第十四話「嫉妬も背徳も永遠に」8/10(1)


 俺だけ全部見ているのは不公平だからと、優利がパソコン画面を拓真に見せてきた。彼がマウスを操作して【一問一答】のページをスクロールしていくのを眺めながら、拓真は夕食として出された焼き鳥丼もどきを掻っ込んでいる。サラダは先程自分の分で切らしたらしい。鶏肉の残りを丼にしてしまうのは拓真の提案だ。明日への負担を少しでも減らすために、できるだけ洗い物は減らしておきたい。

 時刻は既に日付が変わって三十分程経っている。先に風呂を借りたので、今の拓真は上裸のパンイチ姿だ。身体の水滴をバスタオルで拭いてから、パソコンを操作する優利の隣で遅めの夕食を食べながら画面を覗き込む。パソコンチェアに座りながら食べているので、優利は立ったまま横からマウスを操作しているのだ。

――確かに、優利くんが僕らに対して何書いてるかは気になるけどー……

「なんか交換日記盗み見てるみたいー……」

「お前でもそう思うんやったら、動画的には大成功なんちゃうか?」

「確かにー」

 優利の手が止まり、画面のスクロールも同じように止まる。パソコン画面にはちょうど、優利からの【一問一答】の答えが並んでいて。

「……優利くん、ここ書いてあるん全部ほんまー?」

「多少盛ってることはあっても、まるきり嘘は書いてへん」


【シード】→【グルー】

 【好きなところ】なんも言わんでも通じるところ。人のことよく見てる、気遣い上手の証やと思う。

 【相手のことをかっこいいなと思ったエピソード】真剣な顔して仕事してるとこ見ると、凄腕って言われてるんも納得できる。

 【自分だけが知ってる相手のカワイイところ】たまにすっげー嫉妬深いとこ。満足するまで甘やかしたい。

 【相手からもらったプレゼント】約束込めた指輪。

 【相手にあげたプレゼント】↑と同じ。

 【二人だけの秘密】お揃いの指輪買うん、恥ずかしかった。でも、幸せもあったかなって。

 【記念日】5/12

 【今だから言える出会った時の第一印象とかエピソード】めちゃくちゃチャラそうな奴。見た目はめっちゃ男前やのに、甘えた口調が似合うん不思議やった。

 【次のデートで行きたいところ】水族館とか? なんか魚とか水関係が好きっぽいし。


「ふーん……幸せやったん? へー? 全然そんなん言ってくれへんかったのにー? これほんまにほんまなんー?」

 食べ終わった丼をローテーブルに置いてから、思いっきり背もたれにもたれながら隣の優利を見上げて言う。駄目や、めっちゃニヤニヤしてまう。

「うっさいな。嫌やったら仕事以外ずっとつけんわ。お前はどうやねん?」

 そう言って優利は、お揃いで購入したオーダーメイドのペアリングが光る自分の指に視線を落とす。本命との指輪は、今はお互いしていない。それが正しく背徳の証のように思えて、拓真は優利の指に自分の指を絡ませる。

「僕も幸せ。約束って『永遠』で、合ってる?」

「もちろん」

 上から落とされた甘いキスを受け入れる。いやらしい音を立てて離れる唇が「鶏肉の味がする」と笑うのを見て、改めて『幸せ』を噛みしめた。

「つーか、やっぱ水ってか、海好きなん?」

 微笑みはそのままに、優利が視線をパソコン画面に向けながら言った。

「海は好きやでー? 水着ギャルも日焼けお兄さんも大好物やし、泳ぐんもバーベキューも好きー。いつかはクジラと泳ぎたいねんなー」

「ならそんな感じのクルーズ狙わなあかんな。盆明け落ち着いたら旅行会社行こか」

「ええの? 優利くんマジ男前ー大好きー」

「アホ! お前の奢りやろが」

 さっきまで甘く絡め合っていた指先が、一気にぎゅっと絞められて、また二人でひとしきり笑い合う。本当に幸せで、いつまでも甘えさせてくれる存在。

「……カズへの、見てええ?」

「ええよ。俺もお前らの見て、妬いてもたし」

 頭をぽんぽんと撫でられて。それから小さく息を吐いてから、パソコン画面に目を向けた。

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