第8話 再会
昼食の時間、ラズリーは早速ファルクの元へと向かった。
食堂へ向かう人達の波に流されないよう、アリーナとルールーが両脇を固めていた。
「もしかしたらその留学生の子ももう食事へ行ったかも」
食堂へ向かい歩く人の多さに、アリーナはそう言う。
「まぁファルクからどんな人かくらいは聞けるでしょうから、それはそれでいいんじゃない? 別にお話するのは今日じゃなくてもいいだろうから」
ルールーにそこまでの興味はないようだ。
「そうね。アリーナとルールーの言うとおり、いなかったらそれでいいの。食事の邪魔をしちゃいけないし、今日中じゃなくても話は出来るから。でも付いてきてくれてありがとね」
何だかんだでも、ラズリーの我儘に付いてきてくれる二人に感謝する。
ようやく人波を抜けられ、目的の教室についた。
中をのぞけば数人の生徒がまだおり、ファルク達も残っているのが見える。
ややリアムは困った顔で、ストレイドは涼やかな顔で。
そしてファルクは……。
「あら。滅茶苦茶怒っているわね」
アリーナの言う通り、不機嫌な顔をしていた。
その前には女子生徒がいるが、後ろ姿で誰かまではわからない。
「ファルクが怒っているなら、助けてあげましょ」
そう言ってラズリーの手を引いて、ルールーはファルクの元に向かう。
「ファ、ファルク」
アリーナとルールーの二人に背を押され、ラズリーはファルクに声を掛ける。
途端に眉間の皺は消えて、女生徒を押し退けるように駆け寄ってきてくれた。
「すまない、食事の時間だよな。リアム様を送ったらすぐに向かう」
リアムは昼食をいつも専用の部屋にでとっている。
護衛もいるし、毒の混入を避けるために別なメニューだ。そこまでリアムを送るのがファルクの仕事である。
「あの、取り込み中かと思ったけれど、大丈夫?」
話し中のように見えたけれど、いいのだろうか。
「話は終わっているから大丈夫だ」
ちらりとファルクの後ろの女性を見れば見覚えのある顔だ。
「昨日森で会った方ですね、お元気そうで良かった」
ニコニコ顔のラズリーは好意的に話しかけるが女性は不機嫌だ。
「会話中に話しかけに来るなんて無粋ではなくて?」
女性はラズリーを軽くいなし、ファルクに向き直る。
「お食事にいくならば、わたくしもご一緒させてください。こちらには来たばかりですし、あなたは信頼できる方ですから。今度我が家にも是非いらしてくださいな、心ばかりではありますが、お礼をしたいのです」
矢継ぎ早にそう言うオリビアにファルクは露骨に顔を歪める。
「どちらも要りません。俺はそういう目的であなたを助けたのではないので」
「あなたが居なければわたくしはきっと大怪我をしていたわ。それなのに名も告げずに去られてしまい、残念に思っていたのです。それがこうして再び会えて、本当に嬉しい」
触れられそうになり、ファルクは後退する。
「名乗る必要などなかったからです。別に俺はあなたに会いたくなかった」
ファルクは警戒心を滲ませつつ、距離を取る。
ラズリーの前で他の女に触られるなど嫌だ。
母親譲りの端正な顔を、父親譲りの凶悪な表情で歪ませる。
そんなファルクを見てラズリーは駆け寄った。
「いけないわファルク。人を睨んではだめ」
咎めるように言ってラズリーはファルクの腕を取る。
「あなたは本当は優しいのに、そう言う表情をすると怖く見えてしまうのよ」
「……気をつける」
深呼吸をし、気持ちを落ち着かせようとするファルクにニコリと笑いかける。
仲のいい二人の様子にオリビアはポカンとしていた。
「あなた、彼とどういう関係なの?」
兄妹にしては距離が近すぎるような。
「私は彼の婚約者ですが?」
ラズリーはキョトンとしている。
(私とファルクが婚約者であるって森で会った時に伝わったものだと思ったわ)
ラズリーとしてはもう気づいているものだと思っていた。
男女二人きりで出かけるなんて、婚約者や恋人であると思っているし、オリビアが話しかけた目的や、ファルクが嫌な顔をしていた理由にも気づいていない。
ファルクに好意を持っているなんてのも、会話を聞いてもまだピンと来ておらず、何で不機嫌なのかもはっきりとはわかっていない。
(急に触ろうとしたからかもね。他国とは文化が違うのかも)
アドガルムでは婚約者や恋人、夫婦であれば異性に触れたりはあるが、友人などではまずない。
その点で怒ったのかもと思い直す。
「婚約者が食事の誘いに来てくれたので失礼する。もともと約束をしていたのでね。学園の案内については同性の誰かにお願いして頂きたい。リアム様行きましょう、あなたのお食事相手もおいらしましたよ」
「あぁフレイアも来ていたか。では失礼オリビア嬢、俺達ももう行くね」
リアムや皆はそそくさとその場を去る。
ラズリーもついていくが、ファルクが肩を抱くようにしてくっ付いてくるのでとても歩きづらい。
「彼女、大丈夫かしら? 一緒に誘った方が良かった?」
「「それは駄目」」
アリーナとルールーの声がハモった。
「ラズリーが気にすることはない。それよりも婚約者だと言ってもらえて嬉しかった」
自分ばかりが言うものだから、こうしてたまにラズリーの口から言われると嬉しい。
意識しているのは自分ばかりではないと認識できる。
「当たり前の事よね?」
「そう当然の事だ」
当然だと言ってくれる事が嬉しいなんて、ラズリーは思わないだろう。
離れたくなくて、つい肩に回す手に力がこもってしまった。
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