『その他』と『無職』は違います!!~勇者召喚されたのに無職で固有スキル無しはいらないと言われました。でも無職じゃないし、何故か自分だけ後からスキルが増やせるみたいだし、他の能力も結構チートっぽいです~

八月 猫

第1章 巻き込まれて異世界

第1話 異世界に着くまでが召喚です

 学校の成績は常に中の中。

 運動はどちらかというと得意な方ではないけど、逃げ出したいほど苦手でもない。

 何人かの仲のいい友達もいるし、クラスで孤立したりいじめられたりしたこともない。

 何かを率先してやるようなタイプでもなければ、悪目立ちするようなこともしない。

 本当に特筆するようなことがないどこにでもいる平均的な普通の学生。

 それが飾ることの無い自他ともに認める自分の評価である。


 ただ、ほんの少しだけ運が悪いかな?と思うことはある。


 懸賞や福引で当たったことは当然無いし、じゃんけんもめっぽう弱い。

 通学に使っている自転車は、何故か週に一度はパンクする。

 授業中も分からない時に限って当てられる。

 飲みたかったジュースが前の人で売り切れになることもしばしばある。


 そして、今朝なんて――


 中間テスト当日だというのに、目覚まし時計はセットしていた時間の一分前で電池切れ。

 大慌てで着替えて出かけようとしたら恒例の自転車のパンク。

 母親のママチャリを強引に借りて走り出したのは良かったが、辿り着く信号の度に毎回引っかかる。

 これは時間的にどう考えても間に合わないと、自分の運の無さを恨みながらも全速力で走った結果が――


「巻き込まれ召喚?」


 これである。




 見渡す限りの白い世界。

 足下は雲のようにふわふわした場所。


「私は神です」


 そして、目の前にはパンパンに張り詰めた体形の神様。


「本当に神様……ですか?」

 シチュエーションとか、白っぽい恰好とかは神様っちゃ神様なんだけど……。

 こんなにも、ぱっつんぱっつんな体形の神様っている?


「本当にというか、見たままでしょう?」


 そうじゃない見た目だから聞いてるんだが?


「……じゃあ、ここは天国ですか?俺、死んだの?」

 嘘だろ……何で死んだのか全然記憶が無い……。

 自転車必死で漕いでたらここにいた……。


「いえいえ、あなたは死んではいませんよ。私が管理する世界へ召喚されようとしているのです」


 召喚?アニメとかラノベとかにあるやつ?

 魔法とか魔物とかいる世界?


「て、ことは異世界で――」

 チート能力で俺TUEEEー!!ってやるやつ?

 てか、死んでなかったー!!良かったー!!


「あなたは勇者召喚に巻き込まれただけですから、よくある特別強力な能力は無いですよ」


 チート無かったー!!すぐに死ぬかもー!!

 てか――


「巻き込まれ召喚?」

 どういうこと?


「ええと、貴方の名前は……そのた…おおぜい?」


園田そのだ 大勢たいせいだ!!」

 あまりにも普通過ぎて、たまに周りの奴らに揶揄やゆされている名前。

 まさか、神様にまでその名前で呼ばれるとは……。


「ああ、失礼失礼。あなたはたまたま他の勇者候補の三人が召喚される場所にいたんですよ。予定ではそこには三人以外いるはずが無かったんですけどねえ……」


 目覚ましが止まってなければ、自転車がパンクしてなければ、信号のどれか一つでも青信号だったなら……いなかったよなあ……。


「まあ、私も違う世界の神ですから、ちょっとした手違いもありますよね。はっはっはっはっ!!」


 神様って殴れるんだっけ?


「それでですね、このままだと向こうの世界に行っちゃっても貴方も困ると思うんですよね。――めちゃ弱いし」


 よーし、弱いかどうかその腹で試してやろうじゃねーか!


「勇者召喚で世界を渡ると、勇者に相応しい職業と固有ユニークスキルが与えられるんですが、あなたはイレギュラーですので、それが無いんですよね。それどころか、向こうでは誰でも何らかの職業を持っているものなんですが、貴方はそのどれにも就くことが出来ない。つまり職業ごとの固有スキルを覚えることも出来ないんですよ。つまり貴方は雑魚というよりゴミですね。いや、目にも見えない埃みたいなものです」


 ハウスダストでくしゃみ止まらなくしてやろうか?


「でも、それで簡単に死んじゃったりされると、私も貴方の世界の神に申し訳ないということで、一旦こちらへお呼びしたというわけですよ」


「じゃあ!神様が何かチート能力くれるんですか!!」


 超絶魔法が使えるとか、ドラゴンを一撃で倒せる剣とか。


「そんなもの与えたら、世界のバランスが崩れるでしょう?」


 心の中を読むなよ。


「私が与えられるのは、とりあえず何かの職業に就くことが出来るようにするくらいですね」


「何か?」

 勇者とかじゃなくて?


「何か、です。それでもスキルを覚えたり魔法を使えたり出来るようになるかは――神のみぞ知る、でしょうね」


「知ってるなら教えてもらって良いか?」

 なあ、神様よ。


「全部教えたら面白くありませんからね。貴方もせっかく異世界へ行くんですから、楽しまないといけませんよ。ノーエンジョイ、ノーライフ!!」


 いや、たちまちノーライフになりかねない話をしているんだが?


「そういうことで、早速私の加護の力を与えます。それで何らかの職業に就くことが出来るでしょう」


 『神殺し』を希望する。


「そんな物騒な職業ありませんよ。では――我、マルマールの名において、この者にその加護を与えん!!」


 この神様、マルマールっていうのか……

 『見たままでしょう?』――確かに、それなら見たまんま神様だわ。


「はい、これで終わりです」


「え?もう?特に何も変わった感じ無いんだけど……」

 もっと、こう、ピカーとか光ったり、力が沸き上がってきたーとか……。


「まあ、魂の器をいじったようなものですから、特に何かが変わったと感じることはないでしょうね。何らかの職業というのも、向こうに着いてからの話ですから」


 全身を見回してみるが、本当に何の変化も無い……。


「さて、目的も果たしたことですし、そろそろお別れですね」


「あ、勇者候補っていう三人は先に召喚されてるんですか?」

 後から自分一人出てきたら変に思われるんじゃない?


「ここには時間の流れというものが無いんです。転移中の渦の中から貴方だけを拾い上げてここに連れてきたんで、元のところに戻せば一緒に召喚されます」


 召喚されるのって渦なんだ……瞬間移動的なイメージだったな。


「トイレの水を流した時を想像してもらえれば分かりやすいですね。水が渦になってゴオーって貴方たちが流れて消えていく――みたいな」


 想像したくないし、人の心を読むな。


「あと、言葉って通じるんですか?」

 何言っているのか分からないのが一番困るし。


「――さあ?」


「は?」


「私も自分の世界に他の世界の人間を呼ぶのは初めてなんで分からないです。でも、こういうのって大体何とかなってるでしょ?だから多分きっと大丈夫ですよ。安心して逝ってください」


「いやいや!安心出来ねーよ!そこは通じるようにしてくれよ!!」

 お前、神様にしては適当すぎるだろ!!

 それと、今絶対に『逝って』ってニュアンスで言ったよな!!


「おっと、そろそろ時間です。早く元の場所に戻さないと、みんな待ってますから」


 さっき、ここの時間は止まってるみたいに言ってたよな?

 それに、お前腕時計してねーし。


「あ、あと、元の世界に戻――」

 足元のふわふわが円形状に無くなって、体がその穴に吸い込まれていく。


「頑張ってくださいねー」


「まんまるー!!いつか絶対にぶん殴ってやるからなー!!」

 神への呪いの言葉を吐きながら、俺の意識は朦朧もうろうとしていった。




 そして、再び目が覚めた時――


「おお!勇者よ!死んでしまうとは情けない!!」


 とりあえず、言葉は通じるようだと安心した。


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