閑話Ⅱ 懐かしい気配

 現在は黄昏時たそがれどき。視界が良いとは言えない状況で鬱蒼とした森の中を私は走る。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 早くしないと追手が迫ってくる。運動があまり得意ではない私には酷な話だけれど、もっとスピードを上げた方が良さそうね。


「〈身体能力増加〉、〈ステータスブースト〉」


 素の身体能力を向上させる魔法と、幸運とMP以外の全てのステータス値を上昇させる魔法を使う。これで走るスピードを上げることができるわ。


 そのまま走っていくと森を出ることができた。


 念のために奥に何があるのか確認しておきましょう。


 魔力で目を覆って視力を高めると、奥に川があるのが見えた。その川の辺りに何やら、謎の不思議でどこか懐かしいような気配がする。


「あの川は魔法を使って越えるとしましょう。……それよりも問題はあの気配だわ」


 川に近づくにつれて謎の気配が強まっているのを感じる。


 あの気配は一体何なのかしら?


 そんな疑問を持ちながら川に向かって走っていく。その数十秒後に川に着いた。


「誰かが流されている?」


 川に着いた時、真っ先に見たのは流されている男の子だった。髪の色は私と同じような銀髪。目が閉じているので瞳の色は分からないけど、年齢は私に近いと思う。

 そしてこの男の子から謎の気配を感じる。さっき、懐かしいような気配がすると言ったけれど、実際に会った記憶はない。


「放っておこうかしら」


 私とは一切関係がないので、放っておくことにした。この男の子のことは置いといて、早く川を渡らないと。


   *


「どうしてこうなったのよ……」


 私の視線の先には、川から引き上げられて横たわる男の子の姿があった。


 あの人たちから追いかけられている私は、本来ならこういうことをしている暇はない。それなのに、助けてしまった。


 理由は、私自身もよく分かっていない。


「おい、ここにあのアマがいるぞ!」


 はぁ。やっぱり見つかってしまったわ。本当にどうしてこんなことをしたのかしら……。


「もう逃さねぇ。痛い思いをしたくなかったら大人しくしろよ」


 9人の薄汚い人族の男が下卑げひた目でこちらを見てくる。


 ……もう逃げるのはやめるわ。ここには木がないからあの魔法を使えるし。


 私は持っていた短剣をそこら辺に投げ捨てる。男たちを油断させるためにわざと無抵抗なふりをした。


「聞き分けのいいアマで助かったぜ」


「これで奴隷商に高く売れるな」


 奴隷商……あんな場所になんて行くもんですか! いつか壊してやるわ。


兄貴アニキ兄貴アニキがヤったら俺にもヤらせてくだせぇよ!」


「んなこたぁ初めから分かってるよ! まあ、処女は俺がいただくけどな」


「アニキィ。このおんなは処女じゃないかもしれませんよ」


「うるせぇなぁ。この歳だぞ。処女に決まってるだろ!」


 私の前で下品な会話を繰り広げる男たち。私が武器を持っていないと分かって油断しているようね。……では、さっさと終わらせましょう。


 私は相手に対して詰みの一手を放つ。その一手は、右手を前方にかざしてある一言を呟くだけ。

 

「“沈め――〈業炎地獄インフェルノ〉”」


 右手に赤色と黒色の輝いている粒子が集まり、それが解放される。


「あ゛? 何だこれは……」


 男たちの足元には巨大な(半径が5mほど)魔方陣が出現していた。それに気づいた男たちはその場から離れようとしたけれど、もう遅い。


 魔法陣からは地獄へいざなう業火が放たれ辺りを焼き尽くす。火が収まった時には、男たちの骨だと思われるちりしか残っていなかった。


「手加減してもこの威力……。さすが〈業炎地獄インフェルノ〉だわ」


 その後は塵を川に流し、消滅した草を魔法で生やす。ちなみにあの男の子は私の後ろにいたから無事よ。


「これで終了ね。あ、そろそろしないと別の追手が来てしまうわ」


 私はその場から立ち去る。その時、どこかに少し違和感を覚えた。




――――――――――――――――――


 これも零が意識を失った後の出来事です。この少女は一体何者でしょう!?


 次回から第二章が始まります。


〈追記〉

 近況ノートに■■■■■■■の「??」のイメージ画像を載せました!

 URLを貼っておくので、是非見てください!

 https://kakuyomu.jp/users/nulla/news/16817330661141121534

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