第15話 雨の日
シトシトと降り止むことのない雨を昼休みに教室の窓から眺める。
スマホで見た天気予報だと、今日1日降りっぱなしのようだ。
「嫌だねえ、梅雨の時期は」
深山は俺の隣で窓の縁に頬杖をついた。
「ほんとだよ、雨の日に淫魔どもから追われるとどんだけ大変なことか」
「……さりげなく自慢してくるな」
キッと鋭い目を向ける深山。
でもそんな状況になったら固まるだろお前は。
「そういやそろそろ中間テストの季節だな」
「げ、嫌なこと言うなよ深山。ただでさえ嫌な季節だってのに」
「勉強のほうは順調か?」
「お前の五千倍は順調じゃねーよ」
学年でもトップ3に入る人間と比べるな。
俺が順調だったことなんて小学1年生までだ。繰り上がりや繰り下がりの計算なんてマジでできない。
「んじゃあさ、勉強しないか?」
「勉強?」
俺はあからさまに嫌な声を発したが、深山はそれを意図的に無視していた。
「そ、どうせ雨だし、テストまで後1週間だし、ここでやらない理由はないだろ」
至極真っ当な意見に反論できない。
だが、正論がいつも正しいというわけではない。俺は人間なんだ! 感情に左右されて然るべき!
「おっと、煙玉は使うなよ。……森永先生が珍しく額に青筋立ててたくらいやばいものだからな」
ポケットに入れた手を深山に抑えられた。
澱まない動作だったというのに、こいつ……真の力を隠しているのか?
「ていうか先生がキレる筋合いないけどな」
むしろ俺は先生を救ったと言っても過言ではないだろう。
もしも先生と生徒の禁断の恋愛みたいな感じでバレたらあの人どうすんだよ。
「とりあえず、白鳥先輩の件もあるし、目立たないように勉強はしておいたほうがいいぞ」
「まあ、そうだよな」
あれから2週間、特に嫌がらせを受けるということはないが、なんだか常に人の目を感じるというか、嫌な感じはある。
なにが一番嫌かって、白鳥先輩に近付けないってことが一番嫌だ。
妄想の中でなんとか口に糊をしてきたが、それも限界に近い。
ああ、白鳥先輩の縦ニットとロングスカートが恋しいよう。
くそ、俺はこんなに我慢してるというのに淫魔どもときたら当たり前かのように俺に接触してきやがる。
「よし、この怒りを勉強に向けてやる!」
「お、なんだかよく分からないけど、やる気を出すことはいいことだな」
「あたぼうよ! さあ! 図書室に行くぞ!」
◇
静かな図書室で深山との勉強会。
あまりない光景だが、たまにはこういうのもいいか――
「……で、どうして曽根崎もいるんだ?」
気付けば曽根崎も合わせた3人での勉強会となっていた。
「だって、あたしもレッドポイントギリギリだし」
「ルー大柴みたいな話し方するなよ」
「なによりアラポンと一緒に勉強したかったんだもん!」
曽根崎が急に俺の腕を取り胸を押し当ててきた。
相変わらず柔らかさと弾力を兼ね備えたいい乳だ――
「――じゃなくて! 離れろー!」
「2人ともうるさいぞ。図書室は静かに勉強する場所だ」
なぜか俺まで怒られた。
曽根崎の参加をOKしたのは深山だろうに。
落ち着きを取り戻し勉強を開始してから1時間。
そろそろ本格的に集中力が切れてきた。
「うん……?」
隣の影が大きくなったり小さくなったりしている。
まさか――
「寝てやがる」
深山は気付いてないようだ。
気持ちよさそうに寝てるし、起こすのもかわいそうだな。
そう思って曽根崎を横目で見ていた。
そういえばマジマジと曾根崎を見るのってこれが初めてかもしれない。
なんだかんだいつも追いかけられていて逃げていたからゆっくりと見る機会がなかった。
くるんと綺麗にカールされているまつ毛。
紅色の唇。
ニキビ1つないきめ細やかな小麦色の肌。
ほんと、毎日思うけど、なんでこんな女の子が俺なんかに引き寄せられちゃうのかな。
普通の相手なら、今頃幸せな毎日を送っているだろうに。
曽根崎の綺麗な顔を眺めているうちに、俺の心の水面が石を投げられたように波紋を広げていった。
◇
それからさらに1時間が経過して、今日の勉強会はお開きとなった。
深山はかなり集中して取り組めたと笑顔で語っていた。
……対する俺のノートは半分以上まっさらだった。
下駄箱で靴を履き替える時、あくびをしている曽根崎に話しかけた。
「なあ、曾根崎」
「ふあぁ? なにアラポン」
「なんか……その……すごく自分の体に気を遣ってるんだな」
素直に可愛いと言いたくないがために遠回しな言い方になってしまった。
が――
「そりゃそうだよ。だってぇ、アラポンに可愛いって言われたいからね」
曾根崎は屈託ない笑顔を見せた。
……なんだろう、この気持ち。
俺が好きなのは白鳥先輩ただ1人。それは間違いない。
だが、無性に心を揺さぶられる。
俺の異常性癖が揺れ動いているとでもいうのだろうか。
「……そんなこと、あるはずないよな」
そう1人で呟いて、俺たちは帰宅した。
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