008:王都捜索・前編

 エッタさんに加えてシュナちゃんと、カエデちゃんが俺のパーティーに参加し《王都・ザッツリング》を目指す。

 馬車に乗って出発すると、少しのトイレ休憩とかを挟みながらもトラブルも、特になく日が暮れ始めている時に到着した。



「こ ここが王都か!! めちゃくちゃ都会じゃん!!」


「そりゃあ王都ですもの。小陸の色々なモノが、ここ《ザッツリング》に集まっているんです!!」


「人族がたくさんいるわん!!」


「迷子になりそうにゃ………」



 王都は綺麗な街並みで奥には王城が見え、これがまさしくファンタジーの王道とも言える街並みが広がっている。

 しかし王都に獣人とエルフが入っても良いのだろうか。

 いや俺が獣人やエルフを差別しているわけではなく、人間にも色々な奴らがいて獣人もエルフも嫌いだって人間がいてもおかしくはない。

 そいつらのせいで俺のファミリーメンバーが、気分を害されるのは許されるものではない。



「悩んでても仕方ないから、アレなんだけどさ。3人とも街の中に入っても石は投げられない?」


「んーっと確かに、僕たちが嫌いって人間もいるわん」


「獣人が入れない店も、割とある様な気がするにゃ」


「それでも比較的、そこまで亜人種差別は感じませんね………ミナト様が気にして下さるだけで大変嬉しいですよ」



 そうか。

 街全体が亜人種を嫌っているわけじゃなくて、嫌っている店もあるから、そこには出入りは出来ないけど、それ以外なら別に問題はなさそうだな。

 それさえ確認できれば心置きなく、エッタさんの妹さんを助ける為に王都内で動き回れるな。



「取り敢えずエッタさんと俺で王都の西側を、シュナちゃんとカエデちゃんは東側を頼めるかい?」


「了解したわん!!」


「うんにゃ」


「それじゃあ、俺たちも行こうか………絶対に妹さんたちを助けよう!!」


「はい!!」



 団体で探すよりも二手に分かれて捜索した方が早いと判断し、早速バラけて王都内での捜索を始める。

 さすがに表沙汰になっているとは考えられないから、表通りではなく裏路地のスラム街での捜索を行う。



「やっぱりスラム街ってのは、とても人間が住んで良いところじゃない感じがするな………」


「これが現実です。人だけではありませんが、貧富の差や容姿の差………これらの事で、人々は争うんです」


「耳が痛い話しだね。どうにかしてやりたいと思っていながらもできない自分に無力を感じるって瞬間あるよな………」


「ミナト様が、そんな風に思わなくても良いんです。ミナト様は手の届く範囲を守れているんです………世界の裏からでも助けて欲しいという人は、根っからの助けられたい、自分は不幸だっていう負け犬なんです」



 エッタさんの事は冷たい様に思えるが、確かに俺もそうだったなぁ。

 助けて欲しいと思いながらも自分からは動かず、不幸なんだとアピールしている様なモノだった………変えたい自分がいるのなら命乞いをしてでも己の力で進まなきゃな。



「よし。気合いも入ったし、スラム街で聞き込みをやるか!!」


「はいっ!! エルフを裏で売買できるので、それなりに大きな奴隷商だとは思うんですが………表の奴隷商では、さすがにエルフを裏売買はしないんじゃないかと」


「となると違法で運営している、スラム街の奴隷商になるって事だよな………それなら比較的、今回の事件に納得できるか」



 表の奴隷商は監査が入れば隠しきれない為に、さすがに手が出せないだろうから違法奴隷商が犯人だろうと俺たちは考える。

 その仮定で考えた場合、王都内に入る為には荷物の調査や身分書の確認が行われる………エルフたちが奴隷化されているのを知っていながら入れた事になるよな。



「もしかして王国全体が、このエルフ奴隷化を隠している? そう考えれば………表の奴隷商も怪しくなってくるか」


「その可能性は低いかもしれません。もしもエルバーグ王国の国王が関与しているとなると………それは世界連盟の規定違反になり、バレでもしたら助命だってありますから!!」


「世界連盟? そこまで詳しくないんだけど、その世界連盟ってのは、どんな組織なの?」


「世界連盟とは言わば平和条約を結んでいる国々の事で、それに違反した場合は即刻除名からの戦争もあり得ますね」



 世界連盟にエルバーグ王国が加盟しているという事は、その世界連盟にエルフの奴隷化が禁止されているのは知っているよな。

 その上で密かにやろうなんて事は、少し考えずらいところだろうか。

 ならば王都内の見張りの兵士を動かせるくらいの人間が関与しているか、相当な裏金を兵士に渡しているかだな。



「まぁどちらにしても表の奴隷商では無いと思います」


「それもそうだな。とにかく今は、裏の奴隷商をやっている人間を探すとするか」


「はい!!」



 焦りたいところではあるが、やはり焦ってしまえば仕事をやり損ねて甚大な被害を出す可能性がある。

 焦りたい時こそ落ち着き、リスクヘッジを行いながら急ぐ事が求められる。

 まさしく、この思想こそが俺がブラック企業に入って唯一見つけたであろう考え方だ。



「おじいちゃん。ちょっと聞きたいんだけど良いかな?」


「なんじゃ? お前さんみたいな綺麗な服と、女を連れているガキが来るところじゃ無いぞ………さっさと帰りな」


「そこを何とか聞いてくれないかな? 大銅貨……いや銀貨を渡すから」


「ほ 本当か? まぁ質問に答えてやっても良いか………それで聞きたい事ってのは何なんだ?」



 これだよ。

 手堅いのはホームレスの人間に、最初は低い額から高い額に変えて金を渡す、そうすれば高確率で話しを聞いてくれる。

 その上で金を積ませている事で、そう簡単に俺たちの事を捜索をしている人間にチクリはしないだろう。



「表通りの奴隷商ではなく、スラム街にいる違法奴隷市を開いている人っているですかね?」


「おぉそれならスラム街有名な奴隷商がいるぞ。何とも悪どいやり方で人攫いをして売っているらしい………しかも、違法なやり方をしてるのに、王宮の人間とも繋がりがあるとか言ってたな」



 どう考えても老人がいう、この奴隷商がエルフ奴隷化に関与しているのは確実だろうな。

 しかも話によると違法行為をしていながらも、王宮の人間とも繋がりが判明した。



「いやぁ良い情報を聞けましたよ。これは気持ちで、金貨1枚という事で良いすかね?」


「こんなので良いのか!! もしかして訳ありってところか。金貨を貰っているんだ、誰にも聞いた事は公害しないさ」



 この老人は馬鹿では無いみたいだ。

 俺の戦略を察知して誰にも公害はしないと言って、俺が渡した金貨を懐にスッとしまったのである。

 とにかく俺たちが考えていた事が、事実だという事を確認できたので、エッタさんと共に奴隷商のところに向かう。



「そういえば、シュナちゃんとカエデちゃんにも伝えておきたかったな………今頃は、何処にいるかな?」


「あの子たちなら大丈夫じゃないですか? とても危険とかにも敏感そうでしたし………私たちは、私たちで向かいましょう」



 ここから俺は少し気をつけなければいけない。

 もしかしたらエッタさんが、怒りのあまり自分を忘れてしまって暴走してしまう可能性があるからだ。

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