第36話

それから、何度目かの口移しをし終えた時に、おもむろに奏一が告げた。

「もういいよ、満足したから。ていうかさ、今さらだけど、こんな時間にコーヒー飲んじゃって大丈夫かな。寝られなくならないかな」

「あ?何、もう寝るつもりかよ」

 口移しを名目としたキスをしておいて、もう寝るというのだろうか。せっかく二人でいるというのに……。ユイトは僅かにムっとした。

「あぁ、いや、まだ寝ないけどね。これから、やりたいことあるし?」

「やりたいこと?なんだよ、それ」

「知りたい?」

 奏一は悪戯っぽく笑った。

「あぁ」

 ユイトは返事をすると、奏一の膝に乗り上げていることから、股間を奏一のそれに押しつけたりした。こんなに密着をしていて、もう待てないという合図でもある。

「君ともっといちゃいちゃしたいってことだよ。君と同じく、ね」

「っな……気づいてたのかよ……」

「だって……さっきから凄くもぞもぞしてるんだもん……」

 ニヤリと奏一が笑ったので、ユイトは恥ずかしくなり顔を赤らめた。

 そして、奏一に伸し掛かるようにしてソファーに押し倒した。

「ユイト君……やっぱりアクティブだ」

 奏一がクスリと笑う。

「せっかくの夜なんだしさ、楽しみたいだろ?」

 ユイトはそう言うなり、奏一を跨いだ格好のまま身をかがめ、奏一の首筋に吸い付いた。そしてペロリと舐める。

「んっ……」

「アンタは首まで美味いんだな」

 ユイトが見つめると、奏一は自身の体の横で突っ張っているユイトの腕を掴んで制止した。

「何だよ……」

 思わず、この期に及んで止める気かと感じた。しかし、予想していなかったことを奏一は口にした。

「あのさ……ユイト君て、俺の事ずっと“あんた”呼ばわりだよね……いつになったら、ちゃんと名前で呼んでくれるのかな……なんて」

 ちょっと照れたように言って、奏一が見上げてくる。ほんのりと顔が赤くなっているようにも見える。

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