異世界サバイバル! 一人でも何とか生き抜きます!!

杉花粉

第1話 浜辺



 背中を照り焼く陽射しが特に熱く感じる。

 目前に広がる岸壁の雄々しさに俺は茫然と目を奪われつつ、その耳に繰り返す波の満ち引きをただ聴いて心地良さを感じていた……。


「……って、いやいや! 何でノホホンとしてられるんだ俺は!! ここ何処だよ!」


 こんなに大声を放つのは何時振りだろうか。

 自分で自分に突っ込みを入れても返ってくるのは小っ恥ずかしさだけ。

 虚しいよね。

 振り返り辺りを見回すと水平線だけが一本引かれオーシャンブルーが煌々と輝きを帯びている。

 浴びたら気持ち良さそうだけど後だ後。

 ならばと砂浜を辿って目線を遠くに向け、ある地点から岩溜まりを抜けて木々が生い茂っていた。

 南国風味を感じるこの場所に覚え等ある筈が無い。


「はえー……。どうなってんだ……」


 夢遊病の気は無い筈……。

 最後の記憶は確か女と、百合子と寝ていてそれで。

 そこまで思い出して記憶が途切れているとはっきり認識が出来た。


「そうだ。急に目の前が真っ暗になって、体は動かないのに意識がある。そんな中で……」


 声を聴いたんだ。

 二人……いや、複数人か? 言い合ってる謂わば小競り合いだ。

 訳が分からずにただこの場に居ていいものかと居た堪れなさがあった。

 暫くして決着が済んだのか最後に『ごめんなさい』とはっきりと俺に向けられた言葉を最後にこの浜辺に立って視界が確かになった。


「体が変わってる様子も無し、服もその日の物。顔は……フッ、相変わらずイケメンだな」


 水面に顔を映して見ても髪型から頬に出来ている口内炎まで何一つ違いはない。

 転生というにはあまりにまんまだし、転移って事かな? 最近流行りの。

 暇潰しに漫画で見たのを思い出すな。大体状況はそれに似ている。


「でも説明も無くこんな唐突に放り出されてもなぁ」


 大抵便利な能力を貰って送り出されるのが常套。

 俺にもそんな力が宿ったり? と考えてみるがその節は感じられない。


「取り敢えず……試してみるか」

 

 人の姿がない大海原。そして体の内から溢れ出すやる気パワー。これはもしかすればもしかするかもしれない。

 根拠の無い自信と高揚感に飲まれたまやかしの体力が見事に迸っていた。

 右手を前に突き出して口を開く。


「ファイア!!!!!!」


 高らかにか響いた声は何度かこだまして露と消える。

 思っていた結果は得られない。昔上司にボソッと言われた「お前は声だけはいいよな」と嫌味が脳裏を過ぎる。

 顔だって良いだろうが! 流石に自意識過剰だから言い返さなかったが。

 そんなチクチクとした言葉を点々と思い出しつつ俺は暫定貰っているであろう能力を理解する為に暫く魔法の詠唱を試すのである。




 日が水平線に近付いて辺りに暗さが満ちてきた頃、それでも俺は諦めなかった。

 根性。顔。声。この草日勇一くさびゆういち、人生の3Kの内一つが諦める事を良しとしない。


「ドラグ----!! おっとこれは止めておこう」


 何となくだけど畏れ多い気がするから。

 急に力が抜けて、感じる凝りに体を伸ばす。関節の弾ける音が伝わる。

 根性とは言ったものの流石にくたびれて来た。

 無駄打ち連発だよ。


「使えないじゃん……魔法的なうんたらかんたら」


 まさか裸一貫で送り込まれるとかある? 我無能力者ゾ? 魔物とか居たらこのまま死ぬよ?。

 もう夜も近いし……。というか魔物って夜行性のイメージあるけどこれ不味くないか。

 

「海も潮の満ち引きで砂浜がなくなりつつあるし、取り敢えず今日の寝床を探すかなぁ」


 一先ず木々の辺りまで歩いてみるか。

 俺の転生……じゃなかった転移ボーナス的な力の探索は明日の俺に任せましょ。

 今日の根性は店仕舞いです。閉店ガラガラ。

 なるべく靴を濡らさない様に岸壁に沿って歩くがそれでも多少は水が染みる。

 人に会いたいと思う気持ちと会いたくないと反するこのジレンマ。如何したものか。

 綺麗な海に時々垣間見えた魚影からこの辺りの海産物は豊富な印象。という事は近くに村やら町やらあっても不思議じゃない。

 問題は言葉なんだなぁ。ここが一番なネックだよね。

 漫画だと大抵神様がオプション付けて通じる様にしてくれるけど、俺の場合は期待出来ないなぁ。


 そうこう考えている内に目的の木々の集まりの前に出る。

 中に入って行けるような道は無く、ただただ自然のままに生い茂って来たる者を拒む印象を受ける。

 林というか森というかジャングルというか。流石に奥は暗いなぁ。

 進もうか進むまいか。

 悩んでいると不意に草影が一つ態とらしく音を立てた。


「誰かいるのか?」


 人か獣か。

 二つ三つと別の草影が揺れ、爛々と光る幾つもの双眸と喉を殺すような唸り声が明らかに俺に向けて放たれる。

 あ、こりゃまずい。

 

「さらば!」


 森の主達に別れを告げて一目散に元来た道を走って戻る。

 踝程まで上がった潮水に掻き鳴らしながら距離を取って振り返ると辛うじてその姿を視認出来た。

 まるでライオンかそれともサイかと形容出来る巨大な図体。顔は細長く犬の様で睨み付ける目は未だに捉えて離さない。

 こっえぇぇぇぇ!! なんだあれ!?。

 何故か海に足を付ける事はなく、救われたのは真っ直ぐに道を戻った故か。

 

「困ったな。これじゃ寝床どころじゃないぞ」


 あるのは大海原。そして森と岸壁の境にあるちょっとした岩場。

 一旦ここに登るしかないよなぁ。でも森と地続きだろうし怖いぃぃ。

 俺は考えとは裏腹に岩に足を掛けて上に立つ。

 ただ立ち尽くしても濡れて行くだけ。いざとなったら海に飛び込むか……。

 余裕のある感じで振る舞ってみたものの、案外とんでもない目に遭ってるんじゃ? 脳裏にそんな考えが浮かぶのだった。

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