第5話 こっそり付き合ってるだろ
「おっはよ、弘輝。彼女にプレゼントは渡せたの?」
週明け、学校へ登校し、教室に着くと千夏と晴斗がやって来た。
「まぁ、うん……渡せたよ」
「何渡したの?」
「クマのぬいぐるみ。ゲーセンで取ったんだ」
「えっ、いいじゃん。で、彼女は年上? 年下?」
あっ、この流れは順番に質問していき、最後は特定されるやつだ。
危ない危ない、気付かなければ危うく相手が七瀬だとバレてしまうところだった。いや、別にバレてもいいんだが、何となく相手が彼女だということはまだ誰にも言いたくない。
一人占めってわけじゃないが、せっかく仲良くなれたのに千夏や晴斗に言ってしまえばもう昨日みたいには話せなくなるんじゃないかと思ってしまう。
「同級生だ。答えたからこれ以上の詮索はなしだからな」
「え~、けど、恋愛相談なら私に任せてね」
「ちょっと待て。その女子が好きとかじゃないからな」
「いやいや、顔でわかるのよ。誰か好きな人ができてその人に喜んでもらいたくてプレゼントを渡したんでしょ?」
「違うから」
そう、俺はお裾分けのお礼をしただけ。プレゼントを渡すなら喜んでくれるものを渡したいと思っただけだ。
「まぁまぁ、好きな人ができたら教えてくれよ。絶対応援するから」
晴斗、いい奴すぎるだろ。千夏と違って詮索しようとはせずそう言ってくれるところとか。
「できたら相談するよ……」
誰かを好きになるなんて中学の時から全くない。付き合っている人を見て羨ましさはあったが、自分には遠い未来に見えていた。
***
昼休み。今日もいつも通り晴斗と食べることに。千夏はというと女子の友達と食べているので別々だ。
「弘輝、今日は久々に食堂に弁当持って食べないか?」
「あぁ、うん、そうだな。たまには別の場所で食べるのもいいな」
教室はすでに女子に占領されている状態であったので俺と晴斗は食堂へ向かうことにした。
「食堂も混むし急ごう」
「晴斗が千夏と話してなければこうはならなかったんだけどな」
「ごめんごめん」
食堂へ向かうため階段を下りて1階へ降りると廊下のところでポスターを貼っている七瀬を見かけた。
「大丈夫か?」
急いでいるが俺は見て見ぬふりができず七瀬に声をかけた。
「あっ、立川くん。上の方が───い、いえ、私は大丈夫です」
これ、頼もうとしてやめたよな……? 視線が俺が持っている弁当にいっていたのでおそらく七瀬は、今からお昼を食べるから頼るわけにはいかないと思ったのだろう。
弁当なんて気にせず、頼ってもらっていいんだけどな。
「晴斗、これ手伝ったら行くから先に行って席取りしてくれ」
「ん、わかった」
晴斗はそう言って先に食堂へ向かっていった。ここに残った俺を見て七瀬は、なぜ一緒に行かないのかと疑問に思っている様子だ。
「で、上が何だっけ? 弁当のことは気にせず頼ってくれ」
「……ありがとうございます。上の方をこの画鋲で留めてほしいです」
「わかった。2人でやって終わらせよう」
ポスターを貼り終えた後、画鋲を職員室にいる先生に返した。
「お手伝いありがとうございます」
「どういたしまして。七瀬もお昼、まだだよな?」
「は、はい……今から教室でと言ってもおそらくいつも一緒に食べている方達は食べ終えているでしょうし1人で食堂か中庭で食べるつもりです」
「……もし良ければ一緒に食べるか? 晴斗も歓迎してくれるだろうし」
「一緒に……ですか?」
「うん、良ければだけど……」
そう言うと彼女は、少し悩んでから口を開いた。
「お邪魔でなければ一緒に食べたいです」
じゃ、一緒に食堂に行こうかと言おうとしたその時、前から晴斗が歩いてきた。
「席空いてなかった。中庭で食おうぜ」
「やっぱりな。晴斗、七瀬も一緒にいいか?」
「えっ、もちろんいいけど何があったんだ?」
ポスター貼りをしている間に仲良くなったのだろうかと晴斗は思いながら俺と七瀬を見る。
「いや、何もないけど……。七瀬がお昼一人だから誘ってみた」
「はぁ……てか、知り合いだったのか?」
「同じ委員会なだけだ。じゃ、中庭に行こっか」
お昼休みの時間もないので俺は七瀬そう言って3人で中庭に出た。
これが教室ならなぜ七瀬と食べてるんだと七瀬ファンに痛い目で見られるが、中庭ならそんなこと一切気にすることはない。
「そういえば俺とは初めましてだよね。岩田晴斗、弘輝の友達です」
「は、初めまして……七瀬琴梨です。立川くんとはお友達です」
「へぇ~弘輝と友……えっ?」
委員会と説明してからの友達発言に晴斗は聞き間違いかなと思う。
「立川くんとは最近お友達になりました」
あっ……晴斗が点と点が繋がったみたいな顔してる。おそらくプレゼントの相手が七瀬とわかったのだろう。
「なるほど。七瀬さん、弘輝はいい奴だから仲良くしてあげてね」
「はい、もちろんです」
お弁当を食べながら俺は彼女の弁当を見た。料理ができるのでもしかしたら手作りなのかもしれない。
「それ、手作りだったりするか?」
「えぇ、手作りです。立川くんは、やはりコンビニですか……体が心配です」
凄い心配されてる。そして晴斗から意味がわからないことを目で合図されていた。
「もしよろしければ私が作って……いえ、私に作らせてください」
作らせて……つまり七瀬の手作り弁当が食べられるのか!? あ、あの美味しい肉じゃがまた。
頷く一択だったが、俺の分まで作ることになれば彼女に負担がかかってしまう。
「いや、いいよ。七瀬に悪いし……」
「悪い? 私は1人分お弁当が増えたとしても負担にはなりません。料理は好きなので」
「そうかもしれないけど本当にお願いしてもいいのか?」
「えぇ、任せてください」
「じゃあ、頼もうかな……」
そう言うと彼女の表情はパッと明るくなり、ふふっと笑った。
「はいっ、任されました」
俺と七瀬の会話をこっそり聞いていた晴斗は「こっそり付き合ってるだろ」と呟いていた。だが、その呟きは2人には聞こえていない。
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