地球代表、ダンジョン攻略に挑む~戦力期待値0の俺、極限状態で発動するはずの限界突破スキルがなぜか常時発動しているので、異世界相手に無双します。
心音ゆるり
第1話 誘拐から始まる異世界生活
日も昇らない朝の三時。
体内時計に従い目をパチリと開けると、当然ながら真っ暗で何も見えなかった。
しかしなんだか、部屋の空気がいつもと違う感じがする。
匂いもそうだし、閉塞感というかなんというか――ともかく、違和感を覚えるのだ。
「電気電気……」
敷布団の横に置いてあるはずのリモコンを手探りで捜索。
しかし伸ばした右手に振れたのは長方形で硬い物体ではなく、布で覆われた柔らかな丸いナニカだった。
なんだろうか、これ。
身体を起こし、あいた左手で寝ぼけ眼を擦りつつ、脳内で現状把握に努める。
五秒経って、十秒経って、三十秒が経って――、
「――ってこれ人ぉおおお!? 誰だこいつ!?」
ムニムニと触っていた手を跳ね上げさせると同時、俺は足元に掛かっていた布団を上に蹴り飛ばして素早く臨戦態勢に入った。
――すると、部屋の明かりパッと灯る。
視界に映るのは、見慣れない八畳ほど和室。
そして、二つ並べられた敷布団の片方で寝息を立てている、白いジャージを身に付けた幼馴染の
それから、なぜかメイド服を身に付け、頭の上に金色に光る輪っかを浮かべた幼い不審者がいた。
彼女は部屋の隅でぷかぷかと宙に浮かべており、無表情でこちらをジッと見ている。
「……ふむ」
普通ならこの謎の子供を気にするべきなのだろうけど、いくらなんでもこれは夢に違いない。
だって見覚えのない場所にいるんだもの。
そうとなれば、寸前まで手を置いていた場所のほうが気になる。
ムニムニと触っていた場所は、はたして千春のどの部位だったのだろうか。
「私はメイド天使」
手に残る触覚の記憶を呼び起こしつつ、胸元がはだけてピンクの下着が見えてしまっている千春をまじまじと眺めていると、宙に浮く子供が言った。
「なに言ってんだこの子?」
おっと心の声が漏れてしまった。
そもそもなんで浮いてんだこの子。
最先端マジックかなにかですか? そんなことよりも、俺は千春のおっぱいを触っていたんですか?
見た目的にはおそらく中学生かそこらだと思う。ただ、顔の造りといい金色に輝く髪といい、どうやら彼女は日本人ではなさそうだ。
というかこの状況って――さすがに夢だよな? 明晰夢ってやつか?
「英語で言うとアイアムアメイド天使」
なぜ英語にしたのかはよくわからないが、得意げな表情を浮かべているので、次の言葉を待ってみる。
「よりネイティブに言うと……アイアンメイテン――っ!」
「天使はエンジェルだろ」
というか、絶対アイアンメイデンに近づけたかっただけだろ。
俺にはこんな意味のわからない夢に付き合っている暇はない。体内時計はすでに午前三時を過ぎている――日課の訓練に行く時間だ。
夢から目を覚ますために、自分の頬をつねったり頬をビンタしてみたり、畳に頭を打ち付けたりしてみたが、覚めない。
普通に痛い。ちょっと涙でた。
そんなことをしていると、声や物音で目を覚ましたのか、俺の隣で寝ていた千春が不機嫌そうな表情を浮かべて身体を起こす。
「俺の夢、リアリティすごいなぁ」
いちおう夢じゃなかったときのために、いつもの爽やかな俺で対応することにしよう。
「おはよう千春。寝起きの顔も素敵だな」
きらりと白い歯を光らせるように、とびっきりのスマイルを送る。できるなら歯磨き後が良かった。
しかし爽やか全開の俺に対する千春の返答は、力の限り眉間にしわを寄せての「はぁ?」である。解せない。
「なんで
本人そっくりじゃないか。もしかして、これって夢じゃないのか?
千春は寝惚けたような口調でそう言ってから、ジャージ姿の俺の胸を見つめ、お腹を見て、さらに下を見る。
千春の瞳がきらりと輝いた気がした。変なところ見ないでくださいお願いします。
「ねぇ蛍、私のスマートフォン知らないかしら? ちょっと数字を三つほど入力したいのだけど。あと通話ボタン」
「110押す気だろ!? というかさっきの『ついに』ってなんだよ! 俺が薬を盛るような人間に見えていたっていうのかお前は!」
おそらく、おっぱいは揉んでしまったけども!
「あなたならきっと、やると思っていたわ!」
「ポジティブなテンションで言わないでくれる!? それってニュースでボイチェンした人が言うやつだよねぇ!? 何かを成し遂げた人に言うつもりで言ってないよねぇ!?」
「取調室で食べられると噂のカツ丼の食レポ、待ってるわ」
「捕まらないよ!? そもそも睡眠薬とか盛ってないからね!?」
なんでこいつはこの状況でいつも通りの弄りができるんだ!?
荒い息を吐きながらもなんとか千春の暴走を止めたところで、傍観の姿勢を保っていた第三者が、落ち着いた口調で話し始める。
「その男、
「おいそこのメイテン! 誤解されるようなことを言うんじゃない!」
というかやっぱりあれは千春の胸だったのか!? ありがとうございます! 夢だとしても、ありがとうございます!
「あなたならきっと、やると思っていたわ!」
「千春の中の俺ってそんなひどいやつなの!? こんなに爽やかキャラなのに!?」
「こちら、その瞬間の映像です。4K画質でお楽しみください」
「空中に映さないでぇ! っていうかどうやってんだよそれ!?」
そもそもアレが胸だったとか知らなかったんだよ。とても残念なことに感触も覚えてない。
もし俺の記憶が鮮明なら、今頃この場は鼻血で血だまりができているぞ。
千春はなぜか、自分の胸が揉まれている映像を興味深そうに眺めていた。
「脅迫に使えそうね」などという言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだと信じたい。
「い、いまはそんなことよりこの状況について違和感をもつべきだろ! 知らない部屋に明らかに不審な少女と一緒にいるんだぞ!? どう考えてもおかしいだろ!」
千春の意識を映像から逸らすためもっともらしいことを口にすると、彼女は俺にジト目を向けたのち、不服そうにしながらメイテンちゃんに目を向けた。
危ない……もう少しで俺の爽やかで綺麗な印象が崩れるところだった。その印象が果たして元からあるのかは定かでは無いけど。
「自己紹介が遅れました。私はメイド天使、英語で言うとアイアムアメイド天使――」
「天使はエンジェルでしょ」
まったく俺と同じツッコみをしていた。しかも俺より速い……さすが千春だぜ。
「ネイティブに言うと、アイアンメイテンっ!」
「それ言いたかっただけでしょ」
メイテンちゃんは千春のツッコみに不満そうな表情を浮かべると、天井近くまで浮かびあがって両手を広げた。さっきのやりとり、いる?
「あなた方二人は、【
……? 急に何を言い出すんだこの子は。
神ノ子遊戯? なんかの遊びか?
「いったいなんなんだよ、それ」
「五千の神が育てし、一万の神ノ子が競い合う遊戯――あなた方二名は、神ノ子遊戯の地球代表として、この遊戯に参加していただきます」
まったくもって意味がわからないし、急すぎない? それに地球代表って規模でかくない?
「私たちに何かメリットでもあるのかしら? ないのなら今すぐに元の場所に帰してほしいのだけど」
順応速いな千春。俺はまだこれが夢じゃないかと疑っているんだけど。
「魔物を倒し、力を付けて上位を目指してください。上位十名には、どのような願いでも叶える権利が用意されています」
メイテンちゃんはそう言ったのち、どこからか取り出した五百ミリ缶のコー〇をグビグビと勢いよく喉に流し込む。
そして、ニヤリと口の端を釣り上げた。
「ただし――魔物も知らず平和な世界で暮らす地球人には、到底不可能なことだと思いまゴェゥエエエエエエエエエエエ」
バカにしながらゲップチャレンジするんじゃねぇよ。
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