忘れなくても良い愛してくれ
実果子
第1話
日本最大の歓楽街と言える街で、葛城ユイトは『鳳城蓮』という名でホストとして働いている。現在二十歳のユイトだが、ホストになる前は地元の家電メーカーで働いていたものの、理由があり辞めたのだ。そして、ひょんなことから今の職に留まっていた。
ユイトがホストになったのは、前に務めていた店のオーナーからスカウトされたから。身長は一七五センチと程良く、全体的にスマートなシルエット。顔に関してはやや面長で細面であり、目は切れ長でどこかキツさを感じさせるが、そこが魅力だろう。その目が片方隠れるくらいに長めである前髪が、謎めいた雰囲気や色っぽさを醸している。
ユイトが今いる店は、ホストを始めてから三店目になる。『CLAN』と言って、”大家族”という意味があるそうだ。
黒い壁やテーブルが重厚感を与え、それに赤いソファーでメリハリが付けられた店内になっている。このシックな店内の雰囲気だけは、ユイトは好きだ。
ユイトはホストになってまだ一年しか経っていないが、既に二回も店を替えているのだ。
定着せずに、店を転々とすることはあまり好ましいことではないだろう。しかし、ユイトはなぜか、自分が意図しなくてもトラブルを起こしてしまうことなどがあり、店を移ることになってしまうのだ。
あまり転々としていると界隈でも噂になってしまうし、この街に居づらくなる。だから、ユイトとしてもこれ以上店を移ることはまずいかと頭の隅では思っていた。
「いらっしゃい」
その日、ユイトが接客したのはつい最近からユイトを指名するようになった客で、今はユイトに随分と執心している。
ユイトを指名するようになったのは、ユイトが入店してからずっと気になっていたからなのだと言う。彼女がこっそりと教えてくれた。しかし、それまで指名していたホストに申し訳ないとも言っていた。どうやら、新たに入った“蓮”に目移りしたようだ。
「蓮―、今日も来たよ」
「こんばんは、エリさん」
ユイトは満面の笑みを浮かべエリを迎えた。
エリは、その笑顔に見惚れている。ユイトは普段はクールに見えるが、笑顔がとても魅力的であり、そのギャップがいいとエリが言っていた。
エリが、シートに着席したユイトに甘えモードで凭れかかる。しかし、ユイトはなんとも感じない。 ふわりと良い香りがしても、エリなどの客がどんなに触れたりしてもびくともしない。ユイトはゲイだからだ。
では、なぜ女性を相手にするホストをしているのか。それにはわけがあった。
会社を辞めたことからホストになったのだが、なぜホストに決めたのかは家庭の事情が関わっていた。
ユイトは、首都圏に近い県で生まれ育った。だが、ユイトが就職した年に父が亡くなった。それは突然のことだった。中流家庭であり、ユイトは何不自由なく育った。しかし、父もまだまだ働けるという年齢に、ユイト一家に危機が訪れたのだ。元々母は体が弱く、父が亡くなった後はショックや疲労も重なり入院をしたりしていた。それでも、段々体調は回復し通常の生活ができるようにはなっていた。しかし、問題は金だ。葛城家の大黒柱を失い、母も仕事に出るのは無理だ。そこで、稼げるのはユイトのみ。ユイトの下にはまだ小学生の弟と妹が一人ずついて、ユイトが家長を務めなければいけなくなったのだった。
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