第7話 呼び出し
朝起きたら隣にアロルドがいて、ぐっすりと眠っていた。
存在が消えていないか確認したけれど、私にはよくわからなかった。
はっきりと見えるし、さわれる。だけど、他の人からは見えない。
これはどういう呪いなんだろう……。
アロルドの腕輪を見ると、白い石は水色に変化していた。
待っていたら起きるかと思ってながめていたけれど、
アロルドがあまりにもぐっすり寝ているから、起こすのも可哀そうになってきた。
半分身体を起こしたら夜着姿だったのを思い出して、慌てて着替える。
昨日の夜はあまり深く考えなかったけれど、アロルドになんて姿を見せていたんだろう。
薄暗い夜と違って、朝の光の中でこんな姿を見せるのは恥ずかしい。
着替えが終わって戻ってきたら、アロルドが寝返りを打ったのが見えた。
もう起きたかも。
寝台に近づいたらアロルドは私に気がついて驚いた顔をする。
「起きた?おはよう、ルド」
「……あ、ああ。おはよう、エル」
まだ寝ぼけているのか、何度も目を瞬かせている。
昨日もソファで寝ていたし、疲れがたまっているのかも。
今日は学園もお休みだしもう少し寝かせていたほうがいいのか迷っていたら、
カミラとベティが部屋に入ってきた。
「おはようございます、エルヴィラ様。
お食事をお持ちしました」
「あ、おはよう。カミラ、ベティ」
「お食事が終わるころにまた来ます」
二人でぺこりと頭を下げて出て行ったけれど、テーブルには二人分の食事。
え?アロルドの分も用意されている?見えないはずなのに?
「どういうこと?食事が二人分あるんだけど?」
「あー。ここでもか」
「ここでも?」
「いや、オーケルマン公爵家の屋敷でもそうだった。
俺の姿は見えないはずなのに、食堂にいけば食事は用意されるんだ。
だけど、俺の存在は認識していない。
食事が終われば片付けてくれるのに、呼びかけても反応はない。
俺に食事を出しているとは思っていないようなんだ」
「そんなことってあるの?」
「変だよなぁ。まぁ、食事できないのは困るから助かったけど」
存在は認識しないけれど、ちゃんと世話はしてくれる?
ということは、この離れに住んでいても同じなのかな。
こうやって二人分の食事を用意してくれるってことでいいの?
「とりあえず、難しいことは置いといて。
食事にしよう。昨日の夜は食べてないから腹ペコなんだ」
「そうなの?じゃあ、食べながら今日のことを相談しましょうか」
今日はアロルドの服などをオーケルマン公爵家に取りに戻ると言っていた。
すぐ隣の屋敷だから、それほど時間はかからないだろうけど。
できるかぎり離れたくはない。
でも、さすがにカミラにアロルドの服を用意してもらうわけにはいかないよね。
席について食事を始めたところで、ドアをノックされる。
お茶を淹れに来たにしては早い。
「エルヴィラ様」
「カミラ、どうしたの?」
「オーケルマン公爵家から使者が来ました。
エルヴィラ様に手紙を渡して欲しいと」
「手紙?」
カミラから手紙を受け取って、その場で開けて読む。
オーケルマン公爵家の夫人クラリッサ様からだった。
「おばさまからだわ。アーンフェ公爵家の当主として頼みたいことがあると。
……わかったと使者に伝えてくれる?今日の午後にお伺いしますと」
「かしこまりました」
カミラはすぐに部屋から出て行く。本宅のほうで使者は待っているだろう。
お父様に尋問されていないといいけれど。
「母上が何の用だって?」
「オーケルマン公爵家の次期当主を決める立ち合いをしてほしいと」
「あぁ、それか」
「今日の午後に来て欲しいと書かれていたわ。
これで一緒に荷物を取りに行けるわね?」
「確かに。いいタイミングだったな」
いいタイミングと言われるとそうだけど、何かを狙ったわけじゃないと思う。
でも、次期当主を決めるの?アロルドが行方不明だから?
もうあきらめているのだとしたら……。胸が痛い。
「あのさ、母上たちには俺のことを内緒にしておいてくれ」
「え?」
「母上たちは何かあれば魔術師として陛下に呼び出される。
聞かれても知らなければ嘘をつく必要がない。
だから、俺のことは黙っていたほうがいいと思う。
これから何が起きるかわからない。巻き込みたくないんだ」
「……わかったわ。アロルドのことは誰にも話さない」
「ありがとう。頼んだ」
午前中はなるべく隣にいて、少しでも早く精霊の力がたまるように祈った。
二人並んでソファに座り、アロルドに寄り掛かるようにして刺繍を進める。
アロルドは離れにある精霊術の本を読んでいた。
何か呪いを解くものは無いか調べているようだ。
アロルドが頁をめくるたびに腕輪がちらりと目に入る。
水色が濃くなっているような気がしたけれど、確実じゃない。
黒になるまでどのくらいかかるんだろう。
午後になって、馬車に乗って隣のオーケルマン公爵家に向かう。
すぐ隣なのに馬車に乗るのは、異母妹に見つかりたくないから。
精霊たちが邪魔してくれる間に屋敷から出て隣に向かう。
オーケルマン公爵家に着いたら、玄関ホールまでクラリッサ様が迎えに出てきてくれた。
すぐ隣にいる少年はアントンだろうか。
ふわふわな銀髪に緑目。アロルドと色は似ているけれど、雰囲気は違う。
アロルドが氷や水に例えられるのに対して、アロルドは晴れた日の雲のように見える。
「エルヴィラ!久しぶりね!」
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