第20話 インフォームドコンセント

 真っ黒おじさんの話によると、首つりおじさんは自殺志願者で、真っ黒おじさんは手伝いをする約束をしていたらしい。



「君にはまだ分からないと思うけど、大人になると、生きるより辛いことがあるんだ。だから、自殺したくなる。自殺はいけないことだという人もいるけれど、そういう人が助けてくれるわけでもない。自殺だけが本人にとってはすくいということがあるんだ。もちろんボクが自殺を手伝っているのはほめられたことじゃない。そんなことは十分分かってる。でも、それでも必要としている人がいて、それが最後のすくいになると信じてるから、ボクはあえて罪をおかしてるんだ。わかるかな?」



 なみだが止まらないおれに、真っ黒おじさんはやさしくほほ笑んだ。



「ヒッ、クッ、聞いても、いいですか?ヒッ、クッ」



 しゃっくりの止まらないおれに真っ黒おじさんはうなずいた。



「ヒッ、クッ、首をつってたおじさんは、最後死にたくなさそうに見えたんですけど…。クッ」



「うん。そうだね。たいていの人はね、苦しくなるとそういう反応をするんだ。だけど、事前に意志をかくにんしてて、もしも苦しそうにもがいても続けてほしいって言われてるんだよ。死にそうな時はふつうじゃないからね。ふつうの理性がはたらかなくなってるんだ。理性のある時の意志をボクはそん重してて、相手にもちゃんとそれを伝えているよ」



 インフォームドコンセントというやつだね、と真っ黒おじさんは言った。



「ヒッ、クッ、でも、殺すって言ってた」


「え?」


「ヒッ、クッ、土管のあたりとかで」



 真っ黒おじさんはしまった!という顔をした。


 顔を手の平でなでると、土下座をし出した。



「ごめん!」


「え?ヒッ、クッ」


「ボクもあせってたんだ。見られてしまうなんて初めてだったし、それに元々口悪いって言われるし、自殺の手伝いをするのはとんでもないストレスでこうふんしててって…とにかくごめん!こんなの言いわけだね。こわい思いをさせてもうしわけなかった!」


「ヒッ、クッ、いいえ!頭を上げてください!わかりましたから。ヒッ、クッ」


「ほんとぉ?ごめんね」



 真っ黒おじさんは頭を上げてから、もう一回ペコリと頭を下げてまたやさしげにほほ笑んだ。



「ヒッ、クッ、とにかく、おれを殺さないんですね?」


「当たり前じゃないか。ボクは殺したくて殺してるんじゃないんだ。すくいたくて自殺の手伝いをしているだけだから、君を殺すなんて絶対しないよ」



 真っ黒おじさんはおれに手をさしのべた。



「もちろん悪いことしていることは分かっているから、いつか警察に出頭するよ。でも、まだまだすくいを求めている人はいっぱいいてね。それが一通りすんだらちゃんと出頭するつもりだよ」



 真っ黒おじさんは信じてほしいと言って、おれの目をまっすぐに見た。その目は真剣だった。



「ヒッ、クッ、わかりました。それまで内しょにしておきます。ヒッ、クッ」



 おれは真っ黒おじさんの手をつかんだ。


 真っ黒おじさんは力強く立ち上がらせてくれた。


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