、頭の悪い俺でもいつも通り千春にからかわれているということは理解できた。
結局彼女の願いがなんなのかはわからなかったけど、千春が楽しそうなので良しとしよう。
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