第19話
最初の頃は一旦ファミレスに集まって作戦会議をしていたはずなのに……!
佳奈は額から流れてくる汗を乱暴にぬぐって足を進めた。
地蔵にたどり着くまでがこんなに大変なことに鳴るなんて、予想もしていなかった。
「まだまだ大量に来やがる!」
大輔がスコップを振り上げたまま前方から現れた化け物へ向かって突撃していく。
「オリャアアア!!」
力任せにスコップを振り下ろして化け物の頭部に突き立てる。
倒れた化け物の頭からスコップを引き抜いて更に頭部へ攻撃続ける。
2、3度
スコップで頭部を攻撃すると、ようやく化け物は動きを止めた。
「大輔、大丈夫?」
近づいて行くと大輔は肩で大きく呼吸をしていた。
「あぁ、大丈夫だ」
再び歩き出そうとしたとき、体がよろけた。
動き回ったせいで足の傷口がスキスキと痛み始めていた。
家を出る前に痛み止めを飲んだのにこんなに痛いとは、傷口が開いてしまったのかもしれない。
「大輔?」
「大丈夫だ、行こう」
大輔は前方を睨みつけて地蔵へと急いだのだった。
☆☆☆
ようやく地蔵にたどり着いたとき、足跡はほとんど消えてなくなってしまっていた。
「嘘でしょ、これじゃ探せない!」
佳奈の顔がサッと青ざめる。
今までは足跡がヒントを残してくれていたのに、難易度が上がるにつれてそれすら失われてしまいそうになっている。
「行くしかない」
大輔が先頭に立ち、微かに残っている足跡の後を追いかける。
どれだけ早足で追いかけて行っても、足跡は途中で完全に途絶えてしまっていた。
そこは住宅街の一角だったが、古い家が多く空き地や空き家も多い場所だった。
「この前の高級住宅街とは大違いだな」
明宏は呟いた。
少し歩く方向が違うだけで、こうも景色が変わるものなのかと驚いている。
「でも、このへんの方が探す場所が多そうだね」
高級住宅街は庭の中も手入れが行き届いていて、探す場所がほとんどなかった。
けれどここは崩れかけた家が木々に覆われていて、森と同じような状態になっている。
その分難易度は高くなる。
「どうする、どこから調べる?」
大輔が振り向いて2人へ向けてそう言ったときだった。
2人の後方に黒い化け物が迫ってきているのが見えた。
大きく目を見開く大輔を見て佳奈は咄嗟に隣の空き地へと自分の身を投げていた。
少し反応が遅れた明宏の体をおしやり、大輔が前へ出る。
「邪魔すんじゃねぇよ!!」
怒号を上げながらスコップを振り上げて化け物へ攻撃を繰り出す。
それは化け物が刃物になった手を振り下ろすのとほぼ同時で、スコップとぶつかり合い強い衝撃が大輔の体に走った。
衝撃に耐えるために両足に力を込めた瞬間、ビリビリとした痛みが傷ついた足に駆け抜けた。
くそっ!
完全に傷が開いた。
咄嗟にそう理解したが今は動くこともでない。
「これでもくらえ!」
明宏がナイフを化け物の横腹に突き刺した。
化け物の力が途端に弱まり、大輔はどうにか化け物を押し返すことができた。
しかし足から生暖かい血液が流れていく感触がする。
立っているだけで脂汗が吹き出してくるような激しい痛みだ。
「明宏、あとはまかせた」
大輔はそう言うと佳奈の逃げ込んだ空き地へと向かった。
足を引きずりながら空き地に入ってきた大輔を見て、佳奈は慌てて駆け寄った。
「大輔、血が!!」
足首からポタポタと流れ出す血に青ざめる。
肩をかして塀にもたれさせるようにして座らせた。
「傷口を見せて」
佳奈に言われて大輔は素直にズボンのスソを上げた。
パックリと開いた傷口に佳奈が息を飲む。
こんな状態じゃ化け物と戦う以前に歩くことだって困難だ。
佳奈は自分のTしゃつに手をかけると下半分を力づくで引きちぎった。
「さすが、鍛えてるだけはあるな」
大輔がそんな佳奈を見て笑った。
「大輔や慎也ほどじゃないよ」
少しムッとして返事をしてから、切り裂いた生地を包帯代わりに大輔の足に巻きつけていく。
「これで少しはマシになるといいんだけれど」
ちゃんと止血される保証はどこにもなかった。
本当は今すぐにでも病院へ行ったほうがいいのに、それもできない。
こんなことに巻き込んでしまった責任は自分にあるのだと思うと、悔しくて言葉もでなかった。
「佳奈のせいじゃない」
佳奈の表情でなにかを察したかのように大輔が言った。
「お守りを持っている人間ならきっと誰でもよかったんだ。佳奈でなきゃいけないのなら、きっとずっと前に巻き込まれてる」
「大輔……」
「って、明宏が言ってた。あいつ頭いいからな」
その言葉に思わず吹き出してしまいそうになった。
大輔らしかぬ慰め方だと思った。
それで少し元気の出た佳奈は勢いよく立ち上がった。
ポシェットの中の爆竹を確認し、片手に包丁を握りしめる。
「大輔はここで待ってて、明宏の様子を見てくるから」
そう言って空き地から出たときだった。
明宏が化け物の体からナイフを抜き取って戻ってくるところだった。
「明宏!」
「化け物はひとまず撃退した。今のうちに春香の首を探そう」
☆☆☆
それから空き地へ戻り、3人で春香の首を探し始めた。
空き地の半分ほどは木々で覆われているため、そこを重点的に調べることにした。
ここならガイコツが埋まっていそうな気配もある。
大輔は立っていることも辛いようで、その場に座り込んで地面付近を重点的に探してくれていた。
移動するときはなるべく足を使わないように、お尻をつけた状態だ。
そんな大輔のためにも早く首を探しだして戻らなきゃ。
佳奈がそう思ったときだった。
木々の向こうから明宏の悲鳴が聞こえてきて顔を上げた。
また化け物!?
反射的に身構えてナイフを握りしめる。
しかし、木々の隙間から顔を出した明宏が「見つけた!!」と、叫んだのだ。
「本当か!?」
大輔が勢いよく立ち上がり、その勢いでまた出血した。
しかし本人は全く気がついていないようで、血が流れ出るのもそのままに明宏へ近づいていった。
木々の隙間に埋もれるようにして春香の首は置かれていた。
青ざめてキツク目を閉じている春香の顔を、大輔はそっと両手で抱きしめる。
「よかった、見つかったんだね」
駆け寄ってきた佳奈がホッと胸をなでおろして言った。
これで今日は地蔵に首がつくこともなさそうだ。
「悪いけど、これはお前らが運んでくれないか?」
春香の頭部を抱きしめたまま、大輔が2人を見た。
「いいけど、どうして? 大輔も一緒に戻るでしょう?」
「あぁ戻る。だけど、戻りにも化け物はウヨウヨいるだろう?」
大輔の言葉に明宏は頷いた。
地蔵へ行く前の道のりにだって出現したのだから、帰りにも出現するに決まっていた。
「俺はこんな状態だ。化け物に会ったら春香の首を落とすかもしれねぇ」
大輔は明宏に春香の頭部を渡した。
明宏は上着を脱いでそれを大切そうに包み込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます