第七部 罪と罰との向き合い方

第六十一話「新たなる難題」


「でも改めて随分と曖昧ね……お爺様の課題は……」


 溜息を付きながらノートPCをカタカタ打ちながらメリアは言った。いま彼女は株の取引中だ。こうやってコツコツと稼いでもらっている。


「そうなの? あっ、HOJYOも株とか有るんだね……」


「俺達は普段バイトしてるだけだけどNCグループのメイン事業が食品関連で、その流通のための企業がHOJYOだから上場はしてるんだよ、はい」


 隣でPCの画面を覗き込む優姫を見ながら俺は三人分のコーヒーを淹れトレイから二人にマグカップを渡す。


「あ、ありがと悠斗……あ、砂糖とミルクも」


「ふぅ……落ち着く、助かるわ先輩」


 優姫は砂糖とミルク必須でメリアはミルクだけ……ここ数日で覚えた二人の好みで俺はブラックが一番好きだ。そのままコーヒー片手にメリアの隣に座った。


「家では悠斗で良いって言ってるのに、メリア?」


「だって、これが慣れちゃって……」


 ベッドに腰かけながら困った表情のメリアを見て俺も曖昧に笑う。未だに下の名前で呼ぶのが慣れないらしい。


「くれっちもリハビリ期間みたいな感じだし、いいじゃない、ね?」


「それもそうだな……これからだよね俺達は」


「うん……」


 二人と話しながら俺は数日前の祖父との会談を顧みる。北城悠斗として一大決心をした。それを思い出していた。




「彼女は分かっているようだな……」


「実績って、どういう意味なの爺ちゃん?」


 メリアの言葉に頷く祖父に対し俺と優姫は割と気楽に構えていた。借金が増えても今さらという諦めの境地だったがメリアだけは警戒を崩していなかった。


「そのままの意味だ悠斗、お前がどのような詭弁を弄しようが世論は認めない……それが口先だけなら余計にだ……私が何を言いたいか分かるな?」


「え? いや……うん」


 言ってる意味は分かるけど今の言葉から祖父の真意が見えて来ない。それは隣の優姫も同じようで首を傾げていた。


「末野さんも、気持ちは分かった……だから見せてくれ……」


「何を……ですか?」


「悠斗そして二人の本気を、本当の想いは老人の戯言たわごとを打ち砕くという証明を……若い力を見せてくれ……頼む、悠斗よ」


 それは祈りのような意味合いが強く神頼みや願掛けと言い方は色々と有るが、そんな風に聞こえたから俺は思わず答えていた。


「任せて爺ちゃん!! 俺達なら何でもできる!!」


「ちょ!? 悠斗っ……先輩!?」


「そうか? そうかそうかぁ……では借金返済と合わせて新規事業を立ち上げ私やグループの誰もが認める業績を上げてみせろ悠斗!!」


 爺ちゃんが意地の悪い笑顔で言った。メリアが直前に叫んで止めようとしたが遅かった。今は頭を抱えているが俺は認められたからと思い返事をしそうになった。


「もちろん任せ……えっ?」


「どうした悠斗? 二人の女子おなごを手籠めにし生きて行くのだ稼ぎも普通では無く二倍は当然……それに周りを黙らせるのなら一石二鳥、違うか?」


「そ、それは……」


 頭の中ですぐに今の話について考える。条件を提示され俺の今の環境を変えられるチャンスだ。ここまでは問題無い……だが問題は条件だ。だが爺ちゃんは俺に考える暇を与えず間髪入れずに次の言葉を言い放つ。


「それとも、やはり口だけか悠斗? 今なら二人と別れる事で考えなお――――」


「そんなの論外だ!! 分かったよ爺ちゃん!!」


 その先は言わせない。二人をもう何が有っても離さないし離したくない。奪われた時の深い傷トラウマが俺に強い感情を思い起こさせ咄嗟に口からでたのは提案の拒絶だった。


「ふっ……吠えたな小童? 良いのか?」


「悠斗!! 落ち着いて!!」


「いいやメリア……それに優姫も……爺ちゃんの要求、必ず突破してみせる!!」


 メリアの静止も聞かず俺は即断した。否、答えさせられていた。その言葉に爺ちゃんは鷹揚に頷くと更なる条件を提示する。


「ふっ、ならば期間は紅林さんの大学卒業までの今から三年、事業に必要なものは全て我がグループからだそう。その代わり利益も全てもらう、よいな?」


「ああ、その代わり目標を達成した暁には二人のことを認めてもらう!! いいよね爺ちゃん!?」


「いいだろう男に二言は無い!! しかと示してみせろ愚息まごよ!!」


「ああ!! やってみせるさ爺ちゃん!!」


 そして話し合いが終わった後に部屋に戻って俺はメリアに説教された後に優姫に頭を撫でられて冷静になって事態の大きさに気付いた。




「あんな重要な決断を一人で……悠斗、先輩は……もう少し譲歩とか引き出せたかも知れなかったのに……」


「悪かったよメリア……でも」


「まあまあ悠斗も私達を守るために動いてくれたんだし、くれっちも……でも実際、誰もが認める実績ってどうするの?」


 優姫の疑問で俺達は口を固まった。借金の完済なら目標ゴールが有る。たとえ凄まじい額でも終わりは有るが今回は明確な目標が無い。有るには有るが曖昧で想像すら出来ない。


「やっぱり爺ちゃんは分かってて俺に……」


「そうね、NCグループ会長、バブル期から資産を守り抜いて今の大きさまで会社を成長させた人物……私たちを潰す気ね……時間をかけて確実に……」


 俺とメリアが暗い表情をしているが優姫は疑問符を頭に浮かべていた。


「そう……なのかな?」


「絶対にそうよ!!」


「う~ん……?」

(でも厳斗さん笑ってたし……楽しんでた感じで私の勘違い、かな?)


 そんな事を考えていた優姫に気付かず俺とメリアは更なる難題に頭を悩ませた。爺ちゃんとの勝負に勝つために……その真意に気付かず悩んでいた。

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