第28話 見たいんじゃなくて、見せたいんだ!(陸奥志津香視点)

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。


 なんなの蒼のやつ……!


 そりゃさ、隣の席になれなくて、蒼が隣の席の成戸さんと喋ってるのに嫉妬してさ、蒼が気を使って駆け寄ってくれたのに、右ストレートでぶっ飛ばすとか言っちゃってさ。


 私が悪いよ? 私が悪い。うん、私が悪いのはわかってる。


 だが、ここまでだ。


 私が悪いのはここまでって話。


 あんにゃろ。


 こんなに綺麗でクールでちょっぴり茶目っ気のある最高の幼馴染の裸エプロンを堪能したってのに、それだけでは飽き足らずに、隣の席の女のパンツを見ようとするど変態だったとか、まじあり得ないんですけど。


 なんなの? あいつクールのくせに中身ど変態なの? くっそむっつりじゃんふざけんな。


 変態なら──。


「パンツより裸エプロンの方が良いだろうがっ! ぼけええええええ!」


 青春の叫びと共にダンクシュートをガシャンとダンクシュートを決めてやる。


「おおおおおい! ちょ、陸奥!? おまっ、ええええ!? 女バスがスラムダンク決める!? 練習で!? てか、パンツ? 裸エプロン?」

「先輩もパンツ派なんです?」


 なんかキャプテンが言ってくるので、ギロリと睨んでしまった。


「い、いやー。ナイッシュ! パンツよりも裸エプロンだよな。うんうん。さっ! みんなっ! 陸奥に負けずに裸エプロンで行こうっ!」


 はいっ! なんて歯切りの良い返事が聞こえる。


 とりあえず、色々と言いたいことがあるが、今はそんなことよりも蒼の野郎だ。


 絶対、許さないもん。


「荒れてるねぇ」

「荒れてるなぁ」


 体育館の隅っこで水分補給をしていると、千佳と友梨がやって来る。


「千佳ぁ、友梨ぃ……!」


 彼女達が現れて、私はへなへなぁっと力が抜けてしまい、その場にしゃがみ込む。


「どうしたの?」

「昼休み、上手くいかなかったか?」

「上手くいくとかいかないとかの次元じゃなくて、蒼が……蒼がぁ……」


 私は二人に事情を話した。うんうんと相槌を打って最後まで私の話しを聞いてくれる親友たちに泣きそうになる。


「なるほど。つまり水原くんは隣の席の成戸さんのパンツを見たかったんだね」

「つまり水原は、クールぶってるむっつりスケベなクソ野郎ってこったな」

「そうなんだよぉ」

「「──って、んなわけあるかいなっ!」」


 ていっと二人からチョップを頂く。


「いた。え? なんで?」

「いやいや、今の話からなんでそうなるのかな。ね? 友梨」

「だなぁ。明らかに話が跳躍してるだろ」

「で、でもでも、蒼の口からパンツの話がなんたらって……」


 私が説明しようとすると、友梨が肩を掴んで諭して来る。


「冷静になれ志津香。水原が本当にパンツを見たかったと言ったのか?」

「うんうん。水原くんは志津香に誤解を解こうとしたんじゃないかな」

「誤解を解く?」


 頷く友梨が予想を立ててくれる。


「多分、話の流れ的に、水原はパンツを見たいんじゃなくて、見せたかったんだと思う」

「うんうん。そうだ……は?」


 千佳が肯定しようとしたところで口をぽかんと開けていた。友梨がこそっと耳打ちをすると、なんか納得した顔になる。


「そうだね。成戸さんのパンツを見たいんじゃなくて、見せたかったんだよ」

「……いや、待って、え? 蒼って見せる方なの? 見られたい方なの?」

「「おそらく」」


 二人の重なる声が信憑性を増して、その事実が現実だと思わせる。


「きっかけは志津香の裸エプロンだろうな」

「だね。水原くんは、幼馴染の裸エプロンに感化されて目覚めちゃったんだよ、きっと」

「……蒼。私のせいで……」

「だから志津香よ」

「水原くんのパンツ。見てあげて。そうすれば彼は報われるはずよ。その手を差し伸ばせるのは志津香しかいないから」

「私だけ……」


 そうだよね。私だけだよね。蒼を救えるのは私だけ。


「私! 蒼のパンツ見る! 見ててね二人共! この試練、必ず超えてみせる」


 私は気合いを入れて練習に戻った。




 ♢




『陸奥うううううう! リングを潰すなああああああ!』

「ねぇ友梨」

「なんだ千佳」

「あの子、高校二年生だよね? 高二の女子だよね?」

「だな。大人なクールビューティな感じを出しているが、間違いなく高二の女子だ」

「あんな幼稚園児でも騙されない冗談を信じる?」

「志津香は水原のことになると周りが見えないからな」

「周りが見えないとかの次元?」

「人間、なにかが欠落してるってもんだ。志津香は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の最強の女子高生。だが、水原を前にすると、ただのポンコツだ。それくらいじゃないと人類につり合いが取れない」

「……あの子、本当に水原くんのパンツ見るのかな?」

「見るんじゃない?」

「見るよね……」

「良いんじゃないか? 志津香も水原のパンツ見たいだろうし……」

「私は好きな男性のパンツは別に見たくないけど」

「同意だな。志津香みたいな人種をなんて言うかわかるか?」

「変態?」

「生粋のな」

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