第22話 人気と警戒
「ねぇ、あの人じゃない?」
「あれが入明かぁ」
「全然強そうに見えないけど、実はすっげぇんだろ?」
「俺見てたけど、マジ半端じゃなかったって!」
……歩きづらい。
何故なら、俺が廊下を通るだけで振り返られ、こうして噂されているからだ。
でも、それは伊与木さんと付き合ってる疑惑に出た時と違い、嫌な感じではない。
むしろこれは――
「なんかちょっとカッコいいよね!」
「自分よりもガタイのいい数人に向かって行っちゃうなんてね!」
「伊与木さんを守る姿、なんかグッときちゃったなぁ」
伏せながら歩いていると、ドン、と肩を組まれる。
横を見ていると堅人がニヤニヤしながら俺を見ていた。
「よっ、学校一の人気者」
「やめてくれよ茶化すの」
「茶化してないだろ? 実際そうなんだし」
「……」
あの日。
俺が前澤先輩を撃退した後、ようやく先生が駆け付けて事態は収拾した。
色々とこの件に関して聞かれたが、周りの証言により俺はお咎めなしという事で終わった。
正直こんな大きな騒ぎを起こしたのだから、停学くらいは覚悟していたのだが、その覚悟は不要だったようだ。
そして、前澤先輩を含んだ連中は勿論軽い処罰で終わるわけがなく。
今回の一件にとどまらず、他の悪事や喫煙など、様々なことが発覚し、退学は勿論、警察沙汰にまで発展したらしい。
俺は知らなかったのだが、前澤先輩たちに罰が下ったことで救われた生徒が大勢いたそうだ。
まぁ前澤先輩たちは俺を本気で怖がっていたし、あの様子じゃあこれから再び誰かに迷惑を書けることはないだろう。
「で、どうなんだよ人気者になった気分は」
「こういうのは俺の性分に合わないよ。ほんと、変わってほしいくらいだ」
「かぁーっ! やっぱりヒーローは言うことが違うなぁ!」
「……はぁ」
実は堅人の言う通り、俺はあれ以降とてつもない注目を集めるようになっていた。
それもすべて好意的なもので、はっきり言って困惑している。
「まぁしょうがないだろ? あんなもん見せられちゃあみんなお前に興味を持つのも仕方がないって」
「俺は伊与木さんを守りたかっただけなんだけどな……」
「あはははっ、入明らしいけどな、そういう感じ」
俺らしいってなんだよ。
はぁ、気が休まない。
上機嫌な堅人に肩を組まれながら歩いていると、前に伊与木さんの姿があった。
俺が気づくと同時に伊与木さんも気づいて、パーッと顔を明るくさせる。
「入明くん! こんにちは」
「こんにちは、伊与木さん」
堅人が「お邪魔ものはこれでっ!」とか言ってその場から去る。
全く、変な気を遣って……。
「あれ? 入明くん、疲れてます?」
「ま、まぁ疲れてますよ。さすがにこんなに人に見られたら」
「あはは、ですよね」
伊与木さんと一緒にいるときは、特に人に見られる。
それは今までと特に変わらないし、伊与木さんの絶大な人気によるものだ。
だが、以前は間違いなく「あいつがなんで……」という好意的ではない視線を向けられていた。
しかし、今はそれが全くない。
「見ろ、伊与木さんと入明だ!」
「やっぱりあの二人だよなぁ」
「あぁ、そうだな。やっぱり、お似合いだな」
「そりゃそうだろ。だって入明は――あの伊与木さんを二回も救ったんだから」
そう。
実はあれを機に、俺が伊与木さんを誘拐犯から助けたことが発覚し、広まったのだ。
なんでも、前々から噂されており、あの時の伊与木さんの「助けてくれた」という発言が決定打になったらしい。
そのこともあってか、こうして公認カップル的な扱いをされていた。
ほんと、あれ以降180度生活が変わった。
「でもいいじゃないですか。ようやくみんなに入明くんのよさが伝わったんですし」
「そんないいものじゃないですよ。俺は元々、人気が欲しいとかいうタイプじゃないですし」
「確かに、入明君くんはそうでしたね」
むしろ他の人に注目されるのは苦手な方だ。
「でも、私は嬉しいですよ? 入明くんがちゃんと評価されてる感じがして。……まぁ、それで入明くんがとられるのは嫌ですけど」
「と、とられる?」
「あぁーなんでもないです! 忘れてください!」
「は、はい」
急に顔を真っ赤にしてどうしたんだろう。
まぁ気にせずにいよう。
そのまま伊与木さんとたわいもない話をしながら歩く。
すると俺の教室の前で、先輩と思われる人たちが俺に気づきやってきた。
「入明さんだよね?!」
「は、はい。そうですけど」
「あのさ、柔道部とか興味ない? 君ならきっと全国……いや、世界とれるよ!」
「えぇ?!」
「ちょっと待って! 入明くんは空手部が!」
「いやバスケ部でしょ!」
「サッカー部だ!!」
「違う違う! 文芸部がもらうんだ!」
なんかせりみたいにになってるんだけど……。
あと、文芸部は俺に適性なくない?
急な争奪戦に困り果てていると、先輩たちが急に何か恐ろしいものでも見たかのように顔を顔張らせた。
「みなさん、入明くんが困ってますよね? わかりますよね?」
腹にずんと落ちるような声で伊与木さんが言い放つ。
さっきまでの勢いが嘘だったかのように先輩たちは黙った。
そして、伊与木さんが俺の腕にしがみつくように体を寄せ、ニヤリと微笑んだ。
「あと、入明くんはあげませんよ?」
伊与木さんの言葉に、さーっと先輩たちが何事もなかったかのように撤収する。
「い、伊与木さん?」
「ふふっ、行きましょう?」
「は、はい」
有無を言わさなさな雰囲気に、俺はそうとしか言えなかった。
「ふふふっ」
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