第27話 友人と発見


 放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。


 今日は午後に一つ下の学年で特別授業があるらしく、それ以外の学年は午前で帰宅。

 どうやら部活動も禁止らしく、半日のオフに学校全体が浮足立っていた。


 かくいう俺も半ドンで帰れるのは心が躍る。

 もはや休日じゃね? と思うほどに今日は精神的にデカい。


「なぁなぁ、今日渋谷行かね?」


「いいね! カラオケとか行っちゃおうぜ!」


「だなだな!」


 なんて会話をいつもの声量の二割増しでしている人たちもチラホラ見られる。

 俺はというと、別にバイトもないので予定もなく。


 一応期末テストが近いので、学年一位を死守するために勉強でもしようかなと思っている。

 実に今まで通りだ。


 さて、そろそろ伊与木さんが俺の教室の前に来る頃だし、待たせては悪いので出るとしよう。

 スクールバッグを肩にかけ、教室を出る。


「あれ、珍しくいないな」


 俺の教室の前の壁に寄っかかっているのが常の伊与木さんだが、姿がない。

 今日は俺が先だったか、なんて考えていると伊与木さんがとてとてと俺のところに走ってきた。


「あ、伊与木さん」


「すみません、入明くん。待たせてしまって」


「大丈夫ですよ、僕も今来たところですから」


「ならよかったです。それで、今日なんですけど……先生に特別授業の手伝いを頼まれてしまって、一緒に帰れそうにないです。すみません!」


「そうなんですね。いいですよ謝らなくて! 分かりました、お手伝い頑張ってくださいね」


「はい!」


 さっきまで随分と落ち込んだ表情をしていたが、すっかり元気になってしまった。

 そんなにも俺と帰れないことに罪悪感を感じてくれていたなんて……なんだか嬉しいな。


「……ほんとは、今日一日中入明くんとイチャイチャしたかったですけど」


「え? 今なんて?」


「な、なんでもないです! じゃあ、またあとで!」


「はい!」


 ひらひらと俺に手を振り、去っていく伊与木さん。

 さて、今日は久しぶりに一人で帰ることになりそうだ。


 一体いつぶりだろう。

 最近は毎日伊与木さんと一緒にいたし、なんなら一人ってのが久しいかもしれない。


「ほんと、伊与木さんと一緒にいすぎだなぁ俺」


 そう呟き、帰ろうと下駄箱に足を向ける。

 すると教室の中から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「入明ちょっと待て!」


「堅人? どうした?」


「いや、今から暇かなって思ってさ」


「暇って……まぁ、今日は伊与木さんと帰らないし、一日暇だけど」


「お! ならちょうどいい! 今から俺と飯食いに行かないか? こんな機会めったにないしさ」


 確かに堅人は普段部活があるので放課後は暇じゃない。 

 おまけに休日も部活なために、外でご飯を一緒に食べるなんてそうそうないのだ。


 ここ最近グッと堅人との距離も縮まり、今では胸を張って友達と言える。

 そんな堅人からのお誘いを断る理由はどこにもない。


「いいね、行こう!」


「おっしゃ決まりな! そうと決まれば、早速行くか!」


「おう!」




    ♦ ♦ ♦




 駅前のファミレスに入る。 

 

 窓際のソファー席に案内され、向かい合うような形で座った。

 平日だからか、昼時でも店内はちらほら空いていて、薄っすらとBGMがかかっている。


 そそくさとお互いに注文をし、落ち着いたところで水を一口含む。


「そういえばさ、最近どうなんだよ」


「どうって、何が?」


「紗江様のことに決まってるだろ? 相変わらず仲いいって感じだけど、もう付き合ってんのか?」


「は、は⁈ つ、付き合ってないよ! 俺と伊与木さんが、そんな……」


「あの距離感で付き合ってない方が俺はおかしいと思うけどね」


 一般的に男女間の距離感がどれくらいか分からないが、確かに近いように思う。

 事実、今かなりの時間を一緒に過ごしているしな。

 

「いやいや、ありえないよそんなの。俺と伊与木さんなんて、全然釣り合ってないしさ」


「そうかねぇー。入明のスペック、結構高いと思うけどな」


「そんなことないよ」


「またまた謙遜をー!」


「謙遜してないから」


 伊与木さんは学園のアイドルだ。

 最近周りに認識されてきたとはいえ、俺はただの男子生徒A。


 伊与木さんのような圧倒的な容姿や、堅人のようなコミュ力もない。

 そんな俺に伊与木さんが恋愛感情を抱いてくれるとは考えにくい。


 ……ま、まぁ、少しはいい感情を俺に持ってくれてると思いたいけど。


「ちぇ、進展なしかー。入明のラブコメが進むのが、最近の楽しみなんだけどなぁ」


「なんだそれ。俺と伊与木さんはそんなんじゃないからな?」


「つまんねぇなー! なんかイベントとか発生してないのかよ~」


「イベントって言われても……あ、そういや、伊与木さんが俺の家の隣に引っ越してきたな」


 ガシャン、とコップが倒れる。


「何してんだよ堅人」


「な、何してんだよはこっちのセリフだ! なんでそんな大事なこと言わないんだよ!」


「え?」


「……はぁ、ダメだこの主人公。圧倒的にラブコメ適性がないわ」


「ラブコメ適性ってなんだよ」


 聞いたことない言葉だ。 

 というか、いつから俺はラブコメの主人公になったんだろうか。


「一大イベントだろそんなの! あぁーもういい! お前には何が大事で何が大事じゃないのかわかってないから、伊与木さんに関すること全部言え!」


「え、え⁈」


「とにかく全部な! ここ一週間どんな風に伊与木さんと関わったとか、デートしたとか、なんなら出会いから全部!」


 そんなの聞いて何が面白いんだろうか。

 だが堅人が聞きたいというのなら仕方がない。


「わ、わかったよ」


 俺は初めから思い出すように、包み隠さず全部を堅人に語った。

 それは注文した品が届いた後まで続き、そしてちょうどすべてを平らげたあたりで、話し終えた。


「――ってな感じで、最近は伊与木さんと一緒にいることが……って、堅人?」


 堅人は俯きながら、プルプル腕を振るわせている。

 俺の話が終わるまで終始黙っていた堅人だが、顔をゆっくりとあげ、ようやく口を開いた。


「それはマジか?」


「マジだけど」


「……なら一つ、分かったことがある」


「なんだよわかったことって」


 まるで恐ろしいことでも言うみたいに、重く重く堅人は告げた。



「紗江様は、ヤンデレだ」




 

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