第21話
奏一が持ってきてくれたアルバムを捲ると、そこには今と変わらず至極真面目そうな奏一の姿を見つけた。学ランを着ているせいもあってか、奏一にもこんな時代があったのだと改めて実感できる。
ちょっと得した気分になりながら目線を移していくと、見たような顔があった。今朝会った霧島だ。面影はあるようだが、初々しさが感じられる。そして、パラリと何気なくページをさらに捲った時に、ユイトは衝撃を受けることになった。
『これは……』
思わず、そこに写っている人物を凝視してしまう。
それは、ユイトを前に振った男、橘浩一郎に良く似た人物だったのだ。いや、名前を確かめると、まぎれもなく浩一郎であり、ユイトの脳裏には浩一郎との楽しかった思い出や別れを言い渡された時のことなどが蘇ってくる。せっかく酔いも収まったというのに、また具合が悪くなってしまいそうだ。
『そういや……こっちから通ってたんだっけ……すっかり忘れてたな…』
そう言えば、浩一郎の家を訪れたことはあった。それを忘れていた自分のおとぼけ加減に嫌になる。まさか、奏一と浩一郎が同じ学校出身で、隣のクラスだったとは思わなかった。
とは言え、奏一に浩一郎のことについてわざわざ自分から言うこともないと思ったので、ユイトは黙っていることにした。奏一と浩一郎は、単に隣のクラスだっただけ。わかっていても、得体のしれないもやもやが、ユイトの心に浸透していく。
その後は、奏一の家でお昼をご馳走になった。釣って来たブラックバスを調理してくれたのだ。
釣ったブラックバスは食用には不向きとされているが、皮を取り除くなどをすればさほど臭いも気にならない。奏一は、ブラックバスのムニエルを即席で作ってくれた。カレー粉をまぶしたことでより食べやすくなっている。ユイトも味には満足し、初めて食べたブラックバスに少し感動すら覚えた。
奏一と釣りに行ってから、ユイトは心のモヤモヤを抱え日々を過ごしていた。
奏一と出掛けて楽しかったし、奏一への気持ちに気付いたという、大きな心の変化もあった。
奏一と浩一郎が同じ学校だったことは単なる偶然だとは思っている。もしかしたら、あまり話したこともないのかもしれない。
それでも、時を経て再び浩一郎とのことが蘇ってきて、混乱してしまっているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます